【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea

文字の大きさ
37 / 43

第36話 決別

しおりを挟む


  (何だかすごい事になってしまったわ)

    一応、本日はアビゲイル様とレイズン殿下の婚約発表パーティーのはずだったのに……
   腹黒そうな王族の人達の手によって自業自得とはいえ、メタメタにされて半泣きで助けを求めてウロウロするヒロイン、地面に這いつくばったままのジョバンニ様……
  もはや、会場内は完全にカオスな状況となっていた。

  (あれ?  そういえば……)

  そこでようやく、ヒロインが登場して以降、静かだった人がいる事に気付いた。

  (……お父様)

  そう思った私はお父様に視線を向ける。
  お父様だった人は、呆然とした顔のまま動かない。何が起きてこうなったのか理解出来ていないのだと思う。
  そんな私の視線に気付いた殿下が耳元でそっと言った。

「……そういえば、伯爵との話が中途半端だったね」
「はい」

  ここでちゃんとしっかり縁を切っておかないと、後で何を言われるかわかったものではない。

「大丈夫だ、私がついている」
「グレイ様……」

  殿下の力強い言葉に私はしっかり頷いた。



「───
「っ!」

  私はそう声をかけながら元お父様に近付いた。
  もう、二度とこんな人をお父様とは呼ばない。その決意のあらわれでもある。
  元お父様は声を掛けられてハッとするけれど、それが私だと気付くとすぐに表情が変わる。

「……クロエ!  貴様……!  なんて事を!」
「……」
「王宮の侍女になる……?  要らないから捨てるだと?  ジョバンニ殿もあそこまでの再起不能な状態にしおって……」

  ジョバンニ様の事を責められても困る。
  あれは彼が勝手に打ちのめされただけだし、ジョバンニ様を放り投げたのはヒロインだ。

「誰のおかげでここまで育って来れたと……」
「そういう御託はもう要らない。いいから、さっさとクロエと縁を切ると宣言しろ」
「……ぐっ!  で、殿下……」

  元お父様はネチネチと私を責めるつもりだったようだけど、殿下の登場に押し黙った。
  悔しそうに唇を噛んでいる。

  (……情けない反応ね。あなたが散々、落ちぶれた王子とバカにした方よ!)

  グレイソン殿下は全く落ちぶれてなどいなかった……むしろ……
  先程までの殿下の様子を見てそう思っているのだろう。

「グ、グレイソン殿下!  ……なぜかは知らぬが、あなたはク、クロエと結婚したいのだろう!?  それなら父親であるこの私の許可を───」
「あなたと、クロエは無関係の間柄になるのでブレイズリ伯爵の許可など必要としていませんが?」
「……な」
「ついでに言わせてもらいますが、先程の王宮内の人員整理。まさか、ピンク色とは接触した事は無いから、だなんて思っていませんよね?」
「!?」

  お父様の顔色がサーっと分かりやすく変わった。

「何も人員整理は、ピンク色に誘惑された人物だけに行うものではないのですよ?」
「な…………に?」
「まさか、ブレイズリ伯爵。娘だったクロエにあれだけの仕打ちをしておいて、なんのお咎めが無いとでも思ってましたか?」
「……っっっ」
「まぁ、それでなくても、今後の社交界でのあなたは針のむしろ……風当たりは相当強いものとなるでしょうが」
「~~っっ」
「ははは、これからが楽しみですね?」

  殿下はまた黒い顔して笑っている。
  これからの自分を想像したのか、元お父様は顔を赤くしたり青くしたり……とにかく悔しがっている様子は伝わるものの言葉は返せないでいた。
  処罰……あれだけ公に暴力の事をバラされたのだから当然だ。無罪放免となるはずがない!

「さあ、早く、どうぞ?」
「……」
「クロエはブレイズリ伯爵家とは無関係の人間だと宣言してください」
「……くっ!」

  ニコニコニコニコ……
  殿下の笑顔の圧がすごい。
  元お父様は顔を俯ける。そして、ボソボソととても小さな声で言った。
  
「……そ、そちらにいる令嬢は……わ、我が家……ブレイズリ伯爵家とは……」

  間に……チッとかクッという言葉が聞こえる。
  どうやら、大事な大事な“道具”を失うことが凄く嫌みたい。

「も、もう無関係……で、す……」

  (───言った!)

  かなり渋ったからここまでがすごく長かったけれどそれでも、何とか言い切ってくれた。

「その言葉に偽りは無いな?」
「……はい」

  元お父様は項垂れながらも頷いていた。

「……ブレイズリ伯爵への処罰は追って伝える。それまでは大人しく待っていろ」
「…………」

  殿下と元お父様のやり取りを見ながら、実感する。
  これで、ようやく私は本当に自由になったんだわ!
  令嬢の身分に未練なんて無いし……
  惜しくもないと思ったその時、グレイ様の告白を思い出した。

  (そうだわ……私、愛の告白されて浮かれていたけれど)

  貴族令嬢ではなくなる私は、殿下の隣には立てないと思っていたんだった……
  だから、気持ちだけを伝えるつもりでいたのに。
  まさかの両想いにすっかり浮かれてしまっていたわ。

「……クロエ。お疲れ様。これで、君は本当に自由だ」
「!」

  私の隣にいた殿下がそっと私を抱きしめようとする。
  私はハッとして慌ててそれを止めた。

「ダ、ダメです……」
「駄目?  なぜ?  どうして急に……」

  殿下が困ったような顔で私を見つめる。

「わ、私はたった今をもって、へ、平民になったので……“殿下”とは釣り合いが取れま……」
「クロエ!」
「え?  え、え?」

  殿下が声を荒らげたと思ったら、そのまま私を横抱きにする。
  私は何が起きたのか分からず、ひたすら動揺していた。

「レイズン!  アビゲイル!  この場を後は任せていいだろうか?」
「承知しました、兄上」
「グレイソン殿下?  お分かりだとは思いますけれど……クロエ様を泣かせないでくださいませね?」
「わ、分かっている……」

  アビゲイル様が氷の微笑を浮かべてそんな事を言ったものだから、殿下は少しだけ体を震わせていた。
  そんな事より、今のこの状況よ!!

「で、殿下、お、降ろし……」
「“グレイ”だと言っただろう?  私はクロエにそう呼んで欲しい!」
「……」
「私がそう呼ぶ許可を与えたのはクロエだけだ!」
「なっ……」

  殿下はそう強く言いながら、私を抱えたまま会場の外に繋がる扉の前に到着した。
  
  (え?  どこに行くつもりなの!?)

  このグレイソン殿下の行動には私だけでなく会場内の人たちも唖然としている。

「ど、どこに行かれる、のですか!?」
「そんなの決まっている。二人っきりになれる所だ!」
「ふたっ!?」
「────覚悟しろ、クロエ」

  (───か、覚悟!?)

   そんな物騒な事を口にした殿下は、私を抱えたまま堂々と会場の外に飛び出した。

  
しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

処理中です...