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第27話 どうしてこうなった!? (ダーヴィット視点)
しおりを挟む(……こ、これは誰だ)
今、目の前で淡々とした様子で俺の不貞疑惑の追求をしたあげく、にっこりと微笑んでいるこの女性は……
ほ、本当にフィオナ・マーギュリーなのか?
「ダーヴィット様? どうかしましたか?」
「……っ」
(───チッ! たかが侯爵家の令嬢のくせに! この公爵令息である俺に歯向かおうなんて生意気だな)
そんな生意気な口を俺に聞くのは100万年早いんだよっっ!!!!
俺はフィオナに向かってそんな敵意の気持ちを持ちつつも優しく微笑みかける。
「ははは、嫌だなぁ、フィオナ。もしかして君は俺のことをそんなに心配して調べていたのかい?」
(それにしたって詳細すぎるだろ! なんで会話とかまるまる残されているんだよ……!)
くるくる髪の伯爵令嬢も手紙とか余計なことをしやがって……!
自分の方が愛されているとフィオナに宣戦布告したかったのだろうが、タイミングが悪すぎる……!
なんだってこんなことをしやがった……?
そう考えたところで思い出した。
そういえば、彼女の父親が進めていたらしい、王子の婚約者候補になる話が門前払いだった……阿呆王子のくせにこの私を振るなんて! と、この間怒り狂っていたな。
まさか、それの腹いせでフィオナに……?
(あとできつく叱っておかないといけないな……)
そして、次にフィオナが手に取って読み上げていた子爵令嬢の話……あれはいったい……
身分の低い令嬢たちは、ちょっと高価な物さえ与えておけばたいてい俺にうっとりするからプレゼントは必須なんだ。
父上には請求書が届く度にため息を吐かれているが、直接怒られたことはない。だから、問題は無いはずだ。
だが、侯爵令嬢とのキス現場まで調べあげているとは……たまたまにしては、フィオナのくせに随分と優秀な腕利きの奴を雇ったものだな……
「……婚約者であるはずのあなた行動に疑問を覚えましたので」
フィオナは顔色一つ変えずにそう言った。
(うーん、これは相当、怒っているな……)
失敗した……こういう俺に一途なゾッコンタイプが一番厄介なのを忘れていた。
だが、フィオナだって俺のことが好きなはずだ。それに、この婚姻を逃したら次はないだろう。
こんな冴えない平凡女……他に貰い手などあるはずがないからな!
(よって、この婚約解消の申し出はフィオナの強がり───狂言だ!)
しょうがない奴め……
俺はそんな気持ちでフィオナに微笑みかける。
こういう時はなるべく優しく接するのがいい。
「フィオナは、そんなにも俺のことが信じられなかった……? 悲しいな……」
「はい! 全く信じられませんでした!」
「……」
フィオナはすごくいい笑顔で頷いた。
(は? なんだその笑顔はっっっ!?)
「い、いや……フィオナ……そこはさ、もう少し……」
「私は、ダーヴィット様のことなど全く……これっぽっちも信用していませんわ。ですから、どうぞ、さっさと私との婚約を解消をしてくださいな」
(チッ……思ったより強情な女だな)
しょうがない。ここは俺が下手に出てやるか……
だって、こんなにも“便利な女”を逃すわけにはいかない!
そう思った俺は、そっとフィオナの手を取って握る。
フィオナはビクッと身体を震わせると顔を俯けた。
(ははは! 照れてるのか? やっぱり俺が好きだからだな!)
これはもう一押しでどうにかなるだろ。
そうだな。キスの一つでもしてやれば───……
俺はそう思い、手を離すとそのまま無抵抗なフィオナの腰に手を回す。
そしてその身体を優しく自分の方に抱き寄せた。
「───フィオナ……聞いてくれ! 本当に俺にはお前しかいないんだ」
「……」
「君を愛しているんだ! もう、誤解させるような行動はしないと誓うよ。だから……」
ここで、顔を近付けてキスを────……と思いながらフィオナに迫ったその瞬間。
……メリッ
突然、自分の頬に……以前、ろくでなしの王子エミールに殴られたのと同じ場所に物凄い衝撃を受けた。
(メ、メリッ……? 自分の頬からそんな音が聞こえたぞ?)
「……ぐ、ぐはぁっ……ぐふっ」
よく分からないまま、自分の身体が部屋の端まで吹き飛んでいた。
俺の身体は壁に激突して止まった。
え? 何これ、すごく頬、痛い……めちゃくちゃ痛い……どういう……な、何が、起きた?
