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22. 変わらない想い
しおりを挟む「……えっと、ナタナエル? その笑顔はなに?」
「ん? ほら俺、無断欠勤しちゃっているからこの後、騎士団に事情を説明しに行かないといけないんだよね」
「え? あ……!」
そうだった。
ナタナエルは今、行方不明となっている……
「だから、このままソレンヌ嬢とそこの護衛は連れて行って騎士団に放り込んでこようかな~って。娘が捕まったと知ればヴィアラット侯爵も必ず出てくるだろうし、侯爵はそこで仕留めればいいよね?」
「……」
ナタナエルは、にこにこ顔で微笑んでいるけれど、言っていることはなかなか物騒。
本日は出かけているというソレンヌ嬢の父親の侯爵まで仕留める気満々だった。
「───主。侯爵は帰宅した際に、すでに半壊状態となった家を見た時点で何事だーーって騒ぐと思いますよ?」
ロランが冷静な突っ込みを入れながらも、あの人煩いんですよね……と嘆いている。
スパイ活動の大変さが感じ取れた。
「……そっか。じゃあ、手紙でも置いておく? 貴様の娘は騎士団に捕まっているぞって」
「主、それ手紙じゃなくて脅迫状です」
「え? そう?」
二人のそんな会話を聞き流しながら、まあこのまま騎士団に預けるのが一番無難か……とわたしは思った。
確かにナタナエルは今、辺境伯領から出て推薦で王立の騎士団に所属しているから、ちょうど良……
(ん? 王立の騎士団?)
ハッとしたわたしは、勢いよく振り返る。
そして、またしてもガシッとナタナエルの胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと、ナタナエル!? あなた、なんで自ら王宮に近付いてちゃっているのよ!?」
「え?」
「王宮に近付けば近づくほど、顔を見られてバレたり怪しまれたりするかもしれないでしょう!? それなのに王立の騎士団所属? いったい何をやっているのよ!?」
今はまだいい。
令息だって姿を見せていないから。
────でも、王弟殿下が即位したら?
その家族は王宮に住むのではないの?
幻の令息レアンドルの体調がどんな状態なのかは知らないけど、もし彼が今後、王宮内を歩く機会があったら───……
ナタナエルはわたしにガクガク揺さぶられながらも答える。
「う、うん? でも、辺境伯が俺を推薦出来る騎士団は王立騎士団しかないって言うからさ」
「……なら、どうしてそんなリスクがあるのに戻ってきたの?」
「え?」
「ヴィアラット侯爵家を潰して自由になることが目的だったなら、達成したあとは辺境伯領に戻っても───……」
だって、ナタナエルはおそらく王弟殿下に、自分は息子です、生きていました……と名乗り出るつもりはないのだと思う。
ナタナエルに野心があるなら息子だと名乗り出て自分こそが次の王になってやる……!
なんて言い出すかもしれないけれど……
(ナタナエルは──……)
わたしはナタナエルの顔をじっと見る。
「アニエス?」
「……っ!」
ヘラッと緊張感のない笑顔が返ってきた。
(このヘラヘラ顔で王子様をやるつもり?)
無いわ。
───絶対に無いでしょ。
そもそも王弟殿下は、現国王一家がのほほん夫人に潰されてしまったから、法改正が整うまでの間、仕方なく国王を引き受けただけとも聞いている。
だから、なおのことバレる危険を犯してまでこの先、王都に滞在する理由が分からない。
「───アニエス。俺が帰って来たのはアニエスに会いたかったからだよ?」
「……え?」
ナタナエルが真剣な顔でそう口にした。
わたしが呆気にとられていると、そのまま腕を伸ばしてギュッと抱きしめてきた。
「本当はずっとアニエスの傍にいたかった──俺はそう言ったよね?」
「それは聞いた……けど」
「辺境伯領に向かったのも、アニエスのために強くなりたかったから」
「───は?」
確かに昔は、いつかわたしより強くなってやる!
そう言っていたけど。
わたしより、ではなく、わたしのため?
内心で不思議に思っていると、ナタナエルは小さく笑いながら言った。
「だって強くなって“最強”になれたら……こんな俺でもアニエスを守れるだろう?」
「わ、たしを、守る……?」
ナタナエルはわたしから少し体を離すと優しく微笑んだ。
「そうだよ。素直になれなくて意地っ張りで可愛い可愛いアニエスを俺はどんなことからも守りたい」
「……なっ!」
何よそれ……! そ、それにその言葉は───……
わたしの顔がどんどん赤くなっていく。
そして胸が苦しくなってギュッと押さえる。
「それにさ、そのままの俺でこれからもアニエスの傍にいていいんだよね?」
「あ! ……れは!」
カサッ……
わたしが動揺したその時、ヴィアラット侯爵家に来る際に懐に入れていた“ナタナエルの置き手紙”が落ちてしまった。
(……あぁぁあぁ!)
「……あれ? それ───」
咄嗟に拾って隠そうとしたけれど、先にナタナエルに見つかってしまう。
手紙の存在をばっちり目撃されてしまった……
「~~っっ」
頭上でナタナエルの笑った気配がした。
「……」
「ねえ、アニエス……それって俺が残した手紙だよね? 持っていてくれたんだ?」
「っ! な、ななななんのことよ!」
わたしは一生懸命否定する。
だって無理、無理無理無理ーーーー!
決意のお守りがわりとして持って来たなんて恥ずかしくて言えないわよーーーー
言えるわけないでしょーー
「あははは、アニエス可愛い!」
「!」
ギュッ!
ナタナエルのわたしを抱きしめる力がさらに強くなる。
そしてナタナエルはわたしの耳元でそっと囁いた。
「────俺は君が好きだよ、アニエス」
「ひ! ひぅっ!?」
(み、耳元で囁くのは反則よーー!)
背筋がゾクッとしたおかげで変な声が出てしまった。
「……ずっとずっと。あの頃から変わらず、俺は君が大好きなんだ」
「~~ナ、ナタナエル……」
「覚えている? 俺はその手紙にそう書き残したでしょ?」
「……」
ナタナエルが、わたしに何も言わずにいなくなったあの時。
残された手紙に書かれていたのは……
───なかなか素直になれない意地っ張りなアニエスのこと、これからもずっと大好きです。
というメッセージだった。
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