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波乱のパーティー②
しおりを挟む「ふざけるな! 意味が分からない事を言うな!」
ルフェルウス様がエレッセ様に向かって怒鳴る。
肝心のエレッセ様はきょとんとした顔で全く効いていない。
「えー? もしかして殿下はまだ、リスティ様の事を好きだって勘違いしちゃってるんですかぁ? 嘘でしょう? いい加減目を覚ましましょうよ~」
そう言って擦り寄っていく、エレッセ様をルフェルウス様は「離せ! 触るな!!」と言って払い除けた。
「きゃっ、酷ーーい!」
「殿下! エレッセ嬢になんて事を……!」
マース様がエレッセ様に駆け寄る。
「マース……お前は謹慎させて少しは目が覚める事を期待したが……意味が無かったようだな」
「目が覚める……? 殿下は一体何を仰っておいでで? そもそもなぜ我々を謹慎なんかにしたのです? 納得がいきません」
他の3人も、そうだそうだと言わんばかりに頷く。
その様子を見たルフェルウス様は一瞬だけ悲しそうな表情をしたけれどすぐに険しい表情に戻った。
「お前達は……」
「もう、殿下~? 殿下こそ早く目を覚まして下さい。もう、いやいやリスティ様に付き合わなくてもいいんですよぉ~」
そこまで言ったエレッセ様は偽縦ロールのカツラを頭から取り、いつものピンク色の頭をのぞかせながら声を張り上げた。
「お集まりの皆様、聞いてください! そこでルフェルウス殿下の婚約者面して隣に居座っている女はとんでもない悪女なんですよぉ!」
その言葉に招待客はざわめき、一気に視線が私へと集中する。
「そこの女はぁ、私と殿下の仲を妬んでネチネチと嫌がらせをして来たんです!」
「!?」
エレッセ様は何を言っているの?
「それも自分の手は汚さずに、人の手を借りて行う卑怯な女なんですよー」
言われている事の意味が分からず呆然とする私に、クスリとした視線を向けてエレッセ様は続ける。
「私はそれが辛くて辛くてぇ。それで殿下の側近の方々に相談したんです……そしたら、リスティ様はなんと話をしに来たその側近を出て行ってとさっさと追い出したんですよ! 信じられますかぁ? ねぇ、マース様?」
「……はい。リスティ様は“聞こえなかったの? 私は出て行って。そう言ったのよ!”と大変な剣幕で……」
マース様は目を伏せながらどこか辛そうにそう口にした。
「……!?」
その言葉はあの時、マース様が私を訪ねて来た時の!
これは話がねじ曲げられている?
「そんな女が王太子妃だなんて有り得ないと思いませんかー?」
どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべるエレッセ様。
そして私に突き刺さる招待客からの冷たい視線。
さっきまでのお祝いムードなんてどこかに行ってしまった。
「ね? 殿下。これで、分かったでしょう? そこの女の薄汚い本性が。だから早く私を選ぶと言ってく……」
エレッセ様は何も知らなれば誰からも可愛いと言われるであろう笑顔をルフェルウス様に向けて再び擦り寄ろうとする。
「触……」
「ルフェルウス様に触らないで!」
「……は?」
何かを言いかけたルフェルウス様の言葉を遮って、自分でも驚くくらいの冷たい声が出た。
「聞こえなかったの? 私のルフェルウス様に触らないでと言ったのよ」
「……な、何よ! 睨んだって無駄よ、私はー……」
「エレッセ・ファンファ男爵令嬢!」
ビクッ
私の声に少しだけエレッセ様の身体が震えた。
「そもそもですが、あなたは誰に向かって口を聞いているのか分かってます?」
「分かってるに決まってますよー。それが何なんですかぁ?」
「そう? ならまずあなたは貴族社会についてのお勉強から開始する事をオススメするわ。話はそれからね」
「……は?」
エレッセ様が目を丸くした。
どうやら意味が分からないらしい。