口の中も切れたのか血の味がする……
床に倒れた俺は、あまりの痛みに蹲りながらもどうにか顔を上げる。
(ま、まさか……今のはフィ、フィオナ……が? うそ、だろ?)
どう考えても今の力は、細腕の女性が出せる力などではない……鍛えた男のパワーそのものだ。
「……ダーヴィット様」
「っ!」
フィオナが先程と変わらない笑顔でコツコツと靴音を鳴らしながら、こちらに近付いて来る。
その微笑みが今は怖い。すごく怖い。
だが、今は痛みと恐怖で動けない!
「ダーヴィット様って思っていた以上に軟弱なのですね?」
「……なっ!?」
「ふふ、まさかこの程度で部屋の端まで吹き飛ぶとは思いませんでした……」
そう言いながらフィオナはそっと自分の手を見た。
(ほ、本当に、あ、あの手が……俺を…………?)
「───どんな気分ですか?」
「は? き、きふ、ん……?」
俺が聞き返すとフィオナがふふっと笑う。
なぜか、その笑顔に俺の背筋がゾクリとした。
「もちろん、散々バカにして見下していた私のような女に殴られて吹き飛んだ気分ですわ」
「お、おれは……バ、バカになろひてな……!」
「していないと仰る?」
「とうへんは! はっひもひった! おれはフィオナのふぉとを心から愛ひて────」
(畜生! 殴られた頬が痛くて上手く喋れん!)
必死に訴える俺にフィオナはこれまでの中で一番の冷たい目を向けながら遮った。
「───あなたのような最低な男が、愛を語らないでくれますか?」
「……えっ」
「聞いていて、とっても気持ち悪いです────」
そう言ったフィオナが今度はドレスの裾を少し持ち上げる。そして足を……
(───あ、足!? なんで、ドレスで隠れているはずの足……が見え……)
そう思った時にはもう遅かった。
「は……ふひぃっ! グ、アッ……」
フィオナの足がグシャッと俺の背中を踏み潰した。
靴を履いたままなので、靴のヒールがメリメリと音を立てて俺の背中を抉る。
「痛っ……や、やめほ! な、んれ……!」
「なんで……? そうですね。一発殴っただけでは物足りなかったからでしょうか?」
「た、足りなかっ……!? え……い、痛っ」
フィオナはなんてことない顔をしてグリグリと俺の背中を更に抉る。
(なんでだよ! ち、力が……)
───拳もそうだったが、力が……力が女性の力じゃないっ!!!!
「私にとって“愛”とは憧れでもあり、素敵なものなんです。お祖父様とお祖母様、お父様とお母様……あんなに素敵な愛は他にないと思っているんです」
「……フィ、フィオナ……?」
「私を愛している? 私は“便利”だから手元に置いておきたい──の、間違いでしょう?」
「にぁっ!?」
(……ど、どうしてそれを───っ!?)
そう思った時、自分の鼻から何かが流れ落ちる感覚がした。
「あら、鼻血ですわね?」
「……っ!!」
俺は慌てて自分の鼻を押える。
「良かったです。せっかくお祖父様直伝の鼻血が出るような殴り方をしたのに、流れる様子が全然、無かったんですもの。でも、ちゃんと効いていたようですね」
「おじ……直伝……」
フィオナが何を言っているのかサッパリだ。
俺が鼻血を垂れ流しながら呆然としていると、フィオナが突然、扉の方向に顔を向けた。
「…………?」
「ふふ、どうにか押さえ付けてもらっていたけれど、そろそろ我慢の限界のようです」
「……え?」
(何の話だ……?)
フィオナは再び俺に視線を向けるとにっこり微笑んだ。
「ダーヴィット様? あなたのそのとっても素敵な鼻血を垂れ流した顔……ぜひ、見てもらいましょう?」
「……は? だれ、に……だ?」
「ふふ───まだまだ、これで終わりではありません」
(────えっ……? 終わら……ない?)
まさか、この間の大男と猫が登場するのでは……? そんな想像をした俺の身体が震える。
あの一人と一匹は本当に危険なんだ……次に会ったら確実に俺は殺られる……
「……やっ……やめ……」
「大変、お待たせしました。どうぞ? お入りくださいませ?」
───ガチャ
フィオナのその言葉と共に部屋の扉が開く音がした。
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