【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

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12. 賑やかな一家

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「────というわけで、順番にさっさと紹介していくわね!」
「はい!」

 屋敷の中にお邪魔するとガーネット様が美しい笑顔でハイハイハイと手を叩きながら、ギルモア家の人たちの紹介を開始してくれた。

「こちらから、私の夫で侯爵家当主のジュルジュ!」
「ジョルジュ・ギルモアだ、ようこそ」

(かっ、かっこいい……!)

 こちらも、ジョシュアくんのお祖父様とは思えない程の若々しさ。
 ガーネット様と並ぶとお似合いの美男美女なのがよく分かる。
 それにジョシュアくんともよく似てる……
 お祖父様とは?
 またしても私の概念がおかしくなった。

(この家の中だけ時空が歪んでいるんじゃ……?)

 きっと見た目だけじゃなく、中身も優秀な立派な侯爵閣下なのだろう───……

「愚かな者たちを埋めて始末したいならこのジョルジュにお任せよ!  愛用のスコップを用いて毎日せっせと庭を掘ってくれているからどんどん頼るといいわ」
「ああ、任せろ!」

 どんっと胸を叩く侯爵様。

(…………ん?)

 スコッ……聞きなれない単語が飛び出した気がして理解しようと頑張っているうちに、人物紹介は次へと向かってしまう。

「そして、これが私の息子のジョエルね!  エドゥアルトとは幼少期から親友なの。その隣がジョエルの妻、セアラさん───分かっていると思うけどジョシュアの両親よ!」
「………」
「セアラ・ギルモアです」

(このお二人がジョシュアくんの……)

 ジョエル様とジョシュアくんは誰が見ても親子────本当にそっくりだった。
 最初はエドゥアルト様を父親だと勘違いしてしまったけれど、最初から二人が一緒に並んでいたなら絶対に間違えることはなかっただろう。

「見たところ、レティーシャさんはジョエルやセアラさん、エドゥアルトと同世代だけど顔見知りではなかったようね?」
「は、はい……私はあまり社交界に出ていなかったので」
「ジョエルやエドゥアルトはそれなりに有名人だと思っていたけど、あなたたちもまだまだだったみたいね!」

 ホホホ、とガーネット様は笑う。
 確かに、きちんと社交界に出ていたならエドゥアルト様は忘れられないくらいのインパクトはある。

(ジョエル様は……)

 そんなジョエル様はキュッと眉間に皺を寄せて無言で私を見ていた。
 その隣でにこっと微笑んでくれている夫人との対比がすごい。
 セアラ夫人は確かに天使!
 見た目も天使だけど、この居るだけで癒される優しい雰囲気はそりゃ天使だと叫びたくなる。

(分かる……そしてこの方、絶対に中身も天使!)

 同じ“可愛らしい”でも、ステイシーとの差は火を見るより明らか!
 私が確信を持って内心で興奮していると隣のジョエル様からの視線が刺さる。

「……」

 ジョエル様は今も無言。
 キュッと眉間の皺だけが増えていく。

(これは……怒っているわけじゃない、のよね?)

 エドゥアルト様からの事前情報、
 “ジョシュアの父親──ジョエルは口数も少なく表情が全く顔に出ない不器用な男なんだ”
 この説明がなかったらこの見た目と雰囲気だけで脅えていたかもしれない。

「やあやあやあ!  ジョエル、そんなに皺を増やさなくともレティーシャ嬢は見ての通り素敵なご令嬢さ!」
「……」

 ここでエドゥアルト様が登場し、ジョエル様の肩をポンッと叩く。

「この僕が保証する!」
「……」
「ん?  ジョシュアが興奮していたからそんなことは会う前から分かっている?  ははは、それもそうだな。失礼した」
「……」
「ああ、ジョシュア確保のお礼か?  あの日は心配かけてすまなかった」
「……」
「まあ、“ボクを抱っこして入場するといいです、楽しいです”と自らを推薦してきた張本人が突然脱走したわけだからな、さすがの僕も驚いたよ。はっはっは!」

(え、え、ええええーー……)

 エドゥアルト様とジョエル様の会話(?)に私は目を剥いた。
 ここまでジョエル様は一言も喋らずにエドゥアルト様が一人でペラペラ喋っている。
 会話(?)が成立しているらしきことに驚かされた。
 あと、まさかの言い出しっぺだったらしいジョシュアくんの直前の裏切り方がエグい!

「……」
「うん?  ああ、気にするな。あの年頃が好奇心旺盛でやんちゃなのは仕方がないことだろう」
「……」
「それにこうしてレティーシャ嬢とも知り合えたのだから、結果オーライというやつだろう!」
「……」

 そこでジョエル様がハッとした様子でもう一度私に視線を向ける。
 そしてなぜか眉間の皺がさらに増えていく。

「おい、ジョエル?」
「……」
「ジョエル様?  大丈夫ですよ。少し落ち着きましょうか」

 横から夫の顔を覗き込んだセアラ夫人がにこっと笑って、慣れた手つきでジョエル様の眉間の皺をせっせと伸ばし始めた。

(……あ!  頬が緩んだ!)

 ほんの少しだけどジョエル様の顔が和らいだのが分かった。

(これは────ベタ惚れのデレデレね……?)

 分かりにくいけれど、ジョシュアくんのお父様は奥様にデッレデレ!
 同じデレデレでもこちらの夫婦への不快感は全くない。

「ああ、そうかジョエル。君はこれからも良ければジョシュアと懇意にしてやってくれ、と言いたくてウズウズして眉間の皺をどんどん増やしていたのか!」
「……」
「ははは!  だが、相手がベビーだからそんなことを頼むのは申し訳ないかと躊躇っていたのだな!」
「……」

(そして、良い人───ジョエル様って絶対良い人!)

