16 / 27
15. 迎えに行きます
しおりを挟むわたしが大きく宣言し終えた所へ、お父様がやって来る。
「───アニエス? 訪問者はナタナエル殿ではなかったのか?」
「ええ、違いました」
「何だか、騒がしかったが?」
「騒がしくしてごめんなさい。ですがもう、お客様はお帰りになられました」
「……誰だったんだ?」
そう聞かれて答えないわけにはいかない。
レースの件で脅しておいたとは言っても、万が一、本当に潰しに来たら大変だものね。
それに、ナタナエルを迎えに行くためにヴィアラット侯爵邸に行かないといけないだろうし。
(そこは色々と後始末も含めてお父様に頑張ってもらいましょう!)
「───ソレンヌ・ヴィアラット侯爵令嬢です」
「な、に?」
ピクッと反応をしたお父様が眉間に皺を寄せた。
「……」
(この反応……ああ、お父様はナタナエルの婚約のことは知っていたのね?)
「ソレンヌ様が言うには、ナタナエルはもうここには来ないんですって」
「アニエス……」
お父様が困ったような複雑そうな表情でわたしを見る。
きっと領地に行っていた間、ナタナエルが頻繁に我が家に来ていた報告を受けているからでしょうね。
「……でも、ごめんなさい、お父様?」
「ん?」
「わたし、ソレンヌ様の言うことは聞けない。ナタナエルを迎えに行くと決めたの」
「アニエス?」
わたしはフッと笑う。
「何も言われずに目の前から去られるのは一回だけで充分なのよ」
「……アニエス」
お父様が困惑した目でわたしを見る。
「……だからお父様。教えて?」
「お、教えて? な、何をだ?」
「……」
我が父親ながら分かりやすい反応ね。
わたしは内心で笑ってしまう。
それでよくフォルタン侯爵家からナタナエルを託されたものだわ。
「もちろん、お父様が知っていることよ?」
「……知っていること、だと?」
「もちろん。あとでナタナエル本人の口も割らせるつもりだけど」
「!」
わたしがにっこり笑うとお父様の顔が引き攣っていく。
「ア、アニエス……お前は何を知っている?」
「知っている? わたしは何も知らないわ。全部わたしの想像…………いえ、勘よ!」
そう口にした瞬間、一瞬どこかののほほん夫人がわたしの頭の中を過ぎっていったけど無視。
今はのほほんに構っている場合ではないの。
ヘラヘラを迎えに行くんだから!
「……」
「……」
わたしとお父様が無言で互いの顔を見る。
そして根負けしたお父様がようやく息を吐いた。
「とりあえず、お前の勘とやらを聞かせてくれ」
「分かりましたわ、お父様」
わたしはにっこり笑って口を開いた。
─────
「…………当たらずとも遠からずってところかしらね」
お父様との話を終えて部屋に戻ったわたしはそう呟く。
(間違ってはいない……でも少し違う)
わたしの話を聞いたお父様の反応を見てそう思った。
ナタナエルの事情はわたしが思っているよりも複雑なのかもしれない。
「……それで渡されたのがこの本。どういうこと?」
お父様は話せるだけのことは話してくれた。
だけど、言えないこともあるとはっきり言われてしまった。
その代わりに渡されたのがこの本。
「いたって普通の小説……よね?」
わたしは本を読むことも好き。
大変不本意ながら……あの、のほほん夫人と本の趣味が合うことも知ってしまった。
そのこと思い出して苦笑しつつわたしはページをめくる。
「……」
思った通り、内容は普通の恋愛小説そのもの。
王子ヒーローと、婚約解消された経験を持つヒロインが心通わせる……言ってしまえばよくある恋愛ストーリー。
他の本と違うのは序盤の展開がとっても早いことくらい?
(これが一体、ナタナエルとなんの関係があるわけ?)
そう思いながら話を読み進めていくとヒーローとヒロインはわりとあっさり結ばれ、やがて子どもが生まれる。
「妙に展開が早いと思ったら、子どもが産まれてからの話があったからなのねぇ……」
そこでわたしは、ん? と思った。
そして感心する。
「この本の作者……攻めてるわね」
ヒーローとヒロインの間に生まれた子どもは双子だった。
実際のこの国でもそうだし、この物語の設定もそうだけど双子は不吉と言われて忌み嫌われる風潮が強い。
特に後から生まれた子を───……
正直、わたしはバカバカしいと思っている。
私たちくらいの年齢の人たちはもうあまりそんなことは気にしていない。
でも、親の世代は違う。
その風潮が根強く残っていたりするから、たまに社交界で見かける双子は肩身が狭そうに見える。
「この話は、そこをさり気なく問題提起でもしているのかしら?」
なんて口にしながら読み進めていく。
そしてヒーローとヒロインの間に生まれた双子の子どものうち、弟が周囲に無理やり取り上げられそうになった場面まで来た時、わたしの手がピタリと止まる。
「双子?」
でも、ナタナエルとフォルタン侯爵家の嫡男は双子ではない。
むしろ、二人は──……
ではこれは?
「………………まさか、ね」
─────
そして翌日。
わたしはナタナエルを迎えに行くために家を出る準備をしていた。
「───さぁて! ソレンヌ嬢の元に囚われのお姫様(♂︎)を助けに行くわよ!」
昨日はあの後、もしかしたらソレンヌ嬢が嘘をついているという可能性も含めて、ナタナエルが現在住み込んでいる騎士団の宿舎を訪ねてみた。
───午後、遅くても夕方までには戻る……と言って宿舎を出て行ったのに戻って来ていないんだ。
同僚の騎士はそう言って困った顔をしていた。
当然、わたしの元にもナタナエルからの連絡はない。
ナタナエルのことだから、本気の迷子も否定出来ない怖さがあるけれど、我が家には何度も来ている。
このことからソレンヌ嬢の言っていたことは嘘やはったりではなかったと判断した。
(でも、それなりに強くなったはずのナタナエル……大人しく捕まっているのかしら?)
そもそも、あっさり捕まるのもおかしくない?
変なことになっていなければいいけど。
「ま、いいわ。わたしはわたしのやりたいことをやるだけ」
わたしはフルール様みたいに屋敷を半壊するような力はない。
家の力も強くはない。
何か策があるわけでもない。
それでも……
わたしは机の引き出しから手紙を取り出して見つめる。
これは、かつてのナタナエルが居なくなった時にわたしに残して置いていった手紙。
「……ナタナエル。あなたは隠しごとはするかもしれないけど、わたしに嘘はつかない……そうでしょう?」
その手紙を懐に入れて顔を上げるとわたしは屋敷を出発した。
「────は? あ、あなた……いったいどういう、つもり!?」
「ごきげんよう、ソレンヌ様」
ヴィアラット侯爵家に着いたわたしは遠慮なく呼び鈴を鳴らしてソレンヌ嬢を呼び出した。
わたしの姿を見たソレンヌ嬢は目を丸くして驚いていた。
「き、聞いていないわ! こんな非常識な訪問が許されると思って!?」
「フッ…………その言葉。昨日の貴女にそっくりそのままお返しします」
「っ!」
ソレンヌ嬢がぐっと怯んだところで、わたしは彼女ににっこり微笑みを向ける。
もちろん全く楽しくもなんともないので目の奥は笑ってないけれど。
わたしは冷たい声で言い放つ。
「……わたしの騎士、返してもらいますね?」
425
あなたにおすすめの小説
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる