【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

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第26話 婚約解消を願い出たら

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──────……


「───ダーヴィット様。私との婚約は解消してくださいませ」
「……!?」

 私がそう告げると、目の前のダーヴィット様は声も出さずにポカンとした間抜けな顔を私に向けた。

「……」

 私はじっと彼の顔を見る。
 にゃんこさんJrによる攻撃のおかげで、最近はめっきり訪問回数が減っていたので彼の顔を見るのは久しぶりだった。

(殿下に殴られた傷もすっかり癒えたようね)

 ───まあ、本日そこに私が上書きをして差し上げるつもりですけどね!

「…………フィオナ?  な、何を言っている、んだ?」

 ようやく、口を開いたダーヴィット様。
 事態を飲み込めていないせいか、どことなく声が震えている。

「何ってそのままの言葉の意味ですけれど?  あ、ごめんなさい。聞こえなかったんですね?  それではもう一度言わせていただきます、ダーヴィット様、私との婚約は──……」
「まー、待て待て待て!  違う!  そうではないっ!」

 ダーヴィット様が慌てて止めに入る。
 私はムッとして訊ねる。

「どうして止めるのですか?」
「こんなの止めるだろう!  “愛する婚約者”から婚約を解消したいなどと言われているんだぞ!」
「!」

 ゾワッ
 その言葉のせいで全身に鳥肌が立った。

(───愛する婚約者……ですって?)

「おい、フィオナ?  なんでそんな顔を……」
「……」
「ああ、そうか!  さっきも言っていた、くるくる髪の女へのヤキモチが今も続いているんだな?  それで婚約解消なんてものをチラつかせて俺の心を取り戻そうとしたのか!」

 私の態度に怪訝そうな表情をしたダーヴィット様だったけれど、すぐに勝手にひとりでポジティブな解釈に切り替えていた。
 そのあまりの気持ち悪さに耐えられず、私は隠し持っていた一つの手紙をそっと取り出す。

(これはさっさと話を進めるに限る!)

「───“ダーヴィット様は、フィオナ様では物足りないそうですわ”“ですから、私が代わりにいつもお慰めさせていただいておりますの”」
「…………は?  フィオナ?  お前は何を読んでいるんだ……?」

 ダーヴィット様が不思議そうに首を傾げる。
 だけど、どことなく嫌な予感がしているのかその表情はやや固い。
 私はフフっと笑った。

「何をってトゥスクル伯爵令嬢から私宛に届いたお手紙ですけど、読まれます?」
「よ……いや、て、手紙だと!?」

 ダーヴィット様がクワッと大きく目を見開いた。

「ええ。それでは続きを読みますね……えぇと、“フィオナ様はご存知ないかと思いますが、ベッドでのダーヴィット様はいつだって情熱的で愛をたくさん囁──”」
「わーーーーー!  待て待て待て待て!」

 ダーヴィット様が真っ青な顔で止めに入り、私から手紙を奪い取ろうとする。
 私はそれを避けながら訊ねる。

「どうして止めに入るのですか?」
「いや、だってこれは……あ、あああ、そそそ、そうか!  フィオナはお、俺の知らないところで、こ、こういった、い、嫌がらせをされていたのか……いたんだな!?」
「嫌がらせですか?」

 今度は何の話かと私は眉をひそめる。

「そ、そうだ!  俺と親密な様子のデタラメな内容を書いた手紙を婚約者のフィオナに送り付けるという、あ、悪質な嫌がらせだ!  ゆ、許せん!」

 そう語るダーヴィット様は汗はダラダラで目が泳ぎまくっている。
 もはや全身で“何か疚しいことがあります”と、語っているようなものなのに、それでもこの手紙の内容は認めずデタラメなのだと言い張ろうとする。

(なんて見苦しいの……)

「……でも、他の令嬢とデートはされたのですよね?」
「さ、さっきも言っただろう?  で、出かけただけだ!  だから、その手紙に書かれているベッドで云々は……そ、その令嬢のも、も、妄想だ!」
「へぇ……妄想……ですか」
「ああ!  妄想が激しくてしつこくて困った女性なんだよ!  俺も仕方なく嫌々付き合っているんだ!」

 ダーヴィット様はすごい勢いで大きく首を縦に振りながら頷いた。

(……ふふ)

 同時に私は隣の部屋から聞こえて来た、とある音に思わず笑をこぼす。

「───そう仕方なく……ですか。

 私がお礼を言うとダーヴィット様は、ん?  と不思議そうに首を傾げた。
 だけど、これで私の機嫌が戻ったと勘違いしたのか、より一層被害者ぶって饒舌に喋り始めた。

「──とにかく、す、すまなかった。俺の婚約者というだけで……まさかフィオナがそんな嫌がらせをされていたなんて……俺は何も知らず……くっ」
「……」

 悔しそうに俯くダーヴィット様だけれど、モテる男は辛い、と言っているパフォーマンスにしか見えない。
 私は肩を竦めた。

(自意識過剰にも程があるわーーー……)

「そ、そうか。だから、フィオナは俺との婚約を解消したいだなんて言いたくなるほど思い詰めてしまったんだな?」
「……」
「これは嵌められたんだ!  誤解なんだよ、フィオナ。俺にはずっと君だけなんだ…………そうだ!  そんなに不安ならこれから、君の部屋に行って二人っきりで過ごして愛の証明を………………ん?」

 ダーヴィット様はそう言いながら、私に腕を伸ばして抱きしめようとして来た。
 あまりにも気持ち悪かったので、すっと身体を動かして避けてさり気なく机に近づく。

「フィ……オナ?」

 間抜けにも宙を抱いて空振りをしたダーヴィット様が戸惑いの目を私に向ける。
 目が合った私は、にっこり微笑んで机の上に重ねられている紙の山の中から一枚取り出して読み上げた。

「───“こんなに高価な物を買ってもらっても良いのかしら?”“構わないさ。どうせ家の金だし”“嬉しいわ!  でも婚約者の方はいいの?”“平気さ。あいつは薔薇の花を贈っておくくらいで充分な平凡な女だからな”」 
「───!?!?!?」
「こちらは、とある子爵令嬢とダーヴィット様がデートしていた時の会話なんですって。心当たりございます?」

 ダーヴィット様は呆然と私を見るだけで答えない。
 仕方が無いので次の紙を手に取る。

「“私とこんなことして婚約者の方はよろしいの?”“ああ。あいつは何も知らない。それで俺に愛されていると思っている頭のおめでたい女だよ。俺には君が一番だ”“もう、それ……何人に言っているの?”“ははは、もちろん、君だけだ”───これは、侯爵令嬢とデートしながらこっそり路地裏でキスを交わした時の言葉ですか……」
「──んなっ!?!?」

 ダーヴィット様が顎が外れそうなくらい口をあんぐり開けて私のことを凝視している。

「薔薇の花を贈っておくくらいで充分な平凡な女、愛されていると思っている頭のおめでたい女……これって全部、私のことですわよね?」
「……」
「それなのに、先程は私のことを愛する婚約者だなんて口にされていて……ねぇ、ダーヴィット様?  いったいどれがあなたの本当なのかしら?」
「────っ」

 私はにっこり微笑んで、彼からの答えを待った。
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