11 / 26
10. 婚約者の辛そうな顔は見たくない
しおりを挟むアシュヴィン様に抱き締められ、その温もりを感じながら思う。
(アシュヴィン様の呪いとは何だろう?)
どうしても気になる。
王太子殿下の呪いとは違うと言っていたけれど。
私は顔を上げて聞いてみた。
「アシュヴィン様、あなたに起きた変化というのは……」
「……俺の事は気にしないでくれ」
アシュヴィン様は間髪入れずにそう答えた。
(これは……言いたくないって事かしら?)
「アシュヴィン様はお辛くないのですか?」
「……」
アシュヴィン様が黙り込む。
少しの沈黙した後、口を開いた。
「……さっきも言ったが殿下の場合は不特定多数に誤解を与えかねないから、辛いだろうが……俺の場合は誤解されるとしたら一人だけなんだ……だから……」
「何を言っているんですか!」
「……え?」
私の怒りを孕んだ声にアシュヴィン様が驚いた顔を見せた。
「誤解するのが不特定多数だろうと一人だろうと、誤解させてしまう人がいてお辛いのは変わらないではありませんか!」
確かに殿下は王太子という立場だから、ところ構わず女性を口説いて誤解させる人が多くなるのは良くない……というより、それはかなりの問題だと思う。私も驚いたし。
それに実際、婚約者との仲も険悪となっていると聞くと尚更。
だからと言ってアシュヴィン様はいいのかと言ったらそれは違う。絶対に違う!
(ねぇ、アシュヴィン様。お願いだからそんな事を言わないで?)
今、すでにあなたはとっても辛そうな顔をしているのだもの──……
──そう。ヒロインよ! アシュヴィン様の呪いはね、ヒロインの愛の力で解けるの。
──あのね、お姉様。私は“ヒロイン”だから呪いを解いてアシュヴィン様を幸せにしないといけないの。
──彼は私と恋に落ちて呪いが解けるのよ。だから、お姉様は婚約破棄されてしまうけど……仕方がないのよ。それがお姉様の……悪役令嬢の役割なのだから。
あの日、リオーナに言われた言葉。
……リオーナの言う事が本当なら、アシュヴィン様の呪いはリオーナにしか解けない?
ヒロインだと言うリオーナの愛の力でしか解けないの?
(そんなの嫌!! きっと他の方法だってあるはずよ!)
「アシュヴィン様!」
「!?」
私はアシュヴィン様にしがみつくような形で抱き着いた。
「私、あなたの呪いが解けるなら何でもします!」
「え? な、何でも……?」
何故かアシュヴィン様の顔が見る見るうちに赤くなる。
あと、ちょっとあたふたしている。
(あれ? 協力を惜しみません! って意味なのだけど、何故、そんな赤くなって狼狽えるの?)
アシュヴィン様の反応に疑問を持ちつつも私は続ける。
「呪いについては、私も……調べてみますから。だから……お願いです。そんな顔をしないで下さい」
調べると言っても、リオーナから聞き出す事しか出来ないけれど。
何故かリオーナは呪いに関しては語ろうとしないけれど、これは何としても聞き出さないといけない。
「……そんな顔?」
「アシュヴィン様、辛そうな顔をしてます」
「……」
「アシュヴィン様が辛そうだと私も辛いです」
「……っ!!」
アシュヴィン様がひゅっと息を呑んだ。
(あ……ちょっと図々しかったかしら?)
でも、本当の事なのよ。
アシュヴィン様の辛そうな顔は見たくないの。
「……ルファナ嬢」
「!」
あ、せっかく呼び捨てにしてくれていたのに、戻ってしまっている。
「アシュヴィン様……ルファナと呼んでください……」
「!?」
アシュヴィン様が動揺した。
「さっきは何度かそう呼んでくださいました」
「そ、れは……」
「駄目ですか?」
「……っ」
私が目で訴えると、アシュヴィン様はブンブンと勢いよく首を横に振った。
そして、小さな声で言った。
「…………ルファナ」
「はい!」
「……っ!!」
とっても嬉しかったので私が満面の笑みで返事をすると、何故かアシュヴィン様がへにゃへにゃになった。
(えぇぇ!?)
「アシュヴィン様!? 大丈夫ですか!?」
「……だ、大丈夫……だ」
あまり大丈夫そうには見えないけれど……
私がどうにかアシュヴィン様を起こそうとしていると、
「あー……コホンッ……そろそろ良いかな?」
「「!?」」
王太子殿下が変な顔をしている。
何故? と、思ったけれどさっきからまるっと殿下の事を完全無視していた事に今更ながら気付いた。
「も、申し訳ございません!」
存在を忘れておりました! とはさすがに言えない。
「いや、いいんだけどさ……お腹いっぱい」
「?」
「……呪い解かなくても大丈夫そうじゃないかと思うのは私だけかな……」
王太子殿下は何やら小さく呟いたけれど、何を言ったかは分からなかった。
「ルファナ嬢、アシュヴィンの呪いを解きたい君の気持ちは分かったけど、完全に私の事を忘れていたよね?」
「……も、申し訳ございません……」
「呪いにかかっていると思われるのはアシュヴィンだけでなく、私と他にも居るんだ。アシュヴィンを心配する気持ちは、まぁ、分かるけど忘れないでいてくれると嬉しいかなぁ……」
「うっ! ほ、本当に申し訳ございません…………」
頭を下げながら思った。
殿下とアシュヴィン様以外にも呪いにかかっている人がいるらしい。
これもリオーナが匂わしていた通り……
「あの! その他の方も……殿下とは違う様子なのですか?」
私の言葉にアシュヴィン様と王太子殿下は気まずそうに目を合わせる。
「?」
「そうだね……気の毒な奴がいるよ」
「気の毒……?」
二人は神妙な顔でうんうんと頷きあっていた。
詳しくは分からないけど、やっぱり呪いは厄介そうだと思った。
◇◇◇
色々と衝撃的だったパーティーを終え私は帰宅する。
家に戻ってする事は一つ!
───リオーナを問いただす!
呪いに関して知っている事を洗いざらい吐いてもらわなくては!
(だって、アシュヴィン様を助けたい! あんな顔させたくない!)
私は大きく深呼吸してリオーナの部屋の前に立つ。
コンコン
「はい?」
「私よ、リオーナ。入るわよ」
「え? お姉様??」
ちょっと強引にリオーナの部屋へと入る。
「お姉様、帰っていたのね……」
「えぇ、先程ね」
「そう。パーティーはどうだった? ってお姉様、どうかしたの? 顔が怖いわ」
顔が怖い?
あぁ、そうかもね。だって何がなんでも聞かなくちゃという決意しているから!
「ねぇ、リオーナ。教えて頂戴」
「何を?」
「リオーナは言ったわ。アシュヴィン様は呪われている、と」
「そうね? 可哀想なのよ、アシュヴィン様。早く助けてあげなくちゃね!」
リオーナは無邪気な顔でそう言う。
「ねぇ、呪いはどうしたら解けるの?」
「え?」
私の質問にリオーナはポカンとした顔を見せた。
「お姉様、忘れてしまったの? 前にも言ったわ。“ヒロイン”の私とー……」
「そうではなくて! もっと具体的に知りたいの! それと“ヒロイン”だというリオーナと恋に落ちる以外の方法は無いの?」
「お姉様?」
──お願いよ。あるって言って!!
私はそう願いながらリオーナの言葉を待った。
76
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。
青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。
その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。
あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。
一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。
婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。
婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。
アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。
「小説家になろう」でも連載中です。
修正が入っている箇所もあります。
タグはこの先ふえる場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる