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第35話 今後のこと
◆◇◆
その頃のサスティン王国の国王は頭を抱えていた。
「……この手紙の内容は、本当なのだろうか?」
娘のシンシアの縁談相手でもあるプロウライト国のジュラール王子から送られて来た手紙。
その内容は国王に大きな衝撃を与えていた。
最初に手紙が届いたと聞いた時は、シンシアに何かあったのかと心配したが、元気で過ごしているという。
しかし……
「……エリシア」
ジュラール王子からの手紙にはなぜか、シンシアではなく、エリシアのことが書かれていた。
「ずっと妹思いの優しい姉だと信じていたが……疑問を持ったタイミングでこの手紙……」
エリシアが帰国し、戻ってくる前にエリシアについて調査をするようにと王子は手紙で催促してきている。
娘のことを疑いたくはないが疑問が浮かび上がっていることは事実だ。
そのことに国王は大きなため息を吐いた。
「しかし、なぜジュラール殿下はこんな話をわざわざ我々に?」
───シンシア姫をこれ以上、姉王女のせいで苦しませ、悲しませたくない。
この言葉の意味は……
「この手紙でははっきり書かれてはいないが……まさか、シンシアはお妃に選ばれた……のか?」
◇◆◇
まさか、自国でお父様がそんな風に頭を悩ませていたなんて、知りもしないわたくしは───……
「ん……」
「シンシア……」
チュッチュッとジュラールからのキスがたくさん降って来る。
(もうキスをされるの何回目かしら?)
ジュラールの容赦ない甘い甘い攻撃に頭の中がトロントロンに蕩けていた。
もう、身体もピリピリし過ぎておかしくなりそう。
「……刺激……が強すぎて、シンシアがいないと生きられない身体になりそうだ……」
「わ、たくしも……です」
同じことを考えていたと分かり、わたくしたちは、ふふふっと笑い合う。
「……そろそろ、会場に戻らないとなぁ……エミールに怒られる」
「はい……」
「シンシア?」
「あ、いえ……その……」
なんだか名残惜しくて、少しだけしょんぼりしたら、ジュラールがそっとわたくしの耳元で囁いた。
「それなら……今夜はシンシアの部屋に僕が夜這いしようか?」
「よっよよよよ~~~!?」
わたくしの顔がボンッと赤くなる。
「ははは、可愛い! ほら、公開プロポーズしたからね、誰も反対なんてしないんじゃないかな?」
「も、もう! そういう問題ではっ…………んっ!」
わたくしの抗議の声はチュッと唇で塞がれる。
「分かっているって。そういうことはちゃんと正式に婚約してからじゃないとね」
「……婚約? 結婚してから……ではないの?」
「……」
なぜかそこでジュラールが黙り込む。
「──可愛い可愛い僕のシンシアに質問だ」
「は、い?」
「こんなにも可愛くて可愛くて魅力的なシンシアを前にして、僕が結婚まで耐えられると本当に思う?」
「え……」
ジュラールはそう言ってギュッとわたくしを抱きしめる。
「エミールがなんであんなに早く結婚したがっていたのか……今なら分かる…………羨ましい」
「……」
王族は通常より結婚には時間がかかるもの。
それに加えて、ジュラールは王太子にもなる人だから……
エミール殿下のように予定を早めるというのは難しいのだと思われた。
(そそそそんなにも、早くわたくしと結婚したいと思ってくれている……のよね?)
