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閑話 : 攻略が上手くいかない! (ルーシェ視点)

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  私、ルーシェが、前世の記憶と共にこの世界の“ヒロイン”だと気付いたのは、私の優秀さと評判を耳にしたエランドール男爵が養子の話を持って来た時だった。

  ──あぁ、だからかと納得した。
  前世の知識さえあれば、この国の学問は余裕。記憶が無くても私は無意識にその知識を活用していたみたい。さすが、ヒロイン。
  ……その分、前世と違い過ぎる文字を書くことに関しては少々苦手だったけれども。

「しかし、乙女ゲームの主人公……ね」

  ふふふ……と私は、ほくそ笑む。
  私は養子となって男爵令嬢になった。でも、それは貴族の中では下位も下位。
  平民だった頃とそんなに変わらない。せっかく貴族になれたのに。
  もっと、豪華なドレスと美味しい物を食べる生活がしたいわ。

  だけど、攻略対象者達は皆、伯爵家以上の貴族。
  
「誰を選んでも私の将来は安泰ね!  編入する日が楽しみだわ」




****



  に私は学院に編入し、攻略対象者達の集う生徒会役員にもなることが決定した。
  ちょっとだけ半信半疑だったけれど、これらの事でやっぱり私がヒロインの世界なのだと確信出来たわ。

「個別ルートに入るまでは、全員の好感度をまんべんなく上げておかないとね!  まあ、とにかく念願のモテモテライフよ!」

  と、思っていたのに。


「ルーシェ・エランドールです。よろしくお願いいたします」
「あぁ、エランドール嬢。よろしく」
「フリーデン様、あの!  マーカス様とお呼びしてもよろしいでしょうか?  私の事はぜひ、ルーシェとお呼びください!」

  私は自分が一番可愛く見えるとびっきりの笑顔で微笑んだ。

「は?」
「え?」

  あれ?  なんか反応がおかしい。
  マーカス様の初顔合わせの時って、もっと優しい反応じゃなかったっけ?

『はは、元気だね、分かった。そうするよ、ルーシェ嬢』
  って笑われながら承諾されるはずなのに。何で?  ニコリともしないんだけど!?

  しまいには盛大なため息を吐かれて、どうでもよさそうに「好きにすればいい」と言われたわ。何なのあれ!!

  実はゲームの世界じゃないとか?  私の勘違いなの?
  そう思って他の攻略対象者達に挨拶したら、他は私の知っているゲーム通りの反応だった。
  ジェイ様も早速“姫さん”と呼んでくれたしね!

「マーカス様はきっと機嫌が悪かったのね!  お忙しい人だもの」

  そう思う事にした。


  ところがだ。

 
「何だか上手くいかない!」

  全員の好感度を上げるべく行動しているのに、何故かあまり手応えを感じない。
  ゲーム通りの行動、言動はしてくれているのにしっくり来ない。

  (ゲームみたいにステータスの画面が見られれば良いのに!)

  特に酷いのがマーカス様だ。
  公爵家の彼は1番の狙いどころ。
  なのに彼だけは私の知らない行動、言動ばかりして全く攻略が進まない。


「そもそもマーカス様は元々が難関なのよね。唯一の婚約者持ち。彼をゲットするには婚約破棄させなきゃいけない。だけどそれが中々面倒なのよね……」

  マーカス様とその婚約者である子爵令嬢フランシスカ。
  子爵令嬢のくせに、ちゃっかりと公爵令息の婚約者に収まってるいけ好かない女。

『フランシスカの事は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど好きかと問われると違う。でも、僕は彼女に負い目があって見捨てる事が出来ないんだ……』

  ゲームのマーカスが言う負い目とは何かしら?
  おそらくそれが理由で婚約し、今も婚約関係が続いているのよね……

  好きかと問われると違う──
  ゲームのマーカスが口にしていたように、実際の二人の関係はそこまででは無さそうだ。

  (だって一緒にいるところなんて全然見ないもの!  なんなら私の方がマーカス様と一緒にいる時間が長いわ!)

  言われなきゃ婚約者だと分かってもらえなそうな程度の関係の女なんて簡単に排除出来る。
  軽く情報入手でもして早い内にさよならしてもらおう。
  そう思ってた。


「マーカス様、マーカス様の婚約者のフランシスカ様ってどんな方ですか?」
「……君には関係無い。それよりもこの資料の誤字が……」

  くっ!  文字は苦手なんだってば!

 
「マーカス様、私、フランシスカ様と話がしてみたいです!」
「断る。彼女を煩わせたくない」
「煩わせるだなんて、そんな事は……ひっ!」

  無言で睨まれた。何で??




