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side エドワード
しおりを挟む「アリーチェ」
「エドワード様!? どうしてここに?」
(あぁ、アリーチェの驚いた顔が見れた)
その驚く顔が見たかったんだ。
目を丸くした後に見せてくれる花のような笑顔。それが堪らなく可愛いんだ。
***
俺は殿下に頼まれて、殿下の元から逃げ出したというリスティ様の捜索の手伝いをしたのだが、ある可能性に思い当たり捜索にも着いていく事にした。
失礼ながらリスティ様の捜索はそのついでに過ぎない。
その可能性とは……
“アリーチェに会う事”だ。
リスティ様の最後の目撃情報が俺の家、ニフラム伯爵家の領地だったと聞かされた。
領地内で聞き込みをしたところ、銀色の髪をした美しい女性はやはり目立っていた。
そこからの目撃情報や乗り込んだらしい馬車の行先やお金の事を考えるとアリーチェの家の領地にいる可能性が高い気がした。
(これは捜索に着いて行けばアリーチェに会えるのでは?)
そんな期待が膨らむ。
俺が学園に入学してから領地にいるアリーチェとは全く会えなくなってしまった。
だからこのチャンスは逃せない!
その結果、本当にリスティ様はアリーチェの家の領地にいた。
(しかし、突拍子も無い事をしそうな危うさがあると言ったそばから本当に殿下から逃げるとか凄い人だな……)
しかも殿下に聞いた話だと髪を切って逃げたとか……行動力が凄い。
色んな意味で目が離せない人だと思う。
でも、あの二人は察するに会話が足りずにすれ違っていただけのようだから、今頃は仲直りしている事だろう。
(殿下も捜索に時間がかかっているのはリスティ様の失踪を公にしない為……)
大規模な捜索を命令してしまうと、リスティ様は面白おかしく噂されて婚約者を確実に降ろされるからな。
「まずはリスティが無事かどうか知りたい。戻って来るかは……リスティの意思に任せる。もし、戻って来る……そうなった時にリスティが帰って来れる場所を用意しておきたいんだ」
不器用ながら殿下は本当にリスティ様を愛してるんだな、と思った。
置いてくる時、ムラムラして変な真似を……なんて言ってみたりしたけど、あの殿下の事だ。
絶対にリスティ様を襲ってるだろうな。
(大騒ぎにならなきゃいいけど)
後に殿下から「がっつき過ぎて捕まりかけた」と聞いた時は唖然としたが、
俺も同じ状況でアリーチェを目の前にしたら同じ事になるな、と内心思ったのは秘密だ。
「エドワード様?」
「!」
アリーチェの可愛い声ではっとする。
しまった。つい上の空になっていた。
「エドワード様! もしかしてわざわざ私に会いに来」
「あー、たまたまオプラス伯爵領に用があったんだ。だからそのついでに顔くらいは見とこうかと思ったんだ」
「あ、そうなの……」
アリーチェが見るからにしゅんっとなって落ち込んだのが分かる。
(うわぁぁぁ! 待て待て待て、バカか俺? バカなのか!?)
だがアリーチェが、キラキラした目で俺を見るから……つい……
「アリーチェ」
俺は手を差し出す。
「?」
「アリーチェの事だから、また刺繍の練習してたんだろ。貰ってやる」
「本当に? 貰ってくれるの?」
アリーチェが嬉しそうに笑う。
良かった……元気が出たみたいだ。
しかし、我ながら上から目線だ。
「だって俺くらいしかいないだろ」
「そうですけどー……」
嘘だ。俺が全部欲しいだけだ。アリーチェの作るものは全て欲しい!
(何で言えないんだろう……)
「今、持ってくるわ! 待ってて」
「あぁ」
パタパタと走りながら部屋に取りに行くアリーチェの後ろ姿を見ながら、思うのはただただ愛しい、それだけだ。
「そう言えば、エドワード様。学園はどんな様子ですか?」
「どんな?」
刺繍したハンカチを手にアリーチェが戻って来た。
「色んな出会いがあるのでしょう? 領地でも王都の噂は入ってくるもの」
「出会い……」
出会ったと言っていいか分からないが……クラスメートにピンクの頭と縦ロールが凶器みたいになった頭が特徴的な令嬢がいて?
何故か正式な殿下の婚約者を差し置いて、王太子妃になるのは自分よ……とかいう訳の分からない無謀ないがみ合いを毎日しているんだぞ?
見てて凄い疲れるんだぞ?
──なんて言ったら、アリーチェはどんな顔するだろう?
「わ、私ね……実は、少し寂しかったの。エドワード様、学園生活が楽しくて毎日可愛くて綺麗な令嬢に囲まれてデレデレして私の事なんて忘れてしまうかもって」
「……アリーチェ?」
可愛くて綺麗な令嬢……? アリーチェ以外にどこにいるんだ?
いや、そんな事より聞き捨てならない事を言われた気が……
アリーチェさん、君は俺の事をどんな目で見てるんだ?