「だって、ファンファ男爵令嬢が分かっているようにはとても……ですから……あぁ、貴族社会についての話は5歳頃から教わり始めて学園入学まで10年かけて頭や身体に身に付けながら理解していくようなお話ですので……あなたとこの話の続きが出来るのは今から10年後になりますね!」
「はぁ? ちょっと馬鹿にしてるの!?」
「え? 本当の事を言っただけですけど……」
私のその言葉に会場の隅からプッと笑いをこらえたような声が上がった。
その声につられるようにクスクスとした笑い声も広がっていく。
「な、何よ、何で笑うのよ!? 今笑った人達、覚えておきなさい! 私はね、王太子妃になる女性なんー……」
「いい加減にしろ、ピンク頭。妄想はお前の頭の中でだけにしておけ!」
「ピ、ピンク……? 妄想……?」
ルフェルウス様の言葉にエレッセ様が固まった。
でも、すぐにハッとして笑顔を浮かべ……
「やだぁ、殿下ったらぁ~」
「触るなと言ったはずだ! 私に触れていいのは私がただ一人愛する女性、リスティだけだ!」
ルフェルウス様は私の肩を抱いて引き寄せながらエレッセ様を蹴散らした。
「大丈夫か? リスティ」
「ルフェルウス様……」
「5歳児の相手は大変だったろう? まだまだ、子供とはいえ仕方ないな」
(あら? その話を引っ張るのね?)
そう思いながら私も笑顔で返す。
「大丈夫ですわ。気にしていません。だって子供の言う事ですもの」
「リスティは優しいな」
そう言ってルフェルウス様は私の額にそっとキスを落とす。
「もう! ルフェルウス様ったら! 皆が見ていますわー……よ?」
「構わない。私はいつでもどこでも愛しいリスティに触れていたい」
「!」
あ、あら? ルフェルウス様の目が……本気に見える……のは気の所為?
「リスティ……」
う、うん。熱っぽい目で見られてるわ?
これ、いつものキスを迫ってくる時と同じ気がするわーー
チュッ
「ひゃぁ!」
ルフェルウス様が今度は私の頬にキスをした。
「こんな所でなんて可愛い声を出すんだ……」
「ルフェルウス様のせいです、よ? だ、だ、だって……」
「リスティ……」
私がボンッと顔を赤くして涙目になったのを見たルフェルウス様が「あぁぁ、もう! 可愛い!」と言いながらギュッと抱きしめてくる。
「??」
「リスティ……その顔はダメだ。他の人には見せるな!」
「な、何の話です、か?」
「そんなの決まってる、リスティが可愛……」
私達が皆の前だという事も忘れていつもの調子で抱き合い見つめ合いながら会話を続けていると、
「何してんのよぉぉぉ!」
と、エレッセ様が真っ赤になって怒鳴り始めた。
「人を5歳児とか言って馬鹿にしておいて、イチャイチャしてんじゃないわよ! リスティ様、あんたどんだけ殿下を誑かしてるのよ!」
「……誑かしてるのはお前の方だろ、ピンク!」
イチャイチャ……を邪魔されたのがよほど腹が立ったのか、ルフェルウス様の声はかなり低い。怒ってる。すごく怒ってる……
「私が、誑かす? やだぁ、何の話ですか~?」
「しらばっくれるな。そんなに知りたいなら大勢の前で話してやろう。お前が学園でしてきた事を」
「……え?」
「ピンク頭! お前が学園で多くの男達を誑かしてきた事は分かってるんだ。ではまずは、一人目……そうだな、私の元側近だったマースの話からにするか」
「も、元側近……?」
マース様が唖然とした顔で呟く。
謹慎となっていた身で、さらに本日も許可なくここにやって来ていて何故、未だに側近気分でいられるのかすごく知りたい。
そうしている間にも、ルフェルウス様の話は続く。
マース様の話が終わると次はミッチェル様の話へと移り……
側近だった4人の顔が話が進むにつれてどんどん真っ青になっていく。
そして、同様にエレッセ様の顔からも段々と笑顔が消えていった。
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