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第一部:第一章 夢への第一歩
(三)牙竜将②
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「おーい、疲れたのか?交替するぞ」
模擬戦の向こうにいた騎士が叫んだ。声を掛けられた騎士は、しきりに首を傾げている。何か納得いかない様子で、そのまま剣を拾い上げると下がっていった。
周囲も静まり返ったままで、出来事を静観している。
あれ、おかしいな。シェラは首を傾げた。
良く見ると、ラーソルバールは剣を握ったまま立っている。では、剣を落としたのは騎士の方だったということか。出来事をあまり理解できずに見ていると、交替した騎士が彼女の前にやってきた。
騎士は剣の感触を確かめるように何度か素振りし、軽く準備を行う。それが終わるのを待って、再び開始の合図が発せられた。
今度は開始直後に騎士が動きラーソルバールに切りかかったが、すぐに軽い金属音が響くとともに再び剣が宙を舞った。
「あはは……」
突然、ガイザが笑い出した。
「俺が弱い訳じゃなかったんだな」
受験者達が押し黙ったままでいるお陰で、ガイザがつぶやいた一言が良く聞こえる。シェラも今度はちゃんと見た。ラーソルバールが攻撃を剣で受けて相手の剣を絡め取ったのだ。
多くの受験者には理解できていないかもしれない。こんな少女が、そんなことをするなどとは誰も思わないはずだ。目の前で起きている光景に、胸が高鳴るのを感じた。
「お前ら、何やってんだ」
向こう側で、同時に行われていた試験を眺めていた大柄な男が、ラーソルバールの所までやって来た。模擬戦の相手をしていた騎士の頭を小突くと、拾いあげた剣を奪い取った。
「すまんな、嬢ちゃん。ヘッポコどもに替わって俺が相手させてもらうぜ」
ラーソルバールに相対して、大男は髭面に笑みを浮かべた。
「牙竜将……!」
ガイザが驚いたように声をあげる。その大男が第二騎士団の団長、オリウス・ランドルフの異名だということは、騎士を目指す者であればほぼ誰もが知っている。
牙竜将の登場に受験者達は盛り上がり、あちこちから歓声が上がる。
何かまずいことになってないだろうか。シェラはラーソルバールの試験がどうなるのかと不安を募らせた。
「嬢ちゃんは良い技使うな。ただな、あれだけじゃ試験にならねぇ」
シェラからは横顔しか見えないが、彼女は何となく笑っているように見える。この状況を楽しんでいるという事だろう。
斧の名手として知られる牙竜将だが、剣の腕も一流と言われている。そんな相手に不安は無いのだろうか。見ている側のシェラさえも、緊張してしまう。
二人が剣を構えると、すぐに開始の合図が出された。
一瞬の間を置いて、ラーソルバールはしなやかな動きで突っ込んだ。 ランドルフは待っていたかのように、タイミングを合わせて横に凪ぎ払うが、ラーソルバールはそれを潜り抜けると、下から上へと切り上げた。
「うひょぉ!」
攻撃をぎりぎりで避けきったランドルフは、感嘆の声を漏らす。
勢いを殺さず、横から上へと振り上げられたランドルフの剣が、唸るように振り下ろされた。ラーソルバールは、それをランドルフの反利き手側に飛んで避けると、着地したその足で切り返し、勢いを乗せて切りつける。
ランドルフがそれを受け流すと、ラーソルバールはまるで舞うかのように、優雅に三回剣を振るった。
いずれも剣でかわされたが、最後の一撃の反動でラーソルバールは後ろに跳んだ。それは、見ている者を惹き込むような出来事で、ランドルフの登場による先程までの歓声が、嘘のように静まり返っていた。
「あのさ……、俺がどうやっても勝てないのは、あいつなんだ」
ガイザがすっきりしたような、嬉しそうな表情で、二人の戦いを見つめている。
そうか、ガイザの言うもっと強い人ってラーソルだったのか。シェラは驚きつつも、納得した。
模擬戦の向こうにいた騎士が叫んだ。声を掛けられた騎士は、しきりに首を傾げている。何か納得いかない様子で、そのまま剣を拾い上げると下がっていった。
周囲も静まり返ったままで、出来事を静観している。
あれ、おかしいな。シェラは首を傾げた。
良く見ると、ラーソルバールは剣を握ったまま立っている。では、剣を落としたのは騎士の方だったということか。出来事をあまり理解できずに見ていると、交替した騎士が彼女の前にやってきた。
騎士は剣の感触を確かめるように何度か素振りし、軽く準備を行う。それが終わるのを待って、再び開始の合図が発せられた。
今度は開始直後に騎士が動きラーソルバールに切りかかったが、すぐに軽い金属音が響くとともに再び剣が宙を舞った。
「あはは……」
突然、ガイザが笑い出した。
「俺が弱い訳じゃなかったんだな」
受験者達が押し黙ったままでいるお陰で、ガイザがつぶやいた一言が良く聞こえる。シェラも今度はちゃんと見た。ラーソルバールが攻撃を剣で受けて相手の剣を絡め取ったのだ。
多くの受験者には理解できていないかもしれない。こんな少女が、そんなことをするなどとは誰も思わないはずだ。目の前で起きている光景に、胸が高鳴るのを感じた。
「お前ら、何やってんだ」
向こう側で、同時に行われていた試験を眺めていた大柄な男が、ラーソルバールの所までやって来た。模擬戦の相手をしていた騎士の頭を小突くと、拾いあげた剣を奪い取った。
「すまんな、嬢ちゃん。ヘッポコどもに替わって俺が相手させてもらうぜ」
ラーソルバールに相対して、大男は髭面に笑みを浮かべた。
「牙竜将……!」
ガイザが驚いたように声をあげる。その大男が第二騎士団の団長、オリウス・ランドルフの異名だということは、騎士を目指す者であればほぼ誰もが知っている。
牙竜将の登場に受験者達は盛り上がり、あちこちから歓声が上がる。
何かまずいことになってないだろうか。シェラはラーソルバールの試験がどうなるのかと不安を募らせた。
「嬢ちゃんは良い技使うな。ただな、あれだけじゃ試験にならねぇ」
シェラからは横顔しか見えないが、彼女は何となく笑っているように見える。この状況を楽しんでいるという事だろう。
斧の名手として知られる牙竜将だが、剣の腕も一流と言われている。そんな相手に不安は無いのだろうか。見ている側のシェラさえも、緊張してしまう。
二人が剣を構えると、すぐに開始の合図が出された。
一瞬の間を置いて、ラーソルバールはしなやかな動きで突っ込んだ。 ランドルフは待っていたかのように、タイミングを合わせて横に凪ぎ払うが、ラーソルバールはそれを潜り抜けると、下から上へと切り上げた。
「うひょぉ!」
攻撃をぎりぎりで避けきったランドルフは、感嘆の声を漏らす。
勢いを殺さず、横から上へと振り上げられたランドルフの剣が、唸るように振り下ろされた。ラーソルバールは、それをランドルフの反利き手側に飛んで避けると、着地したその足で切り返し、勢いを乗せて切りつける。
ランドルフがそれを受け流すと、ラーソルバールはまるで舞うかのように、優雅に三回剣を振るった。
いずれも剣でかわされたが、最後の一撃の反動でラーソルバールは後ろに跳んだ。それは、見ている者を惹き込むような出来事で、ランドルフの登場による先程までの歓声が、嘘のように静まり返っていた。
「あのさ……、俺がどうやっても勝てないのは、あいつなんだ」
ガイザがすっきりしたような、嬉しそうな表情で、二人の戦いを見つめている。
そうか、ガイザの言うもっと強い人ってラーソルだったのか。シェラは驚きつつも、納得した。
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