その気持ちが嬉しくて擽ったくて頬が緩んでしまう。
「シンシア? なんでそんな可愛い顔で笑っているの?」
「う、嬉しくて……です」
そう言いながらわたくしも腕を伸ばしてジュラールの背中に腕を回す。
「シンシア……」
「えっと、わたくしたちは結婚? までは時間がかかるかもしれません……が、それまでは、こ、恋人です!」
「恋人……」
「ですから、結婚するまでは恋人として、イ、イチャイチャして過ごしましょう?」
「~~~……っっっ!」
わたくしのその言葉に、ジュラールもボンッと音を立てて真っ赤になり天を仰いでいた。
────
「え? ジュラールも一緒にサスティン王国に来てくれるのですか?」
「うん」
そうして、ようやく会場に戻ることにしたわたくしたち。
火照りに火照った頬を冷ますために、手を繋ぎながら廊下をゆっくり歩く。
ジュラールはわたくしを妃に選んだことを直接、正式にお父様たちに話をしたいのだと言う。
そのため、わたくしの帰国に合わせて一緒に国に行けるよう調整すると言っている。
ちなみに、監視の意味も込めてお姉様とダラスの強制送還も一緒にまとめて行うつもりらしい。
「お父様は反対なんてしませんよ?」
国内でのわたくしの縁談相手が望めなくなってかなりガッカリしていたんだもの。
貰い手が出来たことや国同士の繋がりが出来ることにも喜ぶ……はず。
「それでも、だよ。それに……」
「それに?」
「さっき、言っただろう? エリシア王女の本性はサスティン王国の人たちに知ってもらわないとって」
「あ……はい」
(要するにお姉様がわたくしを当て馬姫と呼び始めて広めたこととか……よね?)
「実は……その下準備として、サスティン王国の国王宛てに手紙を送っているんだ」
「……え?」
「勝手にごめん。だけど、どうしても僕はシンシアが軽んじられていることが許せなくて」
「ジュラール……」
サスティン王国の人たちは、みんな、面白可笑しくわたくしのことを“当て馬姫”だと呼んでいたのに、ジュラールもフィオナ様も……この国の人たちはこうして怒ってくれるのね?
(わたくしは幸せ者だわ……この国に……プロウライト国に来て良かった)
心からそう思えた。
「ありがとう! ジュラール!」
「……シンシア」
「帰国したら、わたくしもきちんと話すことにするわ」
ジュラールがしっかり強く手を握ってくれたので、わたくしもしっかりその手を握り返した。
───そして、会場に戻ると……
「……わたくしたちが会場出ていく前とあまり変わっていないですね?」
「うん。エミールが無難に進行してくれたんだと思う」
「そうですね」
ダラスは相変わらず泣きながら隅っこで伯爵にトレーニングをさせられているし、会場の人たちは人たちで好きに楽しく過ごしている。
(お姉様は……)
さすがにもうブルブル震えてはいなかったけれど、誰からも相手にされずに壁の花になっていた。
わたくしの知っているお姉様はいつだって人に囲まれて堂々としていて、話も上手くて……
(お姉様のあんな姿、初めて見たわ)
「エミール!」
「あ、おかえり、ジュラール。本当にちゃんと戻って来たんだね?」
「───当たり前だろう!!」
お姉様のことを見ていたら、いつの間にかエミール殿下がそばに来ていた。
二人の仲の良さにホッコリした気持ちになる。
「あれ? フィオナ妃はどこに行ったんだ?」
そういえば姿が見えない。たいていエミール殿下といつも一緒にいるのに……
「あぁ、フィオナは軽い脅しでそこの壁を殴っちゃったから手を洗いに行ってるよ」
「「え!」」
わたくしとジュラールの声が完全に重なった。
「……脅しで」
「壁を……?」
おそるおそるわたくしたちが聞き返すと、エミール殿下はどこかうっとりした笑顔で頷く。
「うん。やっぱり僕のフィオナはかっこいいよね! エリシア王女の顔、完全に引き攣ってたよ」
「……そう、か。相変わらずだな、うん」
(フィオナ様……すごいわ)
「わたくしももっと特訓したらフィオナ様みたいになれるでしょうか?」
「えっ!?」
わたくしが真剣かつ真面目な顔でそう口にしたら、なぜかジュラールが涙目になっていた。
────そんなこんなで、お姉様の歓迎パーティーなのか、わたくしたちの婚約パーティーなのかよく分からなくなったパーティーは終わり……
わたくしとジュラールは正式な婚約話をまとめるため、わたくしのサスティン王国への帰国とお姉様たちの強制送還の日がやって来た。
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