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第一部:第二章 希望を胸に
(三)出会いと再会③
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騒動を終え、談笑していると突然廊下が騒がしくなった。
「下賎の者達は寄らないで下さる?」
「先にぶつかったのはそっちだろ!」
大きな声が聞こえてくる。
初日だから、仕方無い。どこにでも問題の種は有るものだし、いちいち首を突っ込んでいたらきりがない。「和をもって」ではあるが、ここは当人同士で事を収めて頂きたい。ラーソルバールは静観を決め込むことにした。
「私をエラゼル・オシ・デラネトゥスと知っての事か」
女の大きな声が響く。
「あ…」
ふと思い出した、高飛車な態度とその名前。
幼年学校時代に苦手だった人物だということを。
「あのお嬢様もここに来てたのか…」
デラネトゥス公爵家はこの国の名家で、三公と呼ばれる有力な公爵家のひとつである。
三女のエラゼルは、ラーソルバールと同い年で、社会経験のためとして、貴族の子が通う幼年学校に在学させられていた。
本人はそれが不満だったようで、ことあるごとに他者を威圧し、当たり散らすなど、態度は不遜で褒められたものではなかった。
ところがこのお嬢様、非常に優秀で更に容姿端麗と、性格以外は非の打ち所がない人物だった。
それ故か、自身の能力と名家であることを鼻にかけ、他者を見下すような言動も多く、関わると碌なことがないため、ラーソルバールはなるべく近寄らないようにしていた。
恐る恐る扉の影から覗くと、そこにはやはり見知った顔があった。
色の淡い美しい金髪に青い瞳。
「エラゼルだ…間違いない」
分かってはいたが、実際に本人を目の当たりにして愕然とする。
「彼女も推薦入学者ですね」
後ろからついてきたのか、隠れる様子もなく、フォルテシアがボソリと呟いた。
(でしょうね…、性格以外は一級品ですから)
言葉は心の中に留め、ため息を一つついた。
「なに、ラーソルの知り合い?」
囁くような声でシェラが問いかける。
「天敵…」
間髪入れずに答える。
そのやり取りの間も、お嬢様の罵詈雑言が続いている。
「あれは、私も無理だわ」
シェラも呆れたような顔をする。
いずれは顔を合わせる事になるけれど、クラスも違うようだし、とりあえず今は見なかった事にしよう。
そそくさと席に戻ろうとするラーソルバールを見て、フォルテシアの口許が僅かに緩んだ。
「そういえば…」
入学式の際、エラゼルを見た覚えがない。出席していれば気付いただろうし、何より彼女自身大人しくしているはずもない。
気になって振り返った瞬間、廊下のエラゼルと目が合ってしまった。
「あ……」
しまった。と思ったときには遅かった。
「ラーソルバール・ミルエルシっ!」
指を差し、ラーソルバールを睨み付けるエラゼル。その口端は上がり、ラーソルバールには悪魔の笑みにも見え、背筋に悪寒が走った。
「…お友達を見る時の顔じゃないよね…。ラーソル、なんか怒らせるような事した…?」
シェラの顔がひきつる。
「してない、してな………した…かも」
以前の出来事が一瞬脳裏をよぎった。思い当たる節が無い訳でもない。
そのやり取りの間に、エラゼルは教室内にずかずかと入り込んできた。
「今日こそ正々堂…」
「エラゼル、休み時間終わるよっ!」
エラゼルの言葉が終わらぬうちに、被せるように返した。
「む……そうですわね。この続きはまた後で。覚えておきなさい、ラーソルバール・ミルエルシ」
勢い良く踵を返すとエラゼルは去っていった。
ふう、と大きく息を吐くと、ラーソルバールは額の汗を拭った。
「ラーソル、あの人に何したの?」
シェラが苦笑いしながら聞いてくる。
「彼女は完璧主義でね、何でも他人に負けたくないの。勉強で一番じゃなかったら、次は必ず取り返すくらいの負けず嫌い。でね、幼年学校時代の剣技大会で、うっかり彼女に勝っちゃって…」
うっかりって何だ。と、言葉には出さなかったが、顔に出てしまうシェラだった。
「彼女弱いの?」
「こう言ったらなんだけど、結構強いよ。男子とも互角だったから。で、彼女に勝つと厄介そうだったから、気付かれないように手を抜いて、華を持たせようと思ってたんだけど、予想外に強かったから、思わず手が出ちゃって…」
当時を思いだしながら苦笑する。
「悪い事に、剣技大会ってのは卒業前のイベントで、一回きりのやつだったから、その後ずっと再戦の機会を狙って追いかけ回されて…」
「災難だったねえ」
とは言っているが、シェラは楽しそうに笑っている。
「元々苦手だったんだけど、余計にね……。私は武闘大会っぽいのは出る気が無かったから、そのまんま引きずってる感じで…」
そう言ってラーソルバールは大きく溜め息をついた。
「私はてっきり何かやって『この無礼者が』っていうやつなのかと思ったよ。
