【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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29. 波乱のパーティー①

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「ルフェルウス様、私、どこかおかしくはないですか?」

  パーティー当日、ドレスを着た私はぐるっと一回転してルフェルウス様に感想を求めてみた。

「可愛い」
「えーと……そうではなくてですね」
「リスティは可愛い」
「もう!  真面目に答えて下さい!」

  全然、真面目に答えてくれていないわ!
  と、私が怒り出すとルフェルウス様は困った顔をする。
  その顔は何!

「本当に可愛いからそう言っているだけなのに?」
「なっ!」

  思ってもみなかった事を言われて言葉を失った私は口をパクパクさせながら真っ赤になった。

「……?  何で顔が赤くなったんだ?」
「~~!」

  ルフェルウス様が真顔で問いかけて来る。

  (分かってない!)
  
  互いの気持ちを確認しあってからのルフェルウス様は、これまでの口下手が嘘のように私に向かって“可愛い”とか“好きだ”とか思った事を口にするようになった。

  (反省するのはいい事だと思うわ……私もたくさん反省したもの)

  でも、これは変わりすぎだと思うの。
  やっぱり私はルフェルウス様に翻弄されている!

「リスティ……」

  そして、隙あらばキスを仕掛けてくるのもいつも通り。
  いつもなら、そのまま流されてトロトロに甘やかされてしまうのだけど、今日は駄目!  お化粧が落ちてしまうから。

「ルフェルウス様、今はダメです!」

  迫ってくるルフェルウス様の顔を手で止める。

「何で?」
「せっかくのお化粧が落ちてしまいます」
「……直せばいい」
「簡単に言わないで下さい!  直すのはルフェルウス様ではないのですから!」
「……」

  そんな残念そうな顔をしても駄目なものは駄目!

「ではこっち」
「へ?」

  そう言ってルフェルウス様は私を抱き寄せると首筋に顔を寄せ……

「こっちも、ダメですってば!  髪で隠せません!!」
「……あ。そっか」

  ルフェルウス様は残念そうに顔を離した。

「……」

  おかしい。なぜ、私はパーティーの前にこんなに疲れているの。
  と思っていたらルフェルウス様が笑顔で言った。

「うん、いつものリスティだ」
「……え?」
「顔が緊張して強ばっていたからね。これで少しは解れた?」
「……!」

  (まさか、わざとだったの?)

  ……本当に本当にずるい人だわ。
  私が内心で、不貞腐れているとそんな私の心の中を読んだかのようにルフェルウス様が手を差し出す。

「そんなむくれた顔も可愛いけど、私はリスティの笑顔が好きだよ。さぁ、行こうか?  私のお姫様」
「~~……はい、王子様」

  差し出された手を取って私達はパーティーへと向かった。




  ルフェルウス様の婚約者として皆の前で挨拶を無事に終え、その後は個人的な挨拶回りの時間。
  そうして連れ立って挨拶していたら、ふと見覚えのある頭が会場に入ってくるのが目に入った。

  (あれ?)

「ルフェルウス様」

  私は隣にいるルフェルウス様に小声で声をかける。

「どうした?」
「今日のこのパーティーに、オコランド侯爵家を招待していましたよね?  でも確か、ミュゼット様は」
「あぁ、もちろん。だが、縦ロー……コホンッ、ミュゼット嬢からは不参加の連絡を受けているが?」
「ですよねー……」

  縦ロール……こと、ミュゼット様は「どうして、わたくしがわたくしでは無い女との婚約者披露のパーティーに参加せねばなりませんの!?」と大層お怒りでオコランド侯爵と大喧嘩を繰り広げ、結果不参加になったと聞いた。

「なら、あの頭は頭違いでしょうか?」
「頭違い?  あんな縦ロールが他にあってたまるか。ん?」

  ルフェルウスが私の視線の先に目をやると、驚いた様子を見せる。

「いや、あれは。あの縦ロールは確かに……」
「そうですよね。やっぱりミュゼット様は参加する事にした──あれ?」

  ミュゼット様が気持ちを切り替えて参加したのかしらと思ってあの縦ロールを見ていたら何か違和感を覚えた。

「どうした?」
「…………ルフェルウス様。縦ロールが違います」
「は?」
「彼女の縦ロールは、ぶぉんって揺れるんです」
「……知ってるが」
「ですが、あそこにいるミュゼット様らしき人の縦ロールには、そこまでの勢いがありません!  あれでは、ただの“ふよふよ”です」
「ふよふよ……」

  私の謎の力説にルフェルウス様も目を凝らしてよく見ようとするけれど、さすがにそこまでの違いは分からなかったらしく、渋い顔になった。

「……あれは、ミュゼット様のフリをした別人です!」
「落ち着け、リスティ。他人のフリだと?  そんなバカな真似を誰がする──……」
「……」
「……」

  この時の私とルフェルウス様の心は一つだったと思う。
  顔を見合せた私達は慌てて会場の入口にいる偽縦ロール令嬢の元へと向かう。
  そして、そこで目にしたのは……
  
「な!」
「ど、どうして?」
「……あいつら」

  ルフェルウス様の表情が怒りに変わる。
  それもそのはず。偽縦ロール令嬢のそばに居たのは、

「マース、ミッチェル、オーラス、ヒューズ……」

  ルフェルウス様の側近だった4人。彼らの謹慎は解けていない。
  エレッセ様に罪を問う時に一緒に処分を言い渡すと聞いていたのに。
  その彼らが何故かここに居て、偽縦ロール令嬢を囲んでいる……つまり、この令嬢の正体は……

「ここで何をしているんですか?  エレッセ・ファンファ男爵令嬢」

  彼らと話せる距離まで近付いた私がそう声をかけると、偽縦ロール令嬢こと、エレッセ様は、縦ロールをふよふよさせながらこちらを振り向いた。

「えぇ?  嘘!  何でもうバレちゃったんですかぁ?  オーラス様のメイク術は完璧だったのにぃ!  ちょっと、オーラス様~?」
「……」

  名指しされたルフェルウス様の側近だったオーラス様は驚いた顔をしていた。
  確かによくよく見るとエレッセ様は化粧で外見だけはミュゼット様とそっくりになっていたので、口を開きさえしなければ間違えてもおかしくは無い。
  でも、肝心の縦ロールが違う!

「お前達もだ。これはいったいどういうつもりだ?  私達はお前達5人をこのパーティーに呼んだ覚えは無いんだが?」

  ルフェルウス様の冷ややかな声が一気に周りの空気の温度を下げた。

「だからですよ~。どうして殿下は私を呼んでくれないんですか??  おかしいじゃないですか!  どうするつもりだったんですかぁ?」

  エレッセ様は空気も読まずに、にっこり笑いながらそこに割り込む。  

のお披露目なんですよねぇ?  そこの悪役令嬢リスティ様との婚約破棄を発表して、私との婚約を発表する場でしょう?」
「は?」
「?」

  エレッセ様がいったい何を言い出したのか私には全く分からなかった。


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