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第一部:第二章 希望を胸に
(三)出会いと再会②
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「ラーソルさんは間違いなく、この学校で一番強いという噂です」
そう言われてラーソルバールは憂鬱になった。会話が聞こえたのか、推薦入学の二人が、こちらを伺って居るのが分かる。
確証の無い噂話から、厄介事が降りかかって来ないで欲しいと願う。皆には『今のを聞かなかった事にしてください』と言いたいところだ。とはいえ、噂話を聞かせてくれたエミーナが悪い訳ではない。
そう思っていると、一人の男子がやって来た。例の推薦入学者の一人だった。
「一番強いのはこの俺、ジェスター・バセットだ。こんな貧弱女が一番だとか、一般入学者は相当程度の低い連中ばかりなんだな!」
先程の話が気に障ったのか、初めから喧嘩腰で、まともな会話などする気も無いのだろう。
「誰が強いとかどうでも良いことでしょう。騎士は規範、規則を重視し、団体で行動するもの。私の事はともかく、皆まで馬鹿にするような事を言うのは止めてください。和を乱す発言は、騎士を目指す者として、正しいこととは思えません」
早速の面倒な出来事に怒りを押さえつつ、相手を睨み冷静に言い返す。
「弱い奴は口が良く回るな。強い事が正しい、強くなければ生き残れない」
ラーソルバールの気迫に、一瞬押されかかったが、視線を逸らしてあくまでも自分の立場を崩さない。周囲を睨み付けると、さっさと教室の外へ出ていってしまった。
『戦場では強くなければ生き残れないだろう。だが、戦場では一人では生き残る事さえ容易いことではない。背中を預ける仲間がいてこそ、安心して戦うことが出来るということを覚えておきなさい』
父の言葉を思い出す。騎士としての心構えだと教えてくれた。
「ごめんなさい、私が余計な事を言ったばかりに」
申し訳無さそうに、エミーナが頭を下げた。
ラーソルバールは、それに笑顔で応える。
「今のを見ていた。止めに入らず、すまなかった」
もう一人の推薦入学者が歩み寄ってきた。
「私はフォルテシア・クローベル。私も考えが誤っていた。貴女の言うことが正しい。規則を守り団体行動を旨とする、騎士として当然の心構えだ。不器用者ゆえ、言葉足らずなところが有ると思うが許して欲しい」
長いストレートの黒髪が美しい少女で、端正な顔立ちをしている。さらに無表情に近いせいで、一見すると冷たそうな印象を受ける。本人もそれを自覚しているようだが、不器用さ故の言葉足らずで愛想の無い態度が、近寄り難い雰囲気を醸し出して居るのだろう。
フォルテシアはラーソルバールに手を差し出した。
「偉そうな事を言ってしまって……」
苦笑しながら、差し出された手を握ると、ラーソルバールはフォルテシアの黒い瞳を見つめた。無表情だが、曇りの無いその瞳は嘘をついていない。
「よろしくね、フォルテシア」
優しく微笑むと、彼女の表情がほんの僅か緩んだように見えた。
そう言われてラーソルバールは憂鬱になった。会話が聞こえたのか、推薦入学の二人が、こちらを伺って居るのが分かる。
確証の無い噂話から、厄介事が降りかかって来ないで欲しいと願う。皆には『今のを聞かなかった事にしてください』と言いたいところだ。とはいえ、噂話を聞かせてくれたエミーナが悪い訳ではない。
そう思っていると、一人の男子がやって来た。例の推薦入学者の一人だった。
「一番強いのはこの俺、ジェスター・バセットだ。こんな貧弱女が一番だとか、一般入学者は相当程度の低い連中ばかりなんだな!」
先程の話が気に障ったのか、初めから喧嘩腰で、まともな会話などする気も無いのだろう。
「誰が強いとかどうでも良いことでしょう。騎士は規範、規則を重視し、団体で行動するもの。私の事はともかく、皆まで馬鹿にするような事を言うのは止めてください。和を乱す発言は、騎士を目指す者として、正しいこととは思えません」
早速の面倒な出来事に怒りを押さえつつ、相手を睨み冷静に言い返す。
「弱い奴は口が良く回るな。強い事が正しい、強くなければ生き残れない」
ラーソルバールの気迫に、一瞬押されかかったが、視線を逸らしてあくまでも自分の立場を崩さない。周囲を睨み付けると、さっさと教室の外へ出ていってしまった。
『戦場では強くなければ生き残れないだろう。だが、戦場では一人では生き残る事さえ容易いことではない。背中を預ける仲間がいてこそ、安心して戦うことが出来るということを覚えておきなさい』
父の言葉を思い出す。騎士としての心構えだと教えてくれた。
「ごめんなさい、私が余計な事を言ったばかりに」
申し訳無さそうに、エミーナが頭を下げた。
ラーソルバールは、それに笑顔で応える。
「今のを見ていた。止めに入らず、すまなかった」
もう一人の推薦入学者が歩み寄ってきた。
「私はフォルテシア・クローベル。私も考えが誤っていた。貴女の言うことが正しい。規則を守り団体行動を旨とする、騎士として当然の心構えだ。不器用者ゆえ、言葉足らずなところが有ると思うが許して欲しい」
長いストレートの黒髪が美しい少女で、端正な顔立ちをしている。さらに無表情に近いせいで、一見すると冷たそうな印象を受ける。本人もそれを自覚しているようだが、不器用さ故の言葉足らずで愛想の無い態度が、近寄り難い雰囲気を醸し出して居るのだろう。
フォルテシアはラーソルバールに手を差し出した。
「偉そうな事を言ってしまって……」
苦笑しながら、差し出された手を握ると、ラーソルバールはフォルテシアの黒い瞳を見つめた。無表情だが、曇りの無いその瞳は嘘をついていない。
「よろしくね、フォルテシア」
優しく微笑むと、彼女の表情がほんの僅か緩んだように見えた。
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