25 / 49
第25話 お怒りです!
しおりを挟む◆◇◆
───その頃のサスティン王国。
国王、王妃、王太子が食事を摂っていた。
王女二人がいないだけで随分と寂しい食事の席に感じ、そして会話は自然と二人についての話になっていく……
「……エリシアは無事にプロウライト国に着いてシンシアに会えただろうか」
「父上。無事に到着したら手紙を送りますと言っていたので、もうすぐ届くのでは?」
「……それもそうだな」
出発して日数的にもそろそろ到着した頃だ。
「いつものことだが……エリシアは本当にシンシアのことになると熱心だな」
「何でしたっけ? ───私の怠慢でシンシアを危険に晒してしまったから心配で居てもたってもいられないわ! だから会いに行きたいの──でしたっけ?」
「ああ、泣きながらそう言っていた」
だが……と、国王は思った。
(今更……ではあるが──)
確かにエリシアがルートの最終確認を怠ったことで、シンシアが危険な道を通る寸前だったと聞いた時は肝を冷やし、エリシアを責めた。
だが、シンシアの機転で危険なルートは回避し、無事に国境を越えて行ったと報告もあったのだ。
謝罪はすべきだが追いかけてまでする必要はあったのか? 帰国後では駄目だったのか?
もしくはそんなに気になるなら先に手紙で謝罪でもよかったのではないか……?
「まぁ、エリシアは一度こうと決めたら頑固ですからね」
王太子はそう言いながら苦笑した。
「───シンシアへの謝罪のためだけに向かった……にしては随分と大荷物だったわねぇ……」
「ん?」
「母上?」
そこに珍しく王妃が口を開く。
「あら? 二人揃ってなんて間抜けな顔をしているの? 馬車に乗せていたエリシアの荷物。多かったでしょう? それにエリシア付きのメイドの話によるとエリシアはお気に入りのドレスも持っていったみたいよ?」
「……荷物」
「お気に入りのドレスを……?」
国王と王太子は、顔を見合せてなぜ……? と、首を傾げる。
エリシアはすぐに帰ってくるわと言っていたのに。
「ドレスの件はよく分からないが、長旅になるから荷物が多くなっただけ、ではないのか?」
「そうね。でもあれだと───シンシアではなくて、まるで、エリシアが“嫁入り”するみたいだったわね」
王妃は淡々とした表情でそう口にした。
「は、母上……変なことを言わないでくださいよ! エリシアにはダラスがいるんですよ?」
王太子は必死になって否定した。
それにエリシアはその婚約者のダラスと共にプロウライト国に向かっている。
「そ、そうだぞ! プロウライト国との縁談はシンシアで話をしている」
「……」
それ以上は何も言わず、王妃は黙り込む。
国王と王太子は再び顔を見合わせるも互いの瞳はどこか揺れていた。
───エリシアは昔から妹思いのいい姉で……
(……本当にそうか?)
───遠く離れた国に訪問中の妹のことが心配で謝罪のついでに様子を……
(……だが、こたびの縁談の話、エリシアは妙に食いついていなかったか? ──そう。まるで自分の縁談かのように……)
二人は今まで当たり前のように思い感じていたことが、まるで間違っていたかのような感覚に陥っていく。
まるで悪い夢から覚めたかのような───
国王や王太子がそんな違和感を覚え始めた翌日。
プロウライト国の王子ジュラールからの手紙がサスティン王国の国王宛に届いた。
◇◆◇
伯爵との特別講義が終わり、挨拶を終えたお姉様とダラスが部屋に向かったという連絡を受けたわたくしは、慌ててジュラールたちの元に向かい合流した。
そして合流した時の皆の顔は明らかに怒っていた。
「あ、あの……」
「シンシア! おかえ……」
わたくしがおそるおそる声をかけ、ジュラールが微笑みながら応えようとしてくれたその時。
「────何だったのあの人っっっ! 許せなーーーーい!!」
フィオナ様のそんな叫び声と共にドゴォォンとすごい迫力の音が響いた。
わたくしはギョッとしてフィオナ様に視線を向ける。
なんと! 怒りの表情のフィオナ様が床を殴っていた。
(え、えぇぇえ!?)
わたくしはその光景に唖然とし言葉を失う。
「……フィオナ」
「止めないで、エミール様! 私はどうしても許せないの! あれのどこが妹思いの姉なの!?」
妹思いの姉──どうやら、フィオナ様はお姉様に怒っているらしい。
「本当に妹を思う姉はあんなことは言わないわ!!」
ドゴォォォン……
フィオナ様の二発目の拳が床に向けられ、再びすごい音が部屋に響く。
(フィオナ様……手! そんなことをして手は大丈夫なの!?)
わたくしがハラハラしていると、横にいた伯爵がポンッとわたくしの肩を叩いた。
「大丈夫だ。フィオナはちゃんと自分の手を痛めないようにして殴っている」
「そ、そうなのですか……」
「しかし、フィオナのあの荒ぶり方は珍しい。よほど許せなかったのだろう」
「……」
いったいお姉様は皆に何を言ったのかしらと不安になった。
「うん。分かってるよ、フィオナ。君は家族思いだから、あの言動に態度……余計に許せなかったんだよね?」
「エミール様……」
フィオナ様が小さく頷くとエミール殿下に勢いよく抱きついた。
エミール殿下はそんなフィオナ様を優しく包み込むように抱きしめて宥めていた。
(すごい! ……これこそ“愛”だわ)
「シンシア」
「!」
わたくしが、そんな二人に見惚れているとジュラールが隣にやって来た。
「大丈夫だ。フィオナ妃のことはエミールに任せよう」
「は、はい……ですが、お姉様はそんなにフィオナ様を怒らせるようなことを口にしたのですか?」
わたくしの知る限り、お姉様は初対面なのに人を不快にさせるような言動や態度は取らない。
なのに?
「……怒っているのはフィオナ妃だけじなない。僕もだ。もちろん、エミールも」
ジュラールは眉間に皺を寄せてそう言った。
「お姉様は皆さんに何を言ったのですか?」
わたくしが訊ねると、ジュラールが悲しそうに笑う。
「とにかく不快なことだよ。シンシアを大事な妹だと庇うフリをして貶めるようなことを平気で言ってのけた」
「あ……」
わたくしが顔を伏せるとジュラールは言った。
「シンシア、そんな顔をしないでくれ」
「ですが……」
「……いや、彼らがどんな人間性かはよく分かったからね。これで心置き無くエリシア王女とダラスとかいう男をボコボコに出来る」
「ボ……」
(ボコボコ……)
「シンシア。彼らをボコボコにする舞台はもう決めてある」
「え?」
「明日、急だけど簡単な二人の歓迎パーティーを開こうと思うんだ」
「パーティー!?」
わたくしが驚きの声をあげると、ジュラールはニッコリと笑った。
「せっかく遠路はるばる、縁談相手でもない王女様がやって来てくれたんだ。歓迎しないといけないだろう?」
「そ、それは、そうですが……」
「だから、ちょっと予定を変更して……シンシアとの対面も今夜ではなくそのパーティーでの場にしようかなと思っているんだけど、構わないだろうか?」
「え?」
予定では今夜にも対面するはずだったのに?
「わ、わたくしは構いませんが……」
だって何も自ら進んで会いたいとは思わ……思えないもの。
「よし、それなら決まりだ」
(まさかのパーティー……)
チラッと伯爵を見たらとても厳つくていい笑顔で頷いている。
その顔でわたくしはハッと思い出す。
──そうだったわ!
お姉様を精神面でボコボコにする方法。
伯爵に言われたことをジュラールにお願いしなくちゃ!
「ジュ、ジュラール!」
「うん?」
「で、では明日のパーティー……で」
「明日のパーティーで?」
ジュラールは不思議そうに首を傾げている。
一方のわたくしは、頬にジワジワと熱が集まって来ているのが分かる。
(どうしましょう。すごく、は、恥ずかしいわ……でも、言わなくちゃ!)
───お姉様を(精神面で)ボコボコにするためだもの!
わたくしは、えぇい! と、気合を入れて口を開く。
「───わ、わたくしとイチャイチャしてくださいっ!!」
184
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる