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30. パーティーの終わり
しおりを挟むエレッセ様は最初こそ、ルフェルウス様の語る話に対して、
「それは違っ……」
「私はそんな事していないわ」
などと反論を試みていたものの、周囲の人達のどんどん自分を見る目が冷たくなっていくのを実感したのか、やがて黙り込んだ。
(反論する気力が無くなったみたいだわ)
「あぁ、そうだった。最後にどうしてもお前に聞いておきたい事がある」
ルフェルウス様は表情の無くなったエレッセ様に向かって冷たく言い放つ。
追求を緩めるつもりは無さそうだった。
「お前はリスティに大きな嘘をついた」
「!」
ビクッ
エレッセ様の身体が大きく跳ねた。明らかに動揺したのが伝わって来る。
「しかし、やはりその話は嘘だったと今のお前のその顔を見れば……一目瞭然だな」
(あ……!)
ルフェルウス様のその言葉で私は慌ててエレッセ様の顔を見る。
「……無い」
「だろう?」
ミュゼット様に扮してた今のエレッセ様の顔にはどこにも傷跡なんて残っていなかった。
ではあれは何だったのかと考えた時、
「も、申し訳ございません! 俺が……俺が頼まれてやりました」
そう言って青白い顔のまま、こちらに近付いてきたのは、
「オーラス……?」
殿下の元側近、オーラス様。
「どういう事だ? オーラス」
「あ、あの日、エレッセ嬢に頼まれました。“さも、私の顔にまだ傷があると思えてしまうようなメイクをしてくれないかしら”と」
「……」
「何でそんな事を? と聞いたら“驚かせたい人がいるの”と……大丈夫なのか? ……とは思いました。でも、皆がこの特殊なメイクを見て本物の様だと驚いたら俺のメイク術は有名になるわね、と言われて……エレッセ嬢は俺の隠れた趣味を唯一理解しくれた人だったから……」
オーラス様はそう言ってその場に泣き崩れた。
(特殊なメイクだったんだ……)
「……ルフェルウス様」
「リスティ」
私がルフェルウス様に抱き着くと、ルフェルウス様は私を優しく受け止めてくれた。
「私……見抜けませんでした。すっかり本物だとばかり信じて……そして……」
「それ以上は言うな、リスティ。それだけ、オーラスの技術は凄かったという事なんだろう……だがどう考えても悪いのはー……」
ルフェルウス様がエレッセ様を睨む。
するとエレッセ様は狂ったように笑い出した。
「あはははは、何なのこれ? どうしてこんな事になってるのよ? うまく行ってたのに……皆が私をチヤホヤしてくれてぇ、お姫様みたいに扱ってくれてぇ……それで私は皆に愛される本当のお姫様になるはずだったのにぃ!」
エレッセ様のその言葉に学園でも見覚えのある令息達が、また一人、また一人と気まずそうに視線を逸らす。
おそらく、エレッセ様をチヤホヤしていた人達なのだろう。
「なのに……どうしてさっきから皆、そんな目で見るの? いつもみたいに……あ、ねぇ、ほらそこの……」
「僕らはただの同級生に過ぎない。近付かないでくれ」
「え……」
おそらく懇意にしていた令息を見つけたのであろうエレッセ様は、その人に手を伸ばしたけどあっさりと払い除けられていた。
私は思う。なんと言うか人ってこういう時に……
「人ってこういう時に本性が出るものだよな。まぁ、誑かされてた奴らの大半もこれで目が覚めただろ」
頭の上から今、まさに私が考えていた言葉が聞こえて来て思わず顔を見上げた。
「どうした? リスティ」
ルフェルウス様が、優しい目で私を見つめる。
元側近の人達やエレッセ様に向ける冷たい目とは違う。
私が嬉しくて微笑むと、ルフェルウス様の顔が真っ赤になった。
「リ、リスティ……人前でそんな可愛い微笑みもやめてくれ」
「ルフェルウス様は、さっきからやめてくればっかりです……」
「し、仕方ないだろう? リスティはただでさえ可愛いのに笑顔と微笑みは……その……もっと……格別に可愛いのだから……」
可愛いのはルフェルウス様の方です。
思わずそんな言葉が口から出そうになる。
「リスティなら微笑むだけでその辺の男共を一瞬で虜にしてしまいそうだ」
「人を魔性の女扱いしないでくださいませ?」
「……初めて会った日に私を一瞬で虜にしておいて何を言う」
(え?)
