【完結】自称“ヒロイン”の妹によると、私の婚約者は呪われているらしい ~婚約破棄される“悪役令嬢”だと言われました!~

Rohdea

文字の大きさ
18 / 26

14. 妹は本当に“ヒロイン”なのかしら?

しおりを挟む


「ルファナ、すまない」


  お父様が突然謝って来た。
  特に謝られるような事をされた覚えもないので意味が分からない。

「お父様?  何かあったのですか?」
「……」

  どうしたのかしら?
  お父様は何か言いたそうだけど言いたくない……そんな顔をしている。

「お父様?」
「すまない。実はさっきリオーナが……」
「リオーナが?」

  その名前を出されるだけで、ろくな話では無い事が分かる。

ルファナお前の婚約を解消して……代わりに自分がアシュヴィン殿と婚約したいと言い出した」
「…………は?」

  あはは、嫌だわ、私ったら疲れてるのかしら??  聞き間違いよね?
  リオーナが婚約者の交代を申し出た、なんて!

「お父様、こんな所で冗談を言っている場合では……」
「冗談では無い。リオーナは本気だ」
「……え?」

  冗談……ではないの?

「お前が少し前に訴えて来た事は本当だったのだな。すまなかった」
「……」

  確かにあの時は簡単に流された……
  お姉さんなんだから我慢しなさい、と。

「……それよりもお父様。お父様はリオーナの言う事を……まさか聞いたりは……」

  いくら何でも、勝手に婚約者交代を決めて手続き進めたりしていないわよね?
  私の意思確認もなくそんな勝手な事をしないわよね……?

「さすがに、ルファナお前の意思も聞かずに勝手には決められんよ……」
「!」

  良かった!  お父様の事だからリオーナを甘やかして言う事を聞いてしまったかと思ったわ! 


  と、喜んだのも束の間。
  お父様は困った顔で言いにくそうに口を開いた。

「だが、ルファナ。この際だ……リオーナがあれだけ言うのだ。アシュヴィン殿との婚約の件、考え直してみるのはどうだろう?」  
「は?」

  一気に地獄に突き落とされたような気分になった。
  やだ、お父様。ちょっと待って?  何を言っているの?

「本ばかり読んで可愛らしい趣味の一つも持たないルファナの嫁ぎ先が心配でグスタフ侯爵家との話はルファナに持っていったが……根気よく探せばお前でも構わないという人もいるはずだ」
「え……だからって……」

  冷たい汗が背中を流れる。
  本来に本当にお父様は何を言っているの?

「幸い婚約時にグスタフ侯爵家向こうはお前たちのうち、と言っていた」
「!!」

  お父様のその言葉に目の前が真っ暗になった。

  (駄目……しっかりしなくちゃ!)

  今ここで反論しなかったらお父様は本当に婚約解消に動き出してしまう!
  震える身体と足を叱咤して私はお父様の目を見つめて尋ねる。

「リオーナが望んだからと言うだけで婚約者を交代させようとする意味が分かりません!」
「そこは悩んだよ。だがな、リオーナも言っていたが……お前とアシュヴィン殿はあまり会話も弾まずギクシャクしているばかりではないか」
「……そ、それは!」

  お父様は嫌な所を突いてくる。

「いくら政略結婚で仕方無いとは言え、そんなの互いに不幸なだけだろう?  だったら、社交的で明るいリオーナとの方が上手くいく可能性が高そうではないか。そう思わんか?」
「思いません!」

  私は間髪入れずに答える。

  私の方がアシュヴィン様と上手くやれる……!
  そんな傲慢な事は思っていない。
  それでも、嫌……リオーナに婚約者の座を譲るのは嫌なの!

  (だって、あの子は本当のアシュヴィン様を見ていない気がするの)

「お父様、確かに私とアシュヴィン様は上手くいっていると言えない時もありました。ですが今、私達は互いに歩み寄っている所なのです……」

  あんなにも急に素っ気無くなったから、嫌われしまったのだとばかり思っていた。
  でも、違う。
  きっとアシュヴィン様はちょっと不器用なだけなの。

  (誤解した時もあったけど、もう間違えない!)

  リオーナの嘘を何一つ信じようとしなかったアシュヴィン様。
  ちゃんと私の事を見てくれている証拠なんだから!!



「そうは言ってもな……リオーナはアシュヴィン殿の事が好きなんだそうだぞ」
「そんなの、私だって!  私だってアシュヴィン様が好きなの……ずっとずっと好きでした」
「何?」

  お父様が驚く。
  まさか姉妹揃って?  ……とブツブツ呟いている。

「だが……」
「……お父様!  お願いです!  リオーナの言う事だけを聞いたりしないで!」
「……」
「お願いします!!」

  私は何度も必死に頭を下げてお願いをした。

  (お父様がリオーナに甘いのは知っているわ。でも絶対に絶対に引き下がれない……!)


「…………ルファナ」

  お父様が困った様子で私を見る。

「は、はい!」
「お前の婚約は──……」



 ◇◇◇



  お父様との話を終え、とりあえず部屋へと戻る。

  (疲れたわ……)

  一度部屋に戻って、休んで……その後はリオーナと話をしないといけない。
  でも、とにかく今は一旦休みたい───


  なのに。
  運命の神様は私に手厳しい。



「お・姉・様!」

  残念ながら廊下にリオーナが待ち伏せしていた。

「リオーナ……」
「お姉様、おかえりなさい!  待っていたのよ!」
「……」
「大事なお話があるの。あ、それとももう、お父様から聞いているかしら??」

  リオーナがふふっと嬉しそうな顔で私に近寄って来る。
  この余裕たっぷりの笑みは、全てが自分の思い通りになると思っているから……?

  (どちらにせよ、その笑みは腹が立ってくるわね……)

「ねぇ、お姉様。アシュヴィン様の婚約者の座は私が貰うことにしたの。お父様から聞いたかしら?」
「……」
「ちょっと早いけどもう良いわよね? あ、お姉様の新しい婚約者の事は心配しないでても大丈夫よ!  私に来た縁談をお姉様に回すから」

  (良いわけないでしょう!?)

  本当に妹の思考が分からない。
  その縁談だって、リオーナに来たものでしょうに。

「早いも遅いも無いわよ?」
「どういう事?」

  リオーナが怪訝そうな顔で首を傾げる。

「リオーナの思い通りの展開にはならないからよ」
「え?  どうして?」
「アシュヴィン様の婚約者の座をリオーナには譲らないからに決まっているでしょう?」
「……だから、どうして!?  お父様は検討してみるって……」
「その結果よ?」
「……」

  お父様にはちょっと婚約者交代を仄めかされたけれど、結果的に思いとどまってくれた。
  
「嘘よ!」
「嘘では無いわ」

   ──ねぇ、リオーナ。
  どこか違う世界にいるみたいな様子のあなたも、そろそろ現実に戻って来るべきだと思うのよ。

「おかしい!  だって私は“ヒロイン”なのよ?」

  ……また、それ。
  リオーナのそれすらも私には呪いに思えてくる。

「なら、リオーナに聞きたいわ」
「?」
「あなたは自分が“ヒロイン”だと、何かある度にそう口にするけど、そんなヒロインのはずのリオーナがこれまで願って来た事は何一つ叶えられていない気がするわ」
「そ、それは……」

  リオーナの目が泳ぐ。
  どうやら自覚はあったらしい。
  だからこそ、聞いてみたい。

「ねぇ、リオーナ?  あなたって、本当に“ヒロイン”なのかしら?」

しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

処理中です...