45 / 66
45. 本当に愛されているのは……
しおりを挟むだけど、その頭の痛みはほんの一瞬だった。
(どういうこと? 何で、また?)
サヴァナは今、魔力封じをされているから何も奪えないはずなのに。
しかも、魔力封じを行ったのはルウェルン国一の魔術師のトラヴィス様だ。
彼が解かない限り、サヴァナが力を使えるはずがない。
「……っ」
(でも、今、確かに私の魔力が少し……)
トラヴィス様と魔力の流れを感じとる練習をしたこともあり、今の私には分かる。
使える魔力が少し減った気がした。
(でも何かしら? サヴァナに奪われていたらしい時に感じていたのとは何かが違う……)
確かに魔力は減った気がするのに。
そうだわ。これは、奪われたというよりも、むしろ────……
「お姉様? 黙り込んでどうしたの?」
「……」
「自分が誰からも愛されない惨めな存在だって思い出せた?」
サヴァナは頭痛のせいで動揺した私を見て、これはダメージを与えられる……そう思ったのか勝ち誇ったような表情を浮かべた。
────そうよ。私はずっとずっと、愛されたかった。
誰からも無条件で愛されるサヴァナが羨ましかった。
お父様とお母様からの愛が無理なら他の人からでもいい。
愛されるようないい子になるから、たくさんたくさん頑張るから私を愛して────
そう願っても、いつだって私の手をすり抜けてばかり。
そうだ。それが辛くて私は……
私は自分の気持ちに蓋をしようと思った……わ。
───ズキッ
再び、頭に痛みが走る。
「“守護の力”がなくては何の価値もないお姉様だものね。だから、これからもお姉様は孤独で愛されない惨めな……」
「───マルヴィナ。こんな戯言は聞くな」
(……え?)
突然、背後からそんな声が聞こえたと思ったら、両手で耳を塞がれた。
びっくりして振り返ると、トラヴィス様が立っている。
その顔はこれまでで一番怒っている気がした。
トラヴィス様は私の両耳を塞いでいた手を少し緩めると言った。
「あの女が言っていることは全て戯言だ。聞く価値もない」
「戯言!? 私が言っているのは戯言なんかじゃ……」
「───黙れ!」
サヴァナが酷いとトラヴィス様に抗議するけれど、トラヴィス様はひと睨みでサヴァナを黙らせた。
そして、すぐに私の方へと顔を戻す。
「本当に誰からも愛されていなくて孤独で惨めなのは……マルヴィナじゃない。妹の方だ」
「トラヴィス様……?」
私が見つめ返すと、トラヴィス様はそっと手を私の両頬に添えて顔を固定する。
まるで、目を逸らさないてくれと言っているみたい。
そして、トラヴィス様の綺麗な青い瞳が私の目を真っ直ぐ見つめてくる。
その瞳を見ていたら胸がドキッと大きく跳ねた。
「なぜならマルヴィナ…………コホッ」
トラヴィス様は軽く咳払いして仕切り直す。
「───君のことは俺が愛しているからだ」
(───え?)
空耳? 聞き間違い?
トラヴィス様が私を───あ、いして、いる?
目を丸くする私にトラヴィス様は、じっと目を逸らさずに続ける。
「……ずっと辛い目にあって来ただろうに、それでも健気に前向きに頑張ろうとする君の姿に俺はいつしか惹かれていた」
「え、え?」
「俺にとってマルヴィナは、誰よりも可愛いくて愛しいたった一人の愛する存在だ」
「あ……」
「魔力や守護の力? そんなものは関係ない。俺は魔力や特殊な能力なんてあっても無くても構わない。俺はマルヴィナ自身に惹かれている」
「!」
───ピキッ
私の頭の中に、前にも聞いた覚えのある音が聞こえた。
「そもそも───俺は好きでもなんでもない女性にこんなに触れたりしない」
「あ……」
そう言われて、これまでたくさん抱きしめられたこととか、キスをしたこととかが私の頭の中に甦る。
しっかり思い出してしまったことで、頬がどんどん熱くなっていく。
「マルヴィナだけだ。俺はマルヴィナのことが好きだ。だから君に触れたい、いつだってそう思っている!」
「私……だけ」
「そうだよ」
トラヴィス様の顔が赤い。
そして、照れながらもはっきり頷いてくれた。
───トラヴィス様が私のことを好き? 愛して……いる?
(……愛?)
「愛しているよ、マルヴィナ。だから、俺がいる限り君は誰からも愛されない存在なんかじゃないんだ」
「……!」
───ピキッ、ピキ……
また、この音。
私の頭の中で何かが割れていく音、がする。
「そ、それから、き、気が早い……と思われるかもしれない……が、コホッ」
「トラ、ヴィス様……?」
急に盛大に照れ出したトラヴィス様の様子に戸惑っていると、トラヴィス様は赤かった顔を更に真っ赤にして言う。
「お、俺はマルヴィナと家族になりたい!」
「か、家族!?」
まさか、そ、それって、けけけけけけっ……
動揺と恥ずかしさと嬉しさが、頭の中でごちゃごちゃに混ざってしまってその先の言葉が出て来なかった。
「今、マルヴィナには家族と呼べる人はいないだろう? だから、俺が! 俺と結婚して家族になろう?」
「ト……」
───ピキッ
(どうしよう……)
視界がぼやけて来て、トラヴィス様の顔が上手く見えない。
家族? トラヴィス様は家族になろうと言った?
「家族……」
「ああ、俺と家族になってくれたら、もれなくちょっとやかましい……が頼りになる義妹も出来るぞ!」
「……ふっ」
リリーベル様の顔が頭に浮かんで思わず笑ってしまった。
チラッとリリーベル様に、視線を向けると……
(えっと……? 下を向いて身体が震えている?)
リリーベル様に何があったの!? もしかして魔力の使いすぎ!?
一気にリリーベル様のことが心配になったけれど、トラヴィス様が少し強引に「リリーは大丈夫だから、俺を見てくれ」と言って視線を戻すように促された。
そうして再び私たちは見つめ合う。
「───やっと笑ってくれた」
「!」
「マルヴィナはどんな顔をしていても可愛いが、笑った顔は最高に可愛いんだ」
「え!?」
「こんなにも、可愛いくて綺麗な笑顔を持った人を俺は他に知らない」
とんでもない美少女を妹に持っている美丈夫が、うっとりした表情でおかしなことを言っている!
そんなことを考えていたら、トラヴィス様が私から身体を離してその場に跪いた。
「トラヴィス様? な、何をして……!?」
何事かと驚いていると、トラヴィス様はそのままの体勢で私の手を取り、手の甲にそっとキスを落とした。
「!?」
もうずっと私の心臓は破裂寸前だった。
それなのに、トラヴィス様は私の心臓にとどめの一言を告げる。
「───マルヴィナ。俺は君への生涯変わらぬ愛をここ……に誓うよ」
「!」
「君が大好きだ」
そう言ってトラヴィス様は立ち上がるとそのまま私をギュッと抱きしめた。
(……嬉しい)
真っ先に浮かんだのはそんな気持ち。
(だって、私も……あなたが好きだもの)
私の心臓が大爆発を起こす前に、トラヴィス様にこの気持ちを伝えなくちゃ!
と思ったその時。
─────ピキッ、ピキピキピキッ……
凄い勢いで何かが壊れていく音がする。
そして────……
パリンッ
(……え?)
───そして、ついに。
心臓の破裂……ではなく、別の何かの割れる音がした。
488
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ
エレインたちの父親 シルベス・オルターナ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!
サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう――
※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる