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第24話 最恐伯爵の教えと姉王女の企み
「もう一つの精神面ボコボコだがこれは、社会的な抹殺だ!」
「社会的抹殺……!」
物理的ボコボコは痛そうだけど、長い目で見るとこちらの方がダメージが大きそう!
(それにしても、伯爵……すごいわ)
さすが、伝説と呼ばれるだけある。
と、わたくしは思った。
目を輝かせて話を聞くわたくしに、伯爵は厳ついお顔を更に厳つくして笑った。
「王女殿下のその表情……どうやら物理的なボコボコと精神面でボコボコにしたい人が、それぞれいらっしゃるようだ」
「!」
その言葉にわたくしはドキッとした。
伯爵には隠しごとが出来そうにない……
そう思ったので、おそるおそる訊ねてみる。
「あの……前にフィオナ様が……」
「むっ? フィオナが?」
「姑息なことしか出来ない人間の一番悔しがること……の話をしてくれました」
「おお!」
伯爵の顔がそれは面白そうだという表情になる。
孫娘にどこまで自分の教えが浸透しているのか気になる所……なのかもしれない。
……あの時、フィオナ様はこう言っていた。
「───わたくしが誰よりも幸せになることです、と。つまり、それが精神面でのボコボコということでしょうか?」
「!!」
わたくしのその言葉に、伯爵は厳ついお顔を五倍増しくらいに厳つくして笑ってくれた。
すごい迫力!!
けれど、わたくしには分かる。
ちょっと怖がられてしまいそうなくらい迫力のあるこの表情は“正解”と言っている。
「───その通りだ! フィオナもしっかり理解しているではないか! さすが私の孫!」
「やっぱり! 伯爵の教えからの言葉だったんですね!」
わたくしが笑顔で答えると伯爵も嬉しそうに頷き、そして笑った。
けれどその後、何か言いたそうな表情に変わる。
「?」
「……シンシア王女殿下。私は思い立ったら即行動タイプなので、はっきり言わせてもらう」
「は、はい……」
何かしら?
わたくしはゴクリと唾を飲みこんで次の言葉を待つ。
「フィオナから王女殿下が国で“当て馬姫”と呼ばれていたという話を聞いた」
「え! ええ、はい」
「その時、フィオナは濁してはっきり“黒幕”を口にしなかったそうだが私は言わせてもらうぞ!」
「え……? 黒幕……」
それって、最初にわたくしのことを“当て馬姫”と呼んだ人物のこと──……よね?
「黒幕は誰か……ジュラール殿下にエミール殿下。そしてフィオナも……皆、思っていることは、ただ一つ!!」
「!」
「……王女殿下も本当は薄々、分かっているのではないか?」
「あ……」
それが誰なのかは、あまり考えないようにしていた。
だって考えれば考えるほど行き着くのは一人だけだったから……
「……縁談のために遠く離れた国へと単身出向いている妹を心配して姉がやって来る───そう聞いても王女殿下は全く嬉しそうではない」
「……はい」
むしろ……何をしに? 何のために?
そんな気持ちの方が強い。
「はっきり言おう! 我々はその黒幕は“姉王女”だと思っている」
「あ……」
(やっぱり……!)
「王女殿下も本当はそう思っている。だろう?」
「…………は、い」
わたくしがそっと頷くと、伯爵は豪快に笑った。
「───よし! そうと決まればやることは一つ!」
「え? ひ、一つ……?」
「“ボコボコ”にしてさっさと国に送り返す、だ!」
「ボコボコ!」
なるほど! そこに先程の“教え”が活かされるのね!
「そうだな。姉王女が連れて来た軟弱そうな男は……ふむ、王女殿下が一撃を食らわした後は私が引き受けよう」
「え?」
「大丈夫だ! 少し前にも軟弱浮気男をこの手で鍛えたからな!」
伯爵がとってもいい笑顔でムッキムキの腕を見せた。
(そ……それって、フィオナ様の……元婚約者のこと?)
「もっと遡れば、娘を棄てた浮気小僧を……むっ? いや、あれは鍛えた……とは違うな」
(そ、それは、まさかの米俵の話!?)
米俵は気になりすぎるので、無性に詳細が聞きたくなった。
ああ、時間さえあれば……!