チュッ
私が驚いている隙にルフェルウス様が、また私の頬にキスをした。
「ま、ま、またっ……!!」
「さっきも言った。私はいつでもどこでも愛しいリスティに触れていたい」
「っ!」
「その美しい髪も瞳も赤くなった頬も柔らかくて甘い唇も、全て私の……私だけが触れる事の許されるリスティだ」
「ルフェルウス様……」
そう言ったルフェルウス様の顔が近付いて来て、互いの唇が触れそうになった時、またしても大声が邪魔をした。
「嫌ァァァ、だーかーら、やーめーてぇぇぇ!」
エレッセ様のその声にピタッとルフェルウス様の動きが止まる。
(残念……とか思ってしまう辺り、私の頭もすっかりルフェルウス様でいっぱいだ)
恋心とは恐ろしい……
「……リスティ。続きは今夜。そうだな……私の部屋で」
「!?」
ルフェルウス様が私の耳元で甘く甘く囁く。
あまりの破壊力に腰が砕けそうになる。そんな私をルフェルウス様は支えながらエレッセ様に向かって言った。
「最後まで騒がしいピンク頭だな。もういい。聞きたかった事は聞けたしな。いい恥晒しにもなったし、もうお前をチヤホヤする奴もいないだろ。そこのバカ共以外はな」
バカ共……という言葉で元側近四人の肩が震え上がった。
「あぁ、バカ共。謹慎なんて生温い処置にした私がとことん甘かったよ。反省した」
ルフェルウス様はとてもいい笑顔で続ける。
「それぞれの処分が決まるまでは仲良く地下で過ごすといい。あぁ、そうだ。お前達の愛しいピンクも処分が決まるまでは地下にいるから、顔は合わせられなくても同じ空気は吸えるぞ、良かったな」
「「「「……」」」」
四人は全然嬉しくない、という顔をしていた。
そして、ピンク……エレッセ様も「地下……!?」と真っ青になっていた。
そうして5人は連行されて行く。
取り調べはこの先も続き、そして最終的な処分が下される。
だけど、こんな公の場で恥をかかされた彼らの未来が真っ暗である事は想像にかたくない。
そんな連行されて行く彼らの背を見ていたらルフェルウス様に声をかけられる。
「リスティ、パーティーの招待客に詫びの挨拶をしなくては」
「ハッ、そ、そうですね……」
せっかく集まった皆様になんて物を見せてしまったのか……
私はルフェルウス様に倣って皆の前に進み出て頭を下げた。
「きゃっ! ルフェルウス……様」
「リスティ」
その日の夜、言われたようにルフェルウス様の部屋を訪ねると、嬉しそうに抱きしめながら私を出迎えたルフェルウス様は、そのまま慣れた手付きで私を抱き上げベッドへと運ぶ。
そして、私のガウンを脱がせたルフェルウス様がピタリと動きを止めて固まる。
「……な、なぁ、リスティ。な、何故……今日はその……今日のその夜着はいつもより、そのちょっとだけスケスケ……? なん……だ?」
ルフェルウス様が顔を真っ赤にしてそんな事を言うので釣られて私も赤くなる。
「こ、今夜は私がル、ルフェルウス様のお部屋を訪ねます、と侍女に言ったら嬉々として着せられました……」
「…………気を利かせすぎだろう」
ルフェルウス様が頭を抱えた。
はっ! こ、これはムラムラしてるのね! 私はそう気付いた。
「ルフェルウス様! 私にムラムラを……」
「してるに決まってるだろー! 何でそんなキラキラした目で聞くんだよーー!!」
「!」
ルフェルウス様はよほど動揺したのか、いつもより年相応な口調で叫んだ。
こんな彼も愛しいなと思ってしまって私が抱き着くと、
「だ、だから、リスティーーー!!」
と真っ赤になっていた。
その後、お仕置きだと言われて、たくさんたくさん愛されたのは言うまでもない。
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