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31. これから先もあなたと
しおりを挟む「オーホッホッホ! リスティ様、話は聞きましてよ!」
ぶぉん……
(やっぱりこの縦ロールよね。勢いが全然違うもの)
「あなた偽物のわたくしの事を瞬時に見破ったそうではありませんか!」
ぶぉん、ぶぉん……
(今日も凶器だわ)
「やはり、あのピンクの小娘とわたくしでは醸し出す美しさが違ったのでしょう? リスティ様、なかなか見る目がおあ……」
「ミュゼット様、今日も(縦ロールが)元気ですね! いい事だと思います。これからもその元気(な縦ロール)を保って下さいね」
「は? あなた、何の話を?」
ミュゼット様は目を丸くしている。
そうだわ。ちょうど良かった! ミュゼット様にははっきり言っておかないと!
「あ、でもルフェルウス様は駄目ですよ。あげません! もう私のですから!」
「は?」
「それではミュゼット様! 御機嫌よう」
「御機嫌よう! ではなくってよ! はぁ? ちょっと何わけのわからない事を言ってないで、お待ちなさ……」
わめくミュゼット様をそのままに私はルフェルウス様の元へと向かう。
ルフェルウス様は中庭に居た。
「ルフェルウス様」
「リスティ」
ルフェルウス様は何かの紙を真剣に見ていた。
私はそっと寄り添う様に隣に座る。
「関係各所と話し合った結果、全員の処分が決定した」
「あ……」
ルフェルウス様は淡々とそう口にしたけれど、内心はどう思っているのだろう。
たまらなくなってぎゅっと抱き着く。
「どうした? リスティ」
「抱きしめたくなりました」
「何で急にそんな可愛い事を? まぁ、いいか……温かいし」
ルフェルウス様も私の身体に腕を回して抱きしめ返す。うん、温かい。
「側近達はそれぞれの家の嫡男だったが全員廃嫡の上、家からも追い出された。平民として過ごしていく事になる。援助は無い」
「……オーラス様だけはあの腕を磨いていつか別の形で、のし上がりそうな気がしますね……」
「……」
ルフェルウス様が一瞬黙り込む。想像しているのかもしれない。
「あー……あいつの事はいい。だが、マースだけは強制労働収容所行きだ」
「……!」
「リスティに身を引くように言ったり、パーティーでもピンクの嘘の証言の幇助をしたからな。情状酌量の余地は無い」
「そうですか……」
ルフェルウス様は今、どんな気持ちなんだろう?
複雑……なんだろうな。そう思った。
「そして、ピンクは……刑務所だ」
「刑務所? あの北にある?」
「そうだ。修道院……は、反省などしないから甘いとなって最初から選択肢に入らず、次に娼婦に……という話もあったが男をあてがって喜ばせてどうするとなってな……そして残ったのが」
「……あそこは入ったら二度と出られないと聞いています」
「そうだな。永遠に出て来なくていい」
ルフェルウス様の言葉は容赦ない。
けれど、エレッセ様はこの処分を聞いて何を思うのかしら。
「それ以外にもピンクが誑かし、やらかした奴らの処分がいくつかあるな」
「他にも?」
「学園だけでなく王宮にまで手を伸ばしてたからな。あのピンク」
「え……」
「ヒューズ……四人目の側近だった奴だが、アイツが勉強を教えるという名目でよくピンクを王宮に出入りさせていた事が分かった。そのついでに王宮の男達も誑かしていて……」
「……」
頭を抱えたくなった。
だから、元側近の四人がパーティーへの侵入が出来てしまったのね。
手引きした人間がいたという事。
「今回の件は本当に反省すべき事ばかりだ」
「ルフェルウス様……」
私は手を伸ばしそっとルフェルウス様の頬に手を触れる。
「リスティ……」
ルフェルウス様の顔が近付いてきたので私はそっと目を瞑る。
そして……
「ここは学園なので少しは自重した方が良いのでは?」
「「!!」」
その声にびっくりしてルフェルウス様から身体を離す。
「エドワード!」
「エ、エドワード様!!」
「どうも。誰も入り込めない熱々オーラを放ってるカップルが居たのでまさかと思ったらまさかでした」
「……!」
見られてたわ!
「そうか、すまない。ところでエドワードちょうど良かった。私はお前に一つ聞きたかったんだ」
「何ですか?」
「何故、ピンクの断罪にあそこまで協力をした? 正直、お前の資料が無かったら刑務所には送り込めなかっただろう。何でそこまでしてくれたんだ?」
「あぁ、そんなの一つですよ。あのピンクが俺にまとわりついて来てとにかく邪魔だったからです」
エドワード様はあっさりと言った。
(邪魔って……いえ、その通りなのでしょうけども)
「いくら領地にいても王都の変な噂が耳に入らないとは限らないでしょう? 俺の大事なアリーチェに誤解されたら困るんですよ。あと、来年はアリーチェも入学しますからね。あんな害虫が学園に存在していたら彼女の環境に良くない。だから、今の内に邪魔なピンクは排除する方がいいと思っただけですが?」
(やっぱり! 全部愛しの“アリーチェ”様の為だったーー!!)
