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第18話 恋する王子様
(……好き? 僕がマーギュリー侯爵令嬢のことを?)
「ジュラール! な、何を言って……るんだ! そんな、こと」
「いや、エミール。お前今、自分の顔を鏡で見て見るといいぞ? とんでもない事になっているから」
「!?」
エミールはジュラールにそう指摘されてますます赤くなる。
自分の頬が……いや、顔全体が熱を持った自覚……はある。
「す、好き……これが恋?」
「そうだ」
ジュラールはエミールの呆然とした呟きに大きく頷く。
「泣き顔よりも笑ってくれたらいいなって思ったのも」
「そうだ」
「見せてくれた笑顔が可愛いかったなと思うのも」
「そうだ」
「今、何しているかな? 泣いていないかなって、ずっと頭から離れず心配していたのも」
「そうだ」
「彼女の婚約者……ダーヴィットの存在そのものに腹が立って仕方がないのも」
「そうだ」
「……彼女に触れるたびに、僕の身体にピリッとした電流が走るのも」
「それは知らん」
(───……!)
静電気説を強く推すジュラールに最後は首を傾げられてしまったけれど、自分が彼女に……マーギュリー侯爵令嬢に抱く想いが“恋”なのだとエミールは自覚した。
「ジュラール……」
「どうした?」
「……僕は、この先どうすれば……」
「は?」
情けないことを言い出した弟にジュラールは叱咤する。
「お前はどこぞの乙女か!」
「うっ……」
「自覚したなら、好きなら好きだと男らしく告白すればいいだろう!?」
「こ、告白!? ……婚約者は……」
「そんなもの命令でも何でもして無理やり奪ってしまえ!」
その言葉にエミールはハッとする。
自分は王子だ。確かにその気になれば無理やり命令して彼女を自分のものにすることだって──……
(いや、それじゃダメだ。彼女の気持ちを無視して無理やりなんてよくない)
権力を笠に着せて彼女を無理やり手に入れたら、あの笑顔が二度と見られなくなるかもしれない。
エミールはその方が嫌だった。
それに……
「彼女は意志の強い人だから、無理やり命令なんてしたら逃げられそうだ」
エミールはマーギュリー侯爵令嬢の姿を思い出しながら苦笑する。
「……そ、それは確かにありえそうな───……じゃあ、何もせず諦めるのか?」
「え? 何で? 別に僕は諦めるとは言っていない」
「うん?」
ジュラールが首を傾げるとエミールは言う。
「命令して彼女を無理やり手に入れるような真似はしない、と言っただけだ」
「お、おう?」
だからと言ってこのまま何もしないのも……とエミールは考えた。
それに、まだ彼女にはあの最低な男──ダーヴィットという婚約者がいる。
───ダーヴィットは、先日、僕らを訪ねて来た。
それは、このたび正式に婚約を結んだという報告だったのだけど、正直、今更な話だったし、何より僕はパーティーの日の最低な発言の数々を婚約者のマーギュリー侯爵令嬢本人と共に聞いている。
そのせいで、僕の対応が冷ややかに思えたのだろう。
もともと評判のよくない“第二王子エミール”に対して、ダーヴィットは嫌味を言って来た。
『エミール殿下は婚約者をお決めにならないのですか?』
余計なお世話だ!