「だから、今日は顔が見れて嬉しい! たまたまでも用事のついででも私の事を忘れないでいてくれた事が嬉しいの。ありがとうございます、エドワード様」
「!!」
飛びっきりの可愛い笑顔でそんないじらしい事を言うアリーチェに俺のハートは完全に撃ち抜かれた。
あぁ、もうこれ何度目だろう?
(可愛すぎる! 健気すぎだろ!?)
俺は赤くなった顔を見られたくなくて両手で顔を抑える。
なんなら身体もプルプル震えている。
「あ……ごめんなさい、エドワード様。私、変な事を言ってしまったわ」
「いや、違っ……」
誤解したアリーチェが悲しい顔をして立ち上がって逃げようとしたので、俺は引き留めようと手を伸ばして咄嗟にアリーチェの腕を掴む。
「きゃ!?」
「うわっ! ごめ、アリーチェ、危なっ!」
思ってたより力が入り過ぎていたらしく、アリーチェがバランスを崩したので咄嗟に抱き抱える。
ドクッ
(うわ、柔らか……)
アリーチェの感触に心臓が飛び出すかと思った。
いい匂い……柔らかい……温かい……
(ダメだ! ますます顔が赤くなる! こんな情けない顔は見られたくない)
「エドワード様……? すみません、大丈夫で……わふっ」
「……」
俺の心配をして顔を覗き込もうとするアリーチェに真っ赤になった顔が見られたくなくて、俺はどさくさに紛れてアリーチェをぎゅっと抱きしめる。
「あぅ……エド、エド、エドエドワード様……!?」
俺の胸の中から動揺したアリーチェの声が聞こえる。
(何だ、その呼び名? 動揺してるのか?? めちゃくちゃ可愛いな)
あぁ、いつか“エド”って呼んでくれないかなぁ?
そんな事を考えながら、俺は胸の中のアリーチェを堪能した。
*****
「────そんなに私の事が嫌いなら、婚約破棄して下さい!」
誰よりも愛しい愛しいアリーチェからのその言葉にガンっと衝撃を受けた。
(あぁ、ついに来てしまった……分かってる……仕方ない)
いつかそう言われるかもしれない。そんな予感はあった。
それだけの事をアリーチェに俺はした。
(あの頃の殿下の口下手なんて可愛いもんだよ……)
いざ、自分が直面するとこんなにダメになるものなんだと思い知った。
それを乗り越えた殿下とリスティ様は、今も無自覚にイチャイチャを繰り広げながら甘い空気を王宮内に振り撒いているが……
(アリーチェ!!)
俺が何も言えずにいる間にアリーチェはそれだけ言って逃げてしまった。
部屋に取り残された俺は呆然としたまま呟く。
「……アリーチェ」
自業自得──……
分かってる。分かってるんだ……
「……いや、でもまさかとは思うがケルニウス侯爵令嬢に脅されて口にしたわけじゃない……よな? これまでの俺の態度に寂れを切らしただけ……だよな?」
だけど、一気に胸の中に広がる不安。
俺は数年前に取り付けた約束を利用し、王太子殿下まで使ってアリーチェをあの女から守ろうとして来たけど、完全では無い。万が一って事もある。
「アリーチェ!」
今は俺の顔なんて見たくないかもしれないが、ダメだ。放ってはおけない!
(追いかけよう! そして話をするんだ! これまで黙ってきた事も)
慌てて馬車に乗り込みオプラス伯爵家へと向かう。
──アリーチェ。
馬鹿な俺を許してくれとは言わない。でも、俺は誰よりも君の事が───
ガタンッ
「?」
馬車が変な音を立てた時も、凄い衝撃が俺を襲ってきた時も俺の頭の中はアリーチェの事でいっぱいだった。
────……
「アリーチェです」
記憶を失った俺にそう名乗って俺の手を握って優しく微笑んだアリーチェ。
「何か聞きたい事や、知りたい事があれば何でも聞いて下さい。私達は婚約者である前に幼馴染でもありますから」
(可愛い笑顔だな…………あ!)
胸が高鳴る。
そして、なぜかザワザワする。
──この子だ。 “俺の特別” アリーチェ……
その日、俺は二度目の恋に落ちた。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございます。
番外編第1弾。
リスティの失踪を利用してどさくさにアリーチェに会いに行ったエドワード様です。
本編にその時の様子を入れたいなと思いつつも、主軸からズレるしなと断念した話。
最後は『そんなに嫌いなら~』ともリンクさせたので、完全に両作とも読んでくれた方向けの話となってます(すみません)
カッコイイ事しているはずなのに、
笑いしか込み上げて来ないという噂のエドワード様でした!
追伸:
完結にともない、たくさんのコメントをありがとうございました!
とても嬉しく読ませて頂いてます!
思ってた以上に皆様からコメントを貰えたので全然返信が追いついてません(><)
ゆっくり返していきますので、お待ちください!
リクエストもチラチラあったので、
もうちょっと番外編書きたいと思ってます。
(ドリル嬢はどうしよう(笑))
気長にお待ちください!
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