エドワード様は本当にブレない。
ついでにピンクは害虫になっていたわ!
「……エドワード」
「はい」
「私はお前に感謝している。それが例え自分の欲の為であってもな。だから、今後何か困ったことがあればいつでも頼って来い。必ず私がお前の力になろう」
エドワード様が目をパチクリさせて驚いている。
「殿下、それは何年経っても有効ですか?」
「あぁ」
「分かりました。ありがとうございます。もし、その時が来たらお願いします」
──この約束は後に、本当に果たされる事になる。
***
「リスティ」
「ルフェルウス様、どうしてここに? ここは……」
王宮に戻ったら何故かルフェルウス様から一緒に来て欲しいところがあると言われ着いて来た。
そうして辿り着いた場所は──
「あぁ。私がリスティに初めて会った日に立ち入るなと言った場所だ」
「バラ園」
「そうだ。このバラ園は母上の好きな場所だった」
「王妃様の?」
ルフェルウス様が寂しそうに笑う。
「だから誰も立ち入らせたくなかったんだ」
「ルフェルウス様、王妃様は……」
王妃様は数年前から身体を壊して療養中だと聞いている。
「母上は父上の事が好きで好きで好きで」
「え?」
「でも、父上は母上だけじゃなくて……だから二人の気持ちはいつも、温度差が激しくて」
「……」
「父上に好きだとどんなに気持ちを告げても想いを返されない母上を見ていたら……」
そう話すルフェルウス様の顔はどこか悲しそうで私も切なくなった。
「ルフェルウス様、もういいですよ?」
「リスティ……」
私はそっとルフェルウス様を抱きしめた。
まさか単なる口下手なだけではなく、ちょっとしたトラウマも抱えていたなんて……
「リスティ。君に誓うよ」
「?」
「私は父上とは違う。妃は一人だけと決めている。リスティ、君だけだ」
「!」
そこまで言ったルフェルウス様は私の前に跪くと、私の手を取り言った。
「私、ルフェルウス・シュトラールはリスティ・マゼランズ公爵令嬢を生涯ただ一人の妃として愛する事を誓う。だからどうか私のたった一人の妃になってくれないか?」
「~~!」
なんてなんてずるい人!
こんな所でそんなプロポーズ……
「……今更、遅いです、よ」
「リスティ?」
「私はもうルフェルウス様の婚約者です。そして、あなたを愛しているのですから」
「リスティ……」
一瞬不安そうな顔になったルフェルウス様の顔が見る見るうちに笑顔に変わる。
「ですが!」
「ですが?」
「やっぱり思います……そんなに好きならもっと早く言って下さい!」
「…………うん」
全くこの人は!
「好きだよ、リスティ」
「……知っています」
「大好きだよ、リスティ」
「…………知っています」
「愛してるよ、リスティ」
どこまでもどこまでも私を翻弄するんだから!
「私も愛してますよ…………ルー様!」
「い、ま……ルー……って?」
そんなにも驚いたのか、ルフェルウス様の声が震えていた。
「えぇ、呼びましたよ。ルー様」
「リスティ……!」
苦しくなるくらい抱きしめられた。
(まさか、こんなに喜んでもらえるなんて……)
ルー様。呼ぶ事なんてない……そう思っていたのにね。
「リスティ、大好きだ」
「はい、私もです! ルー様」
私が笑顔で応えると、いつもの優しい優しいキスが降って来た。
ある日、何を考えてるのか分かりにくかった婚約者の王子様に、暴言を吐いて逃げ出してみたけれど……
私の帰る場所はいつだって、たった一つ……大好きなルフェルウス様の所なのだから────……
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
前作にあたる、
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
から続けて読んでくれた方、こちらだけを単独で読んでくれた方……
様々だとは思いますがここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました。
これは全く予定していなかった話でして、
リクエストにお答えして急遽始めた二人の物語でした。
楽しんで貰えたなら嬉しいです。
そんなに嫌いなら~で、変な設定作っちゃったので、
どう話を繋げるか悩みながらの毎日でした。
矛盾点があっても、優しくスルーしてください。
この時間軸ではヘタレなのに、未来ではバシッと決めるルフェルウス。
この時間軸ではめっちゃ有能なのに、未来ではヘタレになるエドワード。
書いてて楽しかったです(私は)
返信がおいつかない程の(……すみません)
たくさんの感想ありがとうございました!
ピンクばっかりでしたけど(笑)
もし良ければ改めて『そんなに嫌いなら~』から読んでみて下さい!
(宣伝)
あと、書ききれなかった事も実はあったりするので、
番外編も少し考えてます。
アリーチェを出したくて。
更新した時はまた、読んで貰えたら嬉しいです。
そして、いつもの宣伝。
次の話です。
『ひっそり生きてきた私、今日も王子と精霊に溺愛されています! ~殿下、お探しの愛し子はそこの妹ではありません~』
もしよろしければですが、またお付き合いいただけたら嬉しいです!
最後までお付き合い下さりありがとうございました(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ヘ
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