 私はそう確信した。
 何よりエドゥアルト様が本当にジョエル様のことを大切な友人……親友だと思っているのが私にも伝わってくる。

「はいは~い!  そろそろいいかしら?  夫婦のイチャイチャと熱い熱い男の友情は一旦置いて紹介を続けるわよ~」

 ガーネット様がパンパンと手を叩きながら間に入り込んだ。
 手を叩く姿さえもお美しい……そしてなんてお強い……
 思わず平伏したくなる。

「そして最後ね!  まあ、今更紹介は要らないと思うけれど、我が家のベビー─────」

 確かに最後は紹介されなくても分かる。
 でも、そんな肝心のベビーはまだここには居な……

「─────あうあ!」

 ペタペタペタペタ……

 まさにその瞬間、廊下で聞き覚えのある声と足音が響いていた。

「あうあ!」

 ペタペタペタペタペタ……

「ジョシュア坊っちゃま~~」
「お待ちください~~~」
「まだ、お着替えの途中でございますーーーー」
「あうあ!」

(お、お着替えの途中……ですって?)

 まさか今、ジョシュアくんの格好は……と考えたらガーネット様が高らかに笑う。

「ホホホ!  廊下が騒がしいわね!  半裸ジョシュア……すっかり慣れた光景だわ」
「ええええっ!?  半裸のジョシュアくん!  がですか!?」
「ホーホッホッホッ!  そうよ!  あれは我が家の日常。それにしてもいいタイミングで廊下を走り回っているようねぇ?  さすがジョシュア」

 ガーネット様がふっふっふと妖しく笑ってる声に合わせるかのように廊下からは、あうあ~!  と楽しそうな声が聞こえて来る。

(す、すごい……)

 半裸で走り回ることに慣れている───その発言にも私は驚いたけれど、なんとその場の全員が冷静で落ち着いていることにも驚いた。

(────エドゥアルト様まで!?)

 とりあえず、エドゥアルト様がこの家族にすっかり馴染んでいることは理解した。


─────


「……と、いうことですから、ジェローム様……えっとニコルソン侯爵令息はわたくしに次の婚約者が見つかるなどと夢にも思っていないので──」
「公爵令息の僕がばばーんと登場するだけでもカス男は腰を抜かすというわけか!」
「あうあ!」

 ニパッ!
 そうして始まったエドゥアルト様との話し合い。

 なぜか、私の膝の上には微笑み天使のベビー、ジョシュアくんが鎮座している。
 半裸脱走を終えて着替えを終えたこちらのベビーは、
 “キレイキレイしていたらお姉さんと話す時間が減った!”
 などと主張して自分も話し合いに参加すると主張。
 しかも、私の膝上での参加を所望した。

「ああ。そうだな、ジョシュア。カス男が腰を抜かす瞬間は絶対にこの目で見てやらないといけないな」
「あうあ!」
「女狐か?  女狐の方もその可愛いと持て囃されている顔を悔しさで醜く歪めることだろう」
「あうあ!」

(ジョシュアくん……なぜ、そんな生き生きと)

 ニパッ!  ニパッ!  ニパッ!
 ジョシュアくんが満面の笑みで話し合いにかなり前のめりで参加している。

「あうあ!」
「腰を抜かした所をお姉さんが踏み潰すといいです、か───それはなんてご褒美だ。最高じゃないか!」
「……ご褒美?」

 エドゥアルト様の言葉に首を傾げる。

「……はっ!  んンォんッ…………い、いや、それは羨ま……コホッ……最高にいいダメージを与えられるだろうな、と言いたかった!」
「あうあ!」

 ははは、と笑うエドゥアルト様とニパッと笑うジョシュアくん。

(……んん~?)

 何だか様子が変ね、と思いながらも続ける。

「それは、まあ……令嬢、しかもわたくしに踏まれるのは相当の屈辱だとは思いますが……」
「まあ、それもそうだろう。僕もそうだった……」
「あうあ!」
「この場合ですけど、逆に踏まれたぞ!  怪我をしたじゃないか!  などと訴えられたりしませんかね?」
「まあ、最初はそのように憤慨するかもしれないが、新たな扉が開く可能性もある……」
「あうあ!」

(新たな……扉?)

 私は眉をひそめる。

「ジョシュアくん?  どうして、あなたも分かります、と言わんばかりに賛同しているの?」
「あうあ!」

 ニパッ!
 いい笑顔を向けてくるジョシュアくん。

(これは……ま、まさか)

 私は顔を上げてジョシュアくんからエドゥアルト様に視線を変えて真っ直ぐ彼を見つめる。

「……エドゥアルト様」
「なんだ?」
「あうあ!」

 エドゥアルト様を呼んでるのになぜか返事をしてくれるジョシュアくん。
 君じゃないよ?

「一つお聞きしても?」
「ああ、構わない」
「あうあ!」

 ジョシュアくんにはにこっと笑顔を向けておいて私は軽く咳払いをしてから訊ねる。

「人に─────踏みつけられるのって快感ですか?」
「ああ!  とっても!」

 ジョシュアくんのニパッ!  に負けないとびっきりいい笑顔でエドゥアルト様が頷いた。

(やっぱり────!)

「あうあ!!」
「ん?  なんだ?  ジョシュア…………あっ……」

 ジョシュアくんに咎められたエドゥアルト様は、しまった!  と言わんばかりに慌てて口を押さえた。
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