36 / 45
取り戻せた愛しい人 (フォレックス視点)
不覚にも、リーツェや皆の前で泣いてしまった。
ずっと願っては砕かれ諦めたくても諦められず、それでも手を伸ばし続けたリーツェが……俺を愛している、そう言った。
俺を好きになった事で奪われたリーツェの記憶。
記憶を取り戻したリーツェはもう大丈夫だと言って笑った。
(リーツェが今度こそ本当に俺の元に……戻って来た……)
その事を実感したら、涙が自然と溢れていた。
俺の事を好きだ、愛していると伝えてくれるリーツェの事がますます愛しくて堪らない。
焦がれて手に入れて奪われて失って、何度絶望を味わってもそれでも諦めきれなかったリーツェがこうして俺の腕の中にいる。
俺は嬉しくて何度も何度もリーツェの唇を奪う。
「あふっ……フォ、フォレックス様……あの、息が……」
「……うん」
息が苦しいんだろうな、と言うのは分かっている。
それでも止められない。
(やっと堂々とリーツェに触れられる)
スチュアートの婚約者だった頃のリーツェにも隙あらば触れては来たけれど、どうしても限度があった。俺との不貞を疑われてリーツェが叩かれるなんて冗談じゃないからだ。
だが、今こうして無事にスチュアートと婚約破棄したリーツェは、記憶も取り戻し再び俺の求婚を受け入れてくれた。
あとは、ミゼット公爵の許可さえ貰えれば、今度こそ名実共に俺の婚約者だと大っぴらに出来る!
(婚約期間なんていらないくらいさっさと結婚してしまいたい)
こういう時は王族は面倒だな、と思わなくもないが、公爵令嬢のリーツェを手に入れられる身分である事は有難いわけだし……と、ごちゃごちゃ考える。
「……フォレックス様?」
難しい顔をした俺をリーツェが甘く蕩けた顔をしながら見つめて呼んでくる。
(可愛いな……本当に可愛い)
でも、そんな蕩けそうな目で俺を見たらダメだぞ! リーツェ!
俺だけの知ってる、知る事の出来るその顔、その声……
止まらなくなる……
「リーツェ……」
「?」
俺はリーツェの首筋に顔を近付けてそっとそこに唇を寄せる。
チュッと吸いつくようなキスを落としそこに俺の跡を残す。
リーツェは案の定、動揺した。
「!? フォレックス様!? な、何を……!?」
「んー……リーツェに俺の跡を残したくて?」
「だ、だからと言って、い、今のは! さ、さすがに……!」
真っ赤になるリーツェも可愛いなぁ。
そんな顔をされても、もっとしたくなるだけなんだけどなぁ……
でも、リーツェの嫌がる事はしたくない。
(今はこれで充分だ)
「ごめんごめん」
「その顔! 絶対に悪いなんて思ってないですよね!?」
「ははは」
さすが、リーツェ。
「リーツェ、可愛い」
「え? いえ、そういう事ではなくてですねっ…………あっ!」
俺は愛しい愛しいリーツェを抱き寄せ、再び唇を重ねる。
リーツェの温もりを感じながら辛かったあの前回の人生の記憶に思いを馳せた。
────……
冷たくなったリーツェと対面しスチュアートを問い詰めた所であの女と対峙し、処刑台に送ってやる! と宣言した俺は必死にアイツらを追い詰める事だけに専念した。
すると不思議と初めに聞き取った人達の、リーツェの罪とされていた証言が段々と曖昧になって来る。
『いえ。多分、あれはリーツェ様だったかと……思います……が? ん?』
『あれ? でも、本当にリーツェ様だったかな? なんか違う様な気も』
何かが剥がれかけている。そう思った。
そうして俺は見つけた。
重要参考人を。
『た…………確かに、わ、私が……ミリアンヌさん……を階段から突き落としました……』
震える声でそう話す女。
この女こそ、リーツェの最大の罪とされた“ミリアンヌへの階段突き落とし”の実行犯だった。
『今まで、雲隠れしていたくせに随分と素直に認めるんだな』
『……』
この女を匿っていたのはスチュアートだった。
スチュアートが妙な動きをしており調べさせた所、どうも女性を囲っているとの報告が届いた。
あの女に夢中なはずのスチュアートが他の女を? どういう事だ?
ますます不思議に思い調べさせ、ようやくこの女の存在が発覚した。
『で、ですが……ほ、本当はよく覚えて……いないの……です』
『はぁ?』
『気付いたらミリアンヌさんを……突き飛ばしていて……そこにスチュアート殿下がやって来て……“お前はリーツェ・ミゼット公爵令嬢に頼まれてこんな事をしたんだな!?”と詰め寄られて……何故か、はい……と答えていました』
『……』
『その証言を……公の場でするのなら、罪には問わない……スチュアート殿下にそう言われて……ミリアンヌさんも、それなら水に流すわ、と……』
『……』
『“いいか! 絶対にそう言うんだぞ。言わなかったらどうなるか……分かるな?”……二人は……私を……そう脅して……』
どうやら利用されたらしいこの女は、震えながらそう証言した。
そして、この女の証言を皮切りに他にもリーツェの罪とされていたものの証拠がボロボロと崩れだしていく。
その証拠を持って俺はスチュアートとミリアンヌを宣言通り処刑台に送る事が出来たのだが。
『何でよ!? 嘘でしょ! どうして私がこんな目にあうのよ!?』
その瞬間までミリアンヌはずっと叫んでいた。
『どこで狂ったの!? もうエンディング目前だったのよ!! 明日……プロポーズされるはずで……そしたら完全なハッピーエンドに……何でよぉ……これじゃバッドエンドと同じじゃないのーー』
最期まで言ってる事が意味不明の女だった。
そうして、ミリアンヌとスチュアートの最期を見届けた俺はリーツェが眠る墓を訪ねた。
手を合わせながら俺は報告する。
『リーツェ……全部終わったよ。とりあえずアイツらは地獄に送っておいたから。地獄だから、リーツェとは顔を合わせる事はないと思うが……』
復讐を終えても残るのは虚しい気持ちだけ。
だって、こんな事をしてもリーツェは帰って来ない。
『俺はこの先、リーツェのいない人生を生きていかなきゃならないのかな?』
スチュアートがいなくなった事で、王位継承権は俺に移った。
俺達は二人兄弟。他に兄弟はいない。もう俺しかいない……
『リーツェが王妃になってくれるんだったら俺はどんな事でも頑張れる気がするのにな……って、うわ、何だ!? 眩しっ……!』
そんな一言を呟いた後、突然眩しい光に包まれた。
そして次に目をあけると───
─────……
「フォレックス様、どうかしましたか?」
「ん?」
目の前でリーツェが不思議そうな顔をして俺を見ている。
頬が赤いのは襲いすぎたからか。
夢じゃない。俺の腕の中にいるリーツェは夢じゃない……
巻き戻り、生きているリーツェと会えて、そして今こうしているのは、決して俺の夢ではない。
(だって、リーツェはこんなにも温かい)
「リーツェが俺の腕の中にいる幸せを噛み締めていた」
「……」
俺がそう答えるとリーツェはちょっとはにかんだ笑顔を見せながら言った。
「私と同じですね」
と。
その笑顔はめちゃくちゃ可愛くて俺は再び泣きそうになった。
あなたにおすすめの小説
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】地味で目立たない眼鏡っ子令嬢の可愛いところは王子様だけが知っている ~その求婚はお断りしたいのですが~
Rohdea
恋愛
「クリスティーナ嬢、申し訳ないが今回の君との婚約の話は無かった事にさせて欲しい」
──あぁ。また、ダメだったわ。
伯爵令嬢、クリスティーナは今日も婚約の打診を申し込んでいた男性にお断りされてしまっていた。
何とこれで3人目!
揃いも揃って口にするお断り理由が、
眼鏡、眼鏡、眼鏡……
ど近眼のクリスティーナには、この顔がよく分からなくなるほどの分厚い眼鏡が手放せないと言うのに。
これがダメなのだと言う。
そもそも最初の婚約者にも眼鏡が理由で逃げられた。
──こんな眼鏡令嬢でも良いと言ってくれる人はいないかしら?
新たな婚約者探しに難航し、半ば諦めかけていた頃、
クリスティーナは、王宮主催の舞踏会に参加する。
当日、不慮の事故で眼鏡を壊してしまい、仕方なくボンヤリした視界で過ごした舞踏会の後、
何故かクリスティーナは第3王子、アーネスト殿下に呼び出され求婚されてしまい……
──何で!? どうしてこうなったの!?
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました
Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに!
かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、
男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。
痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。
そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。
「見つけた! 僕の花嫁!」
「僕の運命の人はあなただ!」
──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。
こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。
すっかりアイリーンの生活は一変する。
しかし、運命は複雑。
ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。
ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。
そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手……
本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を───
※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)