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16. 呪いが解けても解けなくても
しおりを挟む「…………っ」
アシュヴィン様の顔が本当に苦しそうで見ていられない。
「もう! アシュヴィン様ったらどうして黙るんですか? はっきり言って下さい」
リオーナは不思議そうな顔をして尋ねていた。
(なぜ、そんな質問が出来るの? リオーナはアシュヴィン様が呪われている事を知っているはずなのに!)
「リオーナ! お願いだからもう止めて!」
「お姉様……?」
「……ルファナ……」
私はリオーナとアシュヴィン様の間に入ってリオーナを止める。
「何で止めるの? お姉様! とっても大事な所なのに!」
「どこが大事よ!? アシュヴィン様が苦しそうなのがリオーナには見えないの?」
どうしてこの子はこんなに人の気持ちに鈍感になってしまったの?
その事がただただ、ひたすら悲しい。
「もう! お姉様ったら、アシュヴィン様に“何とも思ってない”と言われるのが嫌で邪魔をしてくるのね?」
「え?」
どうして、その解釈になるのかが全然分からない……
「そうではなくて……!」
「お姉様……昨日呪いを解くのは自分だと言っていたけれど、やっぱり諦めた方がいいわ。私と違ってこの先、お姉様がアシュヴィン様に愛される可能性は無いもの」
「は?」
リオーナはいつものようにニッコリ微笑んで言った。
「ヒロインが愛されると決まってるのよ、だから今はまだでもアシュヴィン様は、お姉様でなくいずれ私を愛するようになるんだから」
「!」
また出たわ。その意味の分からない理屈!!
聞けば聞くほど腹が立ってくる!
「だから呪いも私が解いて差し上げるわ」
「駄目よ! 呪いは私が解くって……」
「お姉様には無理よ、ヒロインではないもの。悪役令嬢はお呼びじゃないのよ」
「また、それ……! だからと言って、はいそうですか、なんて簡単に私は引き下がれないわ!」
私がそう怒鳴るとリオーナは、ちょっと困った顔をして言った。
「なら、アシュヴィン様は呪いが解けずにずっと呪われたままかもしれないわよ? お姉様はそれでもいいの?」
「……っ!」
そう言われて私はアシュヴィン様を見る。
アシュヴィン様はまだどこか苦しそうな顔をしていた。
「いいわけないでしょう!」
(だって言いたい事が言えないって辛いもの……!)
今までのアシュヴィン様が、言葉に詰まった回数は一度や二度では無かった。
つまり、それだけの我慢を彼は強いられて来た。
そんな思いをこれからもさせたいはずが無い。
「だけど、リオーナ。私の気持ちは変わらない。アシュヴィン様の呪いに関してあなたを頼るつもりは一切無い!」
「酷いわ、お姉様! アシュヴィン様が可哀想だと思わないの!? 解けなかったら一生苦しむ事になるのに!?」
リオーナが必死に私に訴える。
──そんな事、言われなくても分かってるわよ!!
「そうね。あなたの言うように本当に私の力では駄目で、アシュヴィン様はこの先ずっと呪いに苦しめられる事になるかもしれない」
「でしょう? だったら、確実な私に頼むべき……」
「それでも嫌! そもそもリオーナが確実に呪いを解けるという保証だってどこにも無いじゃないの! 大事な大事なアシュヴィン様をリオーナに任せるなんて絶対に出来ないわ!」
「……なっ!」
リオーナの表情が何を馬鹿なことを言って……と引き攣った。
「だ……大事?」
アシュヴィン様が小さくそう呟いた声が聞こえた気がしたけれど、今はリオーナをどうにかする方が先だ。
「リオーナ。よーく聞きなさい!」
「え」
「昨日も言ったわ。私は、アシュヴィン様の事が好き! ずっと前から好きだった!」
私の気持ちはリオーナに絶対に負けない!
そう、信じてる!
「もし、私の力でアシュヴィン様の呪いが解けなくてアシュヴィン様が苦しむ事になるのなら私も一緒に苦しむ! アシュヴィン様が呪いに立ち向かうと言うなら私も一緒に立ち向かう! 私はね、どんなアシュヴィン様でも支えていきたいのよ!」
「お、ねえさま……?」
私の勢いにリオーナがたじろぐ。
「だからいい加減、邪魔ばかりしないであなたは大人しくすっこんでいなさい!!」
「すっ……!?」
さすがのリオーナもこの言葉には驚いたらしく、その場で固まった。
──そこまで怒鳴った時、私の身体は急に暖かい温もりに包まれた。
(……え!?)
「……ルファナ」
アシュヴィン様だった。
アシュヴィン様が後ろから私を抱き抱えるようにして腕を回していた。
そのせいでアシュヴィン様の表情は見えない。
……しまった。
私、勢い任せで告白以外にも色々口にした気がする……
(呪いなんて解けなくてもいい! そう聞こえるような身勝手な発言もしてしまったわ)
苦しめられるているのはアシュヴィン様なのに……
怒鳴り散らしておきながら冷静になると、やってしまった……そんな気持ちが強く押し寄せてくる。
(でも、後悔はしない。これが私の気持ちだから)
アシュヴィン様の事を好きな気持ちは変わらないし、彼の呪いを解きたい気持ちも、もちろん変わらない。
けれど、もしも……もしも呪いが解けなかったとしても。
私はアシュヴィン様を支えていきたい。それは絶対だ。
「俺は耳がどうかしたのだろうか?」
「……」
「ルファナが俺の事を好きだと言ってくれた…………ように聞こえた」
そこまで言ったアシュヴィン様の腕に力が込められ、ギュッと抱え込まれる。
「……ようじゃないですよ。言いました」
「俺の事を……」
「好きです。ずっと前から好きでした」
そう口にした時、動揺したのかアシュヴィン様の腕の力が少し緩んだ。
私はその隙にアシュヴィン様の方へと向き直る。
(ちゃんと顔が見たい。顔を見て言いたいの!)
「アシュヴィン様の婚約者となれて嬉しかったのです。夢かと思いました」
「……!」
アシュヴィン様が驚いたのか大きく目を見開いた。
「顔合わせ後に素っ気なくなってしまったアシュヴィン様に嫌われたかも……と落ち込んだ日もありましたが……それでも私はアシュヴィン様の事が……」
「ルファナ!!」
アシュヴィン様が私を抱き締める。
「大好きです、アシュヴィン様。例えあなたが呪われていても……いなくても」
「ルファナ……! 俺は…………っ」
アシュヴィン様は何かを言いたそうにしているのに、やっぱり言えないみたいだった。
(さっきと変わらない……)
呪いを解くのに“愛”が必要。そう言うから、愛の告白をしたら呪いは解けるかしら?
そう思ったけれど、甘かったみたいだ。
(私では駄目だという事? ううん、そうとは限らない。きっとまだ何かが足りないだけ)
私は自分にそう言い聞かす。まだ諦めるには早すぎる。
どうしたらいいの?
好きですって言葉だけでは弱いの??
ならば!
「アシュヴィン様……」
「?」
えぇい!
──チュッ
と気合を入れて私はそっと背伸びをしてアシュヴィン様の頬にキスをする。
「ル、ル、ル、ルファナ!?」
アシュヴィン様はかなり驚いたのか、動揺した声をあげたと思ったら一気に顔が真っ赤になった。
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