  仕方ないので、自分なりに情報入手してみたわ。
  大して可愛くもない外見に、可もなく不可もなくな成績。
  特に秀でている所なんて何も無い。
  ライバルとも呼べないようなつまらない令嬢だった。

「何これ。こんなのが本当に婚約者なの?  マーカス様が可哀想!」

  マーカス様会いたさに生徒会室に突撃してこない点だけは褒めてあげるけど、調べれば調べるほど……

「相応しくないわぁ……」

  やっぱり謎の負い目とやらで、無理やりマーカス様を縛り付けてるわけね。

「ん?」

  調査書の最後にはこう書かれていた。

  ──幼少期に傷を負っている。

「これね!  これだわ!!  よくある話じゃないの。怪我をさせた責任を取ってってやつ!!  うわー、卑怯な手を使ったものね」

  調査書によると、マーカス様の公爵家とフランシスカの子爵家は仕事上の繋がりがあるようだから幼少期からの顔見知りに違いない。実際に婚約が結ばれたのも二人が10歳の時、8年も前だ。
  そこで、何かがあってフランシスカが怪我をした。それをマーカス様の責任にしたんだわ!!



  ちょうど、その頃、私は立ち聞きしてしまった。
『フランシスカに傷さえ無ければ』とマーカス様が口にしていたのを。
  その前後に何を言っていたかは聞き取れなかったけれど、やはりフランシスカが傷を負っているのは間違いないみたい。


「やっぱり、こんな卑怯な手を使う女からはとっとと、私が解放させてあげなきゃね!」

  私はそう決意した。





  そんなマーカス様の様子が変わったのは、あの女……フランシスカが裏庭で倒れた後からだった。

  皆で語らっていた時、悲鳴が聞こえた。
  何事かとそちらに目を向けると、フランシスカが倒れていた。

  その瞬間のマーカス様は顔を真っ青にして「……フラン!?」と何故か愛称で呼び、物凄い勢いで彼女の元に駆け付けた。
  青白い顔のまま「フラン!  しっかりしてくれ!!」と泣き叫ぶように呼びかけるマーカス様の姿は本気で彼女の心配をしているように見えた。

  (……はぁ?  何なの、あの心配の仕方……実は仲良しですとか言わないわよね?)

  そのまま彼女を横抱きにして医務室に運び、家まで送り届けると言って馬車の手配をしたマーカス様。
  午後には大事な会議があったのに。彼はその全てをあの女のために欠席した。
  マーカス様が会議に出ないなんて初めての事だった。


「マーカスは俺達にも、婚約者を紹介してくれないんだよ」

   そう言ったのは会計のラルフ様。

「何だっけ? 僕達に会わせたら彼女の目が汚れるとか、中々僕らに対して失礼な事を言ってたよね~」

  と、笑いながら言ったのは書記のロン様。

「それだけ大事なんだろ、あのお姫様が」

  ジェイ様もニヤニヤしながらそんなことを言う。


  はぁぁ!?  嘘でしょう?  大事?  あんな卑怯な手を使う女が??
  信じられなかった。

  だけど、その言葉を裏付けるかのようにマーカス様はあの女に構うようになった。
  私に対しては相変わらず塩対応なのに。

  ……おかしい。
  こんなの絶対におかしい。

  だから、私は直接フランシスカに会いに行く事にした。
  しかし、朝はマーカス様に阻まれまともに顔すら見れなかった。

  (何なのあの庇い方!!  腹立つわ)

  マーカス様がいる所では駄目だ。そう思って昼休みを狙って会いに行った。この時間ならマーカス様の邪魔も入らない。

  そうして対面したフランシスカは、本当にどこが良いのか分からない女だった。
  やっぱり何もかもが私の方が優れている。

  とにかくこれ以上、二人に仲良くされては困る。攻略が進まず私がハッピーになれないからね。
  だから、揺さぶりをかける事にした。
 
  嘘を混じえて“傷”の話をしたら、案の定、動揺していた。
  実はフランシスカのどこに傷があるのか私は知らないけど、その“傷”さえ無ければ、マーカス様の婚約者にはなれなかったのだとさすがに思い知ったはず!

  青白くなったフランシスカの顔を見て私はざまぁみろと思った。





  ──なのに!

  おかしい。完全に二人の空気が変わった。
  婚約破棄どころじゃない。
  しかも、マーカス様はフランシスカの事を“愛してる”とまで口にした。

  あんなセリフ、ゲーム内でも聞いたことが無いんだけど!


  あれではまるで……二人が恋人同士……


  どういう事よ……!!  ヒロインは私なのに!!
  婚約破棄されるはずの女が、愛されてる?
  そんな事があっていいはずがない。


「どんな事をしても戻さなくちゃ……正しい道へ」



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