けれど、こんなにも心強い味方はいないとわたくしは心から思う。
ジュラールもエミール殿下もフィオナ様も……
わたくしのお姉様とダラスへの複雑な気持ちを感じ取って動いてくれている。
(ただの縁談相手のわたくしに……こんなに優しくしてくれるなんて……)
嬉しくて感激しているとそんなわたくしの気持ちを感じ取った伯爵は言う。
「むっ? 王女殿下。私たちが王女殿下の為に動いているのは、皆、王女殿下のことが好きだからだ」
「え!?」
その言葉にわたくしは驚いて顔を上げて伯爵をじっと見つめると、伯爵は迫力のある笑顔でわたくしを見た。
「そうだろう? “サスティン王国の王女”という存在が欲しいだけなら……まぁ、婚約者がいるのは問題だが、姉王女だっていいはずなのだ」
「……」
「だが、私たちはシンシア王女殿下、あなたのことを気に入った。だからこうして動いている!」
「わ、わたくしを……?」
(気に入った……?)
「フィオナなんて、可愛い可愛いと大はしゃぎだ。ジュラール殿下なんて、これまた面白いことになっているではないか!」
「え、面白……?」
「完璧王子の顔がベリベリと剥がれている! あれはいいことだ。シンシア王女殿下のおかげだな!」
「……」
当て馬姫なんて呼ばれて、誰からも選ばれなかったわたくし……を。
気に入ってくれて、認めてくれて……
その言葉が嬉しくて頬が緩む。
(嬉しい……幸せ……)
「ははは、その顔はジュラール殿下に見せてやれ。顔を真っ赤にして泣いて喜ぶぞ!」
「?」
わたくしが首を傾げていると、伯爵はニヤリと笑った。
「そういうことだから、王女殿下は気兼ねなく姉王女を精神面でボッコボコにするといい!」
「お、お姉様を精神面でボコボコ……」
わたくしに出来るかしら……?
拳で殴るのとは違うのよね? どうやって……?
戸惑うわたくしに伯爵はとっても厳つい笑顔で言った。
「──なに、心配はいらん。姉王女を精神的にボコボコにする方法はとってもシンプルで簡単だ!」
「か、んたん!?」
「ああ!」
(どうしてかしら……?)
伯爵のその厳つい笑顔を見ていたら何でも上手くいくような気がした。
◆◆◆
「ふぅ……」
───無事にプロウライト国に到着した。
挨拶を終えたエリシアは滞在用の部屋に案内されるとソファに腰を下ろし、息を吐いた。
「私の印象づけは、まずまずかしらね?」
(出迎えにシンシアが現れなかったことは誤算だったけど……)
その代わり、たくさん私のことをアピールすることが出来た。
「ふふ、やっぱりジュラール殿下とシンシアの縁談は上手くいっていないのよ」
王宮に着いた時、何だか妙に城内の空気が甘い気がした。
一瞬、まさかシンシアと殿下が? ……と思ったけれど私の勘違いだったみたい。
「───シンシア。また“当て馬”になって頂戴ね? あなたの可愛い顔はそのためにあるんだから……」
そう呟いた時、部屋の扉がノックされた。
誰かなんて聞かなくても分かる。
「───あら、ダラス。どうかした?」
「エリシア」
私はダラスを部屋に招き入れる。
ここからはダラスにも動いてもらわなくちゃ。
「シンシア、出迎えに居なかったな」
「ええ。やっぱり……思った通り。元気ですと言ってくれていたけれど、弱小国の姫だから、いい扱いを受けていないんだと思うわ……」
私は静かに涙を流す。
「エリシア……それで、自分が身代わりになろう……だなんて」
「ごめんなさいね、ダラス。それが姉である私の役目なの……可愛い妹を守れるのは私だけだもの」
「エリシア……!」
ダラスは私を抱きしめようと腕を伸ばしたけれど、グッと思いとどまっていた。
(───そうよ、もうあなたが触れていい私じゃないのよ!)
私はこの国のいずれ王妃になる身なのだから!
「ダラス……シンシアはあなたのことが忘れられずにずっとずっと密かに想っているの。早く助けてあげて?」
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「……っ」
(ふんっ、図星のようね。やっぱり顔なのねぇ……)
「だが……今さら……」
「……大丈夫よ。今さらなんてことはないわ! 振ったことを後悔しているとちゃんと伝えて……そうね、抱きしめてちょっと強引にキスの一つでもしてあげれば……シンシアのことだもの。すぐに許してくれるわ!」
「そう……か。だがキス……さすがに無理やりするのは……」
「大丈夫よ。無理やりでも好きな男にされて嫌がる人なんていないわ! むしろ、嬉しいわよ!」
「!」
───良かったわ。単純な男はその気になったみたい。
ダラスはシンシアと共に帰国するのよ。
そして、代わりに私がジュラール殿下の妃となるためにここに居残る───
荷物もたくさん持ってきたし、これで計画は完璧!
私はそう信じて疑っていなかった。
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