と、作り笑いする僕に対してダーヴィットは更に続ける。
『まぁ、特定の人を作ってしまったら遊べなくなりますからね。特に殿下のお立場では……分かります』
『……』
世間での噂話を鵜呑みにして、第二王子エミールが奔放だと思い込んでいるダーヴィットは僕に向かってニヤニヤとした笑いを浮かべながらそう言った。
奔放な性格なのだから、女性ともかなり遊んでいる──ダーヴィットが以前から僕のことをそんな目で見ていたことは知っている。
でも、ここまで露骨に口にするのは多分初めてだった。
『俺も婚約者が出来たと言ったら、何人かに振られてしまいました』
『……』
そして聞いてもいないのにペラペラと余計な話をし始めた。
そこには、パーティーの時にも聞いたような話も含まれていて僕はどんどん苛立っていった。
『俺の婚約者となったマーギュリー侯爵令嬢は、大した取り柄もないし、可愛いくもなくて地味で平凡なんですよ。誇れるのは身分くらいでしょうか? でも、そこが色々と“便利”なので。殿下もこれからも遊び続けるならそういう女性を隠れ蓑にするといいですよ───』
(───気が付いたらダーヴィットを殴っていた)
───取り柄がない? 可愛いくもなくて地味で平凡?
一度聞いただけの人間の声を聞き分けられるスペックを持った令嬢に取り柄がない?
あんなに可愛いらしく笑うのに?
婚約者のあんな会話を聞いてしまっても、取り乱すことなく気丈に冷静に振る舞うことの出来る強さを持っているのに?
彼女のいい所を何一つ分かろうとしないダーヴィットに腹が立った。
そして、こんな男が彼女の婚約者面をしていることが許せない──そう思った。
「えっと? それで……エミールはどうするつもりなんだ?」
「どうする?」
「諦めないということは……」
僕はジュラールに向かって静かに微笑む。
「うん。だってマーギュリー侯爵令嬢は言っていたんだ」
「なんて?」
「婚約はもちろん解消します───と。だから、僕は証言が必要なら頼ってくれと言った。その場合は“ジュラール”として証言することになるけどね」
「そ、そうか……」
もう、婚約なんてこりごり!
彼女はそう思っているかもしれない。だが、ダーヴィットとの婚約が解消にさえなれば、僕にだって彼女に婚約を申し込むチャンスが巡ってくる。
(まずは、婚約を解消させることが先決だ!)
その為に出来ることはなんでも手伝うとしよう。
もし、彼女が公爵家ごとダーヴィットを潰したいのならそれでも構わないとさえ思う。
(むしろ、あんなダーヴィットを次期公爵にするのはダメだろう……)
心は少し痛むけど、今は彼女が僕のことを“ジュラール”だと思っていても構わない。
それよりも今は彼女を助けたい!
(ダーヴィット……もっと、殴ってやれば良かったな───だが、人を殴る経験などこれまで、なかったから……)
「なぁ、ジュラール。僕、もっと鍛えた方がいいかな?」
「は? 急になんだ! 突然何を言い出した!?」
エミールは自分の腕をじっと見つめた。
我ながら悲しくなるくらいの細腕だ。
「次に対峙する時は、もっとダーヴィットをボコボコにしたいなと思ってさ……────そうだ! 騎士団長の所にこの細腕をどうにか出来ないか相談に行ってくるよ」
「え!? エミール……!?」
「さすがに短期間でムキムキになるのは難しいのかなぁ……」
そんなことを呟きながら、エミールは騎士団長の元に行ってしまった。
「ム、ムキムキ!? え、えぇええ!?」
恋心を自覚したエミールが、変な方向に覚醒してしまいジュラールはついていけない。
そして、ジュラールは唖然としている間にひとり部屋に取り残された。
「やはり、と、とんでもない令嬢だ…………マーギュリー侯爵令嬢」
弟の恋は応援したい!
だが、あの令嬢は絶対に只者じゃない!
そう呟いたジュラールだったが、彼はこの時、エミールの目まぐるしい変化に圧倒されていたせいで、エミールに肝心なことを一つ伝え忘れていた。
そもそも、最初にその話をしようとした時はダーヴィットの訪問で邪魔されてしまっていて、その後も話す機会を失ってしまっていた。
そう──エミールが恋に落ちた相手、マーギュリー侯爵令嬢には何故か、自分たちが入れ替わっていたことがすっかりバレていた、という今後の二人の恋において最も大事であろうことを……
────また、この瞬間にダーヴィットは各方面からボコボコにされることが確定した。
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