最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

18. ジョシュアのお相手

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 お茶会を終えたあとも、わたくしの心は晴れません。
 どんなに走り込みをしても、腹筋や背筋を鍛えても、思いっきり剣をふるっても……
 全然、スッキリしません。

「はぁ……」

 夕食の時間、ついつい皆の前でため息を吐いてしまいました。
 目の前には空っぽのお皿……

「あれ? 姉さま? 今日はお代わりはされないのですか?」
「……ええ、お腹がいっぱいですわ」

 エドマンドが不思議そうな目でわたくしを見ています。 

「どうしたんだ? ナターシャ」 
「いつもなら食事もトレーニングのうちですわ! と言いながらたくさんお代わりするのに?」
「お父さま、お母さま……」

 お父さまとお母さまも心配そうにわたくしを見てきます。

「お茶会の後、一心不乱に身体を動かしていたようだが……」
「───まさかお茶会で何かあったの? どこの家? どんなお仕置する?」
「……は、い?」
「なに!?    ナターシャに危害を加えた者がいるのか!?」

 突然飛び出したおばあさまのお仕置発言に目を丸くしていると、おじいさまの目の色が変わりました。

「お、おじいさま、おばあさま……」 

 おばあさまの思考が物騒ですわ!
 そして、お父さまも勢いよく椅子から立ち上がって声を荒らげました。

「ぬぬぬ、今度はどこの家だ、ナターシャ!」
「え、お父さま、違っ……」
「姉さま! 二度と外を歩けないようズタズタのボロボロにして後悔させてやりましょう!」
「ひっ、エドマンドまで!?」

 お父さまの勢いにつられたエドマンドの思考が怖いですわぁ!
 部屋には一気に殺伐とした雰囲気が漂いました。
 わたくしは慌てて首を振って否定します。

「違いますわ!」

 このままではお茶会に参加してくれていた令嬢たちの家が順々に冤罪で潰れてしまいます。
 そんなことになったら“暴君公爵令嬢ナターシャ”の完成ですわ。
 それだけは勘弁です。

「ちょっと、その……ジョシュアの顔が頭の中にチラついて離れなかっただけですわ!」

 わたくしが強く叫ぶと、全員が黙り込んで顔を見合わせます。
 お父さまも着席し、一気に部屋の中の空気が和みました。

「な~んだ姉さま、驚かせないでくださいよ!」
「はっはっは、ナターシャが元気で良かったぞ!」
「ジョシュアくんって昔から存在感が強いもの。確かにチラつくわよね」
「ああ、あの子なら仕方がない。なぁ、ウェンディ」
「そうね」

(なっ……!)

 戸惑うわたくしにそれぞれ皆が好き勝手なことを言いやがりました。
 これは、日頃から“打倒ジョシュア”を口にしすぎたかもしれません。

「だが、なぜジョシュア? 今日の茶会とジョシュアは関係ないだろう?」

 お父さまがうん? と首を傾げます。

「そ、れは……ちょっとジョシュアのことが話題に……出ましたの」
「ジョシュアが? あの子は昔から目立ってるからな。まあ、僕ほどじゃないが!」

 お父さまがはっはっはと陽気に笑い飛ばします。

「───あなたもジョシュア・ギルモアあの子もおかしな意味で目立っているのですけどね」
「母上、それはどういう……?」

 すかさず入ったおばあさまの突っ込みにお父さまが更に顔をしかめます。

「ふふ、エドゥアルト様と特に小さい頃のジョシュアくんが揃うとパーティーはいつも賑やかだったもの」

 お母さまが懐かしそうにクスクス笑いました。
 思わずわたくしも和みそうになりましたが、慌てて話を戻します。

「それで、その……どうやらジョシュア、は…………」

 皆、ゴクリと唾を飲み込んでわたくしの次の言葉を待ちます。

「うんと年上の熟女なマダムと、こ、ここ交際しているそうなんですのーー!」

 シンッ……と部屋が静まり返ります。
 皆が目をパチパチさせてじっとわたくしのことを見てきます。

「わ、わたくしも最初は耳を疑いましたわ……! で、ですが、ジョシュアはお母さまとも仲が良いですし、愛でる会には人生の大先輩のお姉さま方もたくさんいらっしゃいますから決しておかしくはありません! が、それを思うとこう胸の奥がキューッとして…………はっ」

 焦ったわたくしは、とにかくペラペラペラペラ余計なことまで喋ってしまっていることに気付きました。
 わたくしの胸がキューッとなっているのは余計な表現でしたわ……!

「ジョシュアくんが年上の熟女のマダムと交際?」
「まあ、ナターシャの言う通り熟女やマダムからの人気は高いが……どちらかと言うと皆、手のかかる息子のように感じてると思うが」

 お母さまとお父さまが顔を見合せながらそう口にします。

「私たち世代は孫のように可愛い、よ」
「だな」

 おばあさまとおじいさまもウンウン頷きます。
 やはり皆、熟女なマダムがお相手とは信じられないようです。

「ですが! 共にギルモア邸に入って行ったとも……」

 わたくしがそう言いかけた時でした。

「はいはーい、失礼しますお嬢様。お話が聞こえてしまいました~」
「え?」
「少しお話よろしいでしょうか?」

 ここで、間に入ってきたのは給仕として控えていたナンシー。

「なんですの?」

 わたくしが聞き返すとナンシーは笑顔でこう言いました。

「その目撃された熟女なマダムって私のことかもしれません」
「え!?」
「先日のことですよね? 実は私、ジョシュア様と偶然街でお会いして一緒にギルモア家に行ったんです」
「…………え!」

 お驚いたのはわたくしだけではありません。
 他の皆もです。

「え? ナンシー、聞いてないわよ?」

 おばあさまも驚いております。

「先日、休暇の日にフラフラ街に行きましたら、浮かれたエドゥアルト坊っちゃまみたいな珍妙な格好をした男がおりまして」

 シンッ……
 部屋の中がまた静まり返ります。

「ぼ、僕と同じ、センスの塊のような格好をした人物が……!?」
「───エドゥアルト! 話の腰をおるんじゃありません!」
「は、はい、母上……」

 おばあさまに叱られたお父さまは素直に黙ります。

「結論から言いますと、それがギルモア家のジョシュア様でして」

 続いたナンシーの言葉に皆が納得します。

「浮かれたエドゥアルトのような格好……なぜ、ギルモア家の面々は止めなかったんだ?」

 おじいさまが疑問を投げかけると、お父さまを除いた皆が大きくウンウンと頷きました。
 確かに……侯爵やジョエル様、アイラお姉さま辺りならともかく、ガーネットおばあさまやセアラ夫人ならそんなジョシュアの姿を見たら全力で止めると思います。

「馬車を使わずにこっそり脱走したそうですよ~」
「だっ……脱走、ですの……?」

 いい歳した青年が何をしているのでしょう!

「あまりにもエドゥアルト坊っちゃまを彷彿とさせるものですから、ついうっかり話しかけましたら、なんとジョシュア・ギルモアだったわけです」
「ナンシー……」

 そんな明らかなやべぇ奴にうっかり話しかけちゃうナンシー……
 毒されてますわ!

「私とお会いした時は夕方だったんですけど、到着したばかりだと言ってましたね。昼食を終えてすぐギルモア家を出発したそうでしたが」

 皆の空気がああ……となりました。
 ジョシュアの方向音痴が全力で仕事をしたと分かります。

「街って歩いて向かうとこんなに遠いんだねぇとジョシュア様は笑っておりました」

 決してそんなことはありません。
 ナンシーは馬車を使わずに歩いて行っていますから、女性でも歩いていける距離ですわ。

「そんなことないですよ? と言っても信じてくれませんでした。迷子体質は無自覚なんですかね。よくあの子、これまで生きてこれたものだと感心します」

(ジョシュア……)

 侯爵さまから受け継いでいるという迷子体質の血。
 おそろしいことにジョシュアもアイラお姉さまも無自覚なのです。
 右と言いながら左に曲がり真っ直ぐと言っては右に曲がり……
 クネクネクネクネ……

(ベビーの頃は全く理由が分からず、たくさん翻弄されまさしたわぁ……)

 思い出してはついつい遠い目をしてしまいます。

「このままお別れしたら、微笑みの貴公子失踪事件が勃発すると思いまして、最後ジョシュア様をギルモア邸まで送らせていただきました」
「ナンシーが……」
「あれ? もう家に着いた~と不思議がるジョシュア様からお礼にお茶でもと言われ少しだけギルモア邸にお邪魔しました」
「……」
「と、いうわけで、その話のお相手はおそらく私だと思うんですよね~」

 なんということでしょう!
 わたくし、とんでもない勘違いをしてしまっておりましたわ!

「では、ジョシュアは熟女なマダムと……は交際していないんです、の……?」
「少なくとも私は交際していませんね。ベビーの頃の面影が強すぎてあの子は私にとって永遠のベビーです」

 熟女なマダムであることは否定しないナンシーが、ジョシュアとの関係はきっぱりと否定しました。

(違った……)

 そのことに何故か安堵している自分にに大きく戸惑いを覚えます。
 全てわたくしの勘違い。
 モヤモヤすることなんてありません────……
 そう思った時でした。
 隣のエドマンドが首を傾げて言いました。

「熟女なマダムとの交際は姉さまの勘違いとして────なら、ジョシュア兄さまはわざわざこっそり脱走して街に何をしに行ったのでしょう?」

 
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