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最終話 悪役令嬢と王子様の幸せな呪い
しおりを挟む「ディアナ、踊ろうか?」
「……はい!」
フレデリック様が、そっと私に手を差し出したので私はその手を取った。
(フレデリック様と踊るのは初めて!)
嬉しくて思わず顔が綻んだ。
「ディアナ? 何でそんなに可愛いくて嬉しそうな顔で笑っているの?」
「嬉しいからです!」
「…………かっっ」
「フレデリック様?」
私の腰に回されたフレデリック様の腕にグッと力が入った気がした。
「……まさか、ライラック……さんが“お腹を下す呪い”だけを実行していたつもりだったとは思いもしませんでした」
「僕もだよ……確かに手順は同じだったけど……さ」
導き出した結論では、二つの呪いをかけた……だったのにまさか一つだったとは。
踊りながら二人でこそこそ話しながら見つめ合う。
そして、先程までのライラックの引き起こした騒動を振り返っていた。
お腹を下すだけで死んじゃうほど軟弱な私……とは、どういう事!?
さすがに黙っていられずにライラックをその場で尋問した結果、判明したのは、ライラックの実行した呪い間違い。
呆れた私は声も出なかった。
自分が何を作り出し、そしてなぜ呪返しを受けたのかをようやく理解したライラックはかなり大きなショックを受けてそのまま牢屋へと連行。
「人伝に聞いた話であやふやだったから材料を間違えて用意してしまいお腹を壊す呪いのはずが、眠りにつく呪いが完成するとか……恐ろし過ぎるよ」
「……はい」
「退学のうえ、国外追放が妥当かと思っていたけど、あんなの野放しにしたら国どころか世界がめちゃくちゃにされそうだ」
フレデリック様が大真面目に言っている。でも否定は出来ない。
「でも、かなりショックは受けていましたね」
「何か廃人みたいになっていたけどね。ただでさえ老化していたのに更に老ける要素がまだあったなんてなぁ……」
派手なピンク色の髪はショックのせいか白髪になっていた。
ライラックはあの見た目でこの先を生きていく事になる。(多分)
「……ちゃんと謝罪させられなくてごめん」
「え?」
「かなり痛い目は見たとは思うけど肝心のディアナへの謝罪が……」
「……」
フレデリック様はそう言うけれど、ライラックは連行される時、一瞬だけ私を見て小さく何かを呟いていた。
今までとは違う視線だったから、あそこで呟いた言葉は悪いものだったとは思えない。
「とりあえずは反省してくれれば……許すか許さないかは、その後の彼女の生き方次第……ですかね」
「ディアナ……」
「!?」
踊っている最中なのに、フレデリック様が私をギュッと抱きしめる。
これでは他の人の迷惑になるので私達はダンスの輪からそっと離れた。
「……ど、どうしたのですか!?」
「ディアナ。僕は、ディアナの事が大好きだよ」
「は、はい」
改めて告白されなくてももう充分すぎるくらい知っている。
「ディアナ、知ってる? 実は今日が七年目なんだ」
「七年目?」
そう言ったフレデリック様が荷物をゴソゴソ漁って何かを取り出す。
それを見て私はハッとする。
「そう言えば今朝は届いていなかったです……」
「うん、ラストは手渡しにすると決めていたから」
そう言ったフレデリック様が手に持っているのは“お花”
フレデリック様が毎日欠かさず私に贈り続けてくれていたお花たち……
「……ディアナ」
フレデリック様がそっと最後のお花を私の髪に飾る。
最後が髪に飾る花だなんて……フレデリック様はロマンチストだと思う。
「……眠りの呪いの解呪をしたから、実はリセットになってるかもしれないけどね。でも、今日が最後の日だったんだ」
「……私が……フレデリック様に好意を抱く呪い……ですね?」
「うん」
既に私はフレデリック様の事が大好きだったから、不要な呪いだったかもしれない。
それでも……
「大好きです、フレデリック様」
「うん……」
「昨日よりも今日、今日よりも明日……私のフレデリック様への“大好き”はとんどん強くなっていますよ?」
「ディアナ!」
フレデリック様にギュッと抱きしめられる。
この温かい温もりに包まれながら、今度の満月の晩には、あの“虜にする方法”をまたかけてしまおうかしら? なんてこっそり思った。
◆◇◆◇
「呪いの本はもともと昔の王族の方が書いた本!?」
「そうなんだって」
騒動のあと、フレデリック様は陛下たちに自分があの行方不明になっている本を持っていると打ち明けた。
何故、ずっと黙っていた? そう聞かれたフレデリック様は堂々と言い切った。
「大好きなディアナにもっと僕を好きになってもらう為に試したい術がいっぱいあった!」
この言葉に私は赤面し、陛下たちは苦笑いをしていた。
そしてその後、あの本はフレデリック様の管理下に置かれることになったという。
その際に陛下から聞かされたのがあの本の“始まり”についてだったらしい。
「何でも昔、ピンク色の髪の女が現れて“変な力”を使われてしまい、操られて大勢の前で昔から大好きだった婚約者に婚約破棄を告げてしまった王子がいたそうだよ」
「……またピンク」
……何かしらこの既視感。はるか昔に山ほど見たり聞いたりした事のあるような話……
「色々あって、王子は最後に“変な力”を断ち切り正気を取り戻し、ピンク色の女を断罪したはいいけど……大好きだった婚約者には婚約破棄だけでなく暴言も吐いてしまっていたらしい」
「あぁぁぁ……」
「謝って謝って謝り倒すも元婚約者はなかなか許してくれなかったそうだ。そこで自分のかけられた“変な力”について調べていた彼は、それを応用してちょっとした術を元婚約者にかける事にした」
「……つまり?」
「前半部分の、好きな子に素直になれる方法、片思いの人と偶然会える! 片思いの人と話せるようになる、両思いになれる、自分の好きな人を虜にする……等のあの恋のささやかな術は全部その王子が元婚約者にかけたものの記録を纏めたものなんだって」
「……か、かけすぎでは?」
私がそう口にするとフレデリック様も苦笑いする。
「それでね? 僕がずっとディアナにしていた“好意を抱いてもらう方法”あれの期間が七年だったのは、彼が元婚約者に許してもらうまでに費やした期間……毎日花を贈り続けた期間なんだってさ」
「な、長っ……!」
私が驚いているとフレデリック様はクスクス笑いながら言った。
「変な力には一度負けてしまったけど、大好きだったんだろうね」
「……」
「僕だって七年間贈り続けたよ? ディアナが大好きだから」
「フレデリック様……」
フレデリック様の顔が近付いてきたので、私は瞳を閉じてその熱を受け入れる。
「…………んっ」
「ディアナ……」
こうして、フレデリック様のキス攻撃が開始した。
そんなキスの合間に彼は言う。
「今度はどんな“呪い”をお互いかけ合おうか?」
「え? ……あっ」
チュッ……
「お互いがもっと夢中になる方法だけじゃない、ずっと仲良しでいられる方法もあったよ?」
「あ……んん」
チュッ、チュッ……
(それって本を書いた王子様と元婚約者だった女性……最終的にかなりラブラブだったんじゃ……)
「愛してるよ、ディアナ」
「……わ、私もです……」
私は思う。
呪いはあってもなくても、きっと私達は大丈夫。ずっとずっと仲良しでいられるわ。
でも、そういう事ならちょっとだけ試してみたい……かも。
だって、 悪役令嬢とかヒロインとか色々あったけれど、これからもフレデリック様とはラブラブで過ごしていきたいから。
こうして、悪役令嬢と婚約破棄するはずだった王子様は、物語なんてなんのその……
いつだって、ラブラブとイチャイチャしながら、お互い恋する呪いをかけあいながら幸せに暮らしました!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございます!
これで、完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
この話は珍しくタイトルが先に浮かびまして……
最初は悪役令嬢が、ピンクに夢中で自分に冷たい婚約者にがっつり魅了のような呪いをかけて心変わりさせて……
と、思っていたのですが、なんだかしっくりこなくて。
(心変わりする前の浮気者っぽいヒーローが私の中で、こんな奴のどこがいいの? となって駄目だった……)
なので全部とっぱらって子供時代から始まる一途な二人のほのぼの路線にしちゃいました。
そうしたら、呪い(のろい)じゃなくて、お呪い(おまじない)に 笑!
そんなタイトル詐欺のような話となりましたが、楽しんで貰えていたら嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます。
楽しいコメントもたくさんありがとうございました!(返信すみません……)
懐かしい名前の本が出て来てびっくり!
そして、懲りずに開始した新作は、雰囲気を変えて、
主人公が不憫スタートの話です。
『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』
よろしければ、またお付き合いくださいませ!
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