23 / 37
22. 逃げられていた (ルフェルウス視点)
しおりを挟む───そんなに私の事が好きだったなら、もっと早く言って下さい! 今更、遅いです!
そんな言葉を残してリスティは部屋を飛び出して行った。
(……え?)
もだもだしてたった一言「好きだ」がなかなか告えなかった。
ようやく口に出来たけれど、肝心のリスティの反応は、今更、遅い……
あぁ、分かってる。リスティの言う通りだ。
これまで通算、100回は言われたであろう“婚約破棄”という言葉。
(……ずっと本気だったのか……)
あまりにも言われ過ぎて、私は本気だと受け止めるのが怖かっただけなのかもしれない。本当に自分が情けない。
「ま、待ってくれ、リスティ……」
とにかく……今はリスティを追いかけねば!
危うく呆然としかけ、ハッと意識を戻し慌てて自分も部屋を飛び出したが、既にリスティの姿は廊下に無い。
「は、早すぎだろ!?」
そんなに足が早かったのか、と驚く。
(いや、違うな。それほど迄に私から逃げたかったのか)
どれだけ全速力で逃げたのだろうか。
とりあえずリスティが王宮から出る方法は馬車だけなのだから行先は1つだと思い、馬車寄せに向かって走る。
切羽詰まった顔で王宮内を走る私をすれ違う者達がぎょっとした目で見て来ていたようだが、リスティの事で頭がいっぱいだった私は気にもとめなかった。
「……居た! リスティ……」
そして、馬車寄せに着いてリスティの姿が見えたのだけど、その瞬間、リスティは馬車に乗り込みさっさと行ってしまった。
(あと少しだったのに……)
仕方ない。別の馬車で公爵家まで追いかけよう。その準備を……
と思った所で後ろから声がかかる。陛下……父上の側近だった。
……最悪のタイミングだ。
「ルフェルウス殿下、こちらに居ましたか。先日の施策の件で至急、陛下が確認したい事があるそうです。今よろしいですか?」
「……」
「殿下?」
「…………分かった」
今すぐ追いかける事が出来ない自分の身が辛い。
何もかも全部後回しにしてリスティを追いかけたいのに。
これまでの告白のチャンスも、散々邪魔されたが、とことん運命は私とリスティの邪魔をしたいらしい。
「はぁ…………今からだと終わるのは深夜だろうな」
「殿下? 何か仰いましたか?」
「……いや」
父上との話は長い。すぐには終わらない。
さすがに仕事が終わった後の深夜に屋敷に押しかけるのは非常識すぎる。
リスティの事だ。明日は学園を休む気だろう。ならば手紙を書いて明日の朝一番に公爵家を訪問しよう。それで……もう一度リスティに。
───だが、その日の夜、私はこの時の自分の選択を後悔する事になる。
王子失格だと言われようとも、あの時リスティを追いかけるべきだった、と。
なぜならば、その日の夜……
「──リスティが行方不明!?」
「はい……今、マゼランズ公爵から訪問者がありまして……こんな時間なのにリスティ様がどこにも居ない……と」
チラッと時計を見る。
今はもう深夜だ。仕事はやはりここまでかかった。
(リスティがいない? 公爵家に戻らなかった……のか?)
さぁっと自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
そして、最悪の想定が頭をよぎる。
(まさか、戻る途中で馬車の事故にでもあった……? いや、暴漢に襲われた? とにかく帰宅途中で何かあったのか!?)
私の顔色から何を想定したのかを察したこの報告者は慌てて言った。
「殿下! リスティ様は一度は家に戻られているのです。しかし、その後姿を消したそうです」
「一度は帰った? ……いや待て。リスティには護衛が付いてるんだぞ? 護衛の目を盗んで屋敷を抜け出したと言うのか!?」
どういう事だ?
「リスティ様が帰宅した所までは護衛も屋敷の使用人も認識しておりました。しかし、その後、誰もリスティ様が外に出た所を見た者はいません。ですが、リスティ様はどこにも居ないのです」
「!?」
そんな話があるか!
と、言いたくなったが、またまた最悪の想定が頭をよぎる。
「まさか、人攫い……リスティは誰かに攫われた……」
「いえ、おそらく違います」
私の最悪の想定はあっさり打ち消された。
「違う?」
「報告に来たマゼランズ公爵家に仕える者の話によると、リスティ様の部屋からは慌てて荷物を持ち出した形跡があったそうです。まぁ、ほんの少量の様ですが」
「……荷物を? つまり、リスティは自らの意思で……出て行ったと?」
だとしてもどうやって、使用人の目と護衛の目を振り切って抜け出すが出来たのか。
マゼランズ公爵家には使用人も多い。どこに居ても人の目はあるだろう。
ましてや、リスティは目立つ容姿をしている。
「……殿下。これを。ほんの一部ですがリスティ様の部屋に残されていたそうです」
「? 何だ?」
何かを差し出された。
そして、それが何か分かった俺は衝撃を受けた。
「……それ、は、リスティの髪……」
差し出されたものは、あのリスティの綺麗な銀糸の髪の一部。
「……保管していた使用人の制服も無くなっているとの話です」
「つ、つまり、リスティは髪を、切り使用人の制服を着て……逃げた?」
「そう推察されます。屋敷を出る時にはいいでしょうが、まぁ、あれはあれで目立ちますので、おそらくはもうどこかで着替えているとは思いますが……」
誰かの手を借りるでもなく、こっそりでもなく……リスティは姿を変えて堂々と正面から出て行った。そういう事になる。
「……リスティ」
残されたリスティの髪の一部を見て泣きそうになる。
おそらく、リスティは切った髪も処分してから出て行ったのだろうが、これは僅かに残ってしまっていたものなのだろう。
あんなに綺麗に伸ばしてた美しい髪を切ってまで……
そうしてまで私から逃げたかったのか?
──…………さようなら、殿下。
最後は“ルフェルウス”とも呼んでくれなかった。
「私は振られた……んだな」
ははは、と乾いた笑いが止まらない。
「殿下? 何か仰いましたか?」
「いや……それで? リスティのそれ以降の足取りは分かっているのか?」
「それが……申し訳ございません」
あぁ、追えていないんだな。
(貴族令嬢の姿のままだったなら、きっと簡単に足取りを追えていただろうに)
リスティは、そこまで分かっていて私の婚約者として生きる事だけではなく、貴族令嬢として生きる事も捨てて逃げたのか……
「リスティ、君は……」
────こうして、リスティは私の前から姿を消し、その行方は全く分からなくなった。
96
あなたにおすすめの小説
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
[異世界恋愛短編集]お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?
石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。
面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。
そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。
どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。
この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる