35 / 49
第35話 今後のこと
しおりを挟む◆◇◆
その頃のサスティン王国の国王は頭を抱えていた。
「……この手紙の内容は、本当なのだろうか?」
娘のシンシアの縁談相手でもあるプロウライト国のジュラール王子から送られて来た手紙。
その内容は国王に大きな衝撃を与えていた。
最初に手紙が届いたと聞いた時は、シンシアに何かあったのかと心配したが、元気で過ごしているという。
しかし……
「……エリシア」
ジュラール王子からの手紙にはなぜか、シンシアではなく、エリシアのことが書かれていた。
「ずっと妹思いの優しい姉だと信じていたが……疑問を持ったタイミングでこの手紙……」
エリシアが帰国し、戻ってくる前にエリシアについて調査をするようにと王子は手紙で催促してきている。
娘のことを疑いたくはないが疑問が浮かび上がっていることは事実だ。
そのことに国王は大きなため息を吐いた。
「しかし、なぜジュラール殿下はこんな話をわざわざ我々に?」
───シンシア姫をこれ以上、姉王女のせいで苦しませ、悲しませたくない。
この言葉の意味は……
「この手紙でははっきり書かれてはいないが……まさか、シンシアはお妃に選ばれた……のか?」
◇◆◇
まさか、自国でお父様がそんな風に頭を悩ませていたなんて、知りもしないわたくしは───……
「ん……」
「シンシア……」
チュッチュッとジュラールからのキスがたくさん降って来る。
(もうキスをされるの何回目かしら?)
ジュラールの容赦ない甘い甘い攻撃に頭の中がトロントロンに蕩けていた。
もう、身体もピリピリし過ぎておかしくなりそう。
「……刺激……が強すぎて、シンシアがいないと生きられない身体になりそうだ……」
「わ、たくしも……です」
同じことを考えていたと分かり、わたくしたちは、ふふふっと笑い合う。
「……そろそろ、会場に戻らないとなぁ……エミールに怒られる」
「はい……」
「シンシア?」
「あ、いえ……その……」
なんだか名残惜しくて、少しだけしょんぼりしたら、ジュラールがそっとわたくしの耳元で囁いた。
「それなら……今夜はシンシアの部屋に僕が夜這いしようか?」
「よっよよよよ~~~!?」
わたくしの顔がボンッと赤くなる。
「ははは、可愛い! ほら、公開プロポーズしたからね、誰も反対なんてしないんじゃないかな?」
「も、もう! そういう問題ではっ…………んっ!」
わたくしの抗議の声はチュッと唇で塞がれる。
「分かっているって。そういうことはちゃんと正式に婚約してからじゃないとね」
「……婚約? 結婚してから……ではないの?」
「……」
なぜかそこでジュラールが黙り込む。
「──可愛い可愛い僕のシンシアに質問だ」
「は、い?」
「こんなにも可愛くて可愛くて魅力的なシンシアを前にして、僕が結婚まで耐えられると本当に思う?」
「え……」
ジュラールはそう言ってギュッとわたくしを抱きしめる。
「エミールがなんであんなに早く結婚したがっていたのか……今なら分かる…………羨ましい」
「……」
王族は通常より結婚には時間がかかるもの。
それに加えて、ジュラールは王太子にもなる人だから……
エミール殿下のように予定を早めるというのは難しいのだと思われた。
(そそそそんなにも、早くわたくしと結婚したいと思ってくれている……のよね?)
その気持ちが嬉しくて擽ったくて頬が緩んでしまう。
「シンシア? なんでそんな可愛い顔で笑っているの?」
「う、嬉しくて……です」
そう言いながらわたくしも腕を伸ばしてジュラールの背中に腕を回す。
「シンシア……」
「えっと、わたくしたちは結婚? までは時間がかかるかもしれません……が、それまでは、こ、恋人です!」
「恋人……」
「ですから、結婚するまでは恋人として、イ、イチャイチャして過ごしましょう?」
「~~~……っっっ!」
わたくしのその言葉に、ジュラールもボンッと音を立てて真っ赤になり天を仰いでいた。
────
「え? ジュラールも一緒にサスティン王国に来てくれるのですか?」
「うん」
そうして、ようやく会場に戻ることにしたわたくしたち。
火照りに火照った頬を冷ますために、手を繋ぎながら廊下をゆっくり歩く。
ジュラールはわたくしを妃に選んだことを直接、正式にお父様たちに話をしたいのだと言う。
そのため、わたくしの帰国に合わせて一緒に国に行けるよう調整すると言っている。
ちなみに、監視の意味も込めてお姉様とダラスの強制送還も一緒にまとめて行うつもりらしい。
「お父様は反対なんてしませんよ?」
国内でのわたくしの縁談相手が望めなくなってかなりガッカリしていたんだもの。
貰い手が出来たことや国同士の繋がりが出来ることにも喜ぶ……はず。
「それでも、だよ。それに……」
「それに?」
「さっき、言っただろう? エリシア王女の本性はサスティン王国の人たちに知ってもらわないとって」
「あ……はい」
(要するにお姉様がわたくしを当て馬姫と呼び始めて広めたこととか……よね?)
「実は……その下準備として、サスティン王国の国王宛てに手紙を送っているんだ」
「……え?」
「勝手にごめん。だけど、どうしても僕はシンシアが軽んじられていることが許せなくて」
「ジュラール……」
サスティン王国の人たちは、みんな、面白可笑しくわたくしのことを“当て馬姫”だと呼んでいたのに、ジュラールもフィオナ様も……この国の人たちはこうして怒ってくれるのね?
(わたくしは幸せ者だわ……この国に……プロウライト国に来て良かった)
心からそう思えた。
「ありがとう! ジュラール!」
「……シンシア」
「帰国したら、わたくしもきちんと話すことにするわ」
ジュラールがしっかり強く手を握ってくれたので、わたくしもしっかりその手を握り返した。
───そして、会場に戻ると……
「……わたくしたちが会場出ていく前とあまり変わっていないですね?」
「うん。エミールが無難に進行してくれたんだと思う」
「そうですね」
ダラスは相変わらず泣きながら隅っこで伯爵にトレーニングをさせられているし、会場の人たちは人たちで好きに楽しく過ごしている。
(お姉様は……)
さすがにもうブルブル震えてはいなかったけれど、誰からも相手にされずに壁の花になっていた。
わたくしの知っているお姉様はいつだって人に囲まれて堂々としていて、話も上手くて……
(お姉様のあんな姿、初めて見たわ)
「エミール!」
「あ、おかえり、ジュラール。本当にちゃんと戻って来たんだね?」
「───当たり前だろう!!」
お姉様のことを見ていたら、いつの間にかエミール殿下がそばに来ていた。
二人の仲の良さにホッコリした気持ちになる。
「あれ? フィオナ妃はどこに行ったんだ?」
そういえば姿が見えない。たいていエミール殿下といつも一緒にいるのに……
「あぁ、フィオナは軽い脅しでそこの壁を殴っちゃったから手を洗いに行ってるよ」
「「え!」」
わたくしとジュラールの声が完全に重なった。
「……脅しで」
「壁を……?」
おそるおそるわたくしたちが聞き返すと、エミール殿下はどこかうっとりした笑顔で頷く。
「うん。やっぱり僕のフィオナはかっこいいよね! エリシア王女の顔、完全に引き攣ってたよ」
「……そう、か。相変わらずだな、うん」
(フィオナ様……すごいわ)
「わたくしももっと特訓したらフィオナ様みたいになれるでしょうか?」
「えっ!?」
わたくしが真剣かつ真面目な顔でそう口にしたら、なぜかジュラールが涙目になっていた。
────そんなこんなで、お姉様の歓迎パーティーなのか、わたくしたちの婚約パーティーなのかよく分からなくなったパーティーは終わり……
わたくしとジュラールは正式な婚約話をまとめるため、わたくしのサスティン王国への帰国とお姉様たちの強制送還の日がやって来た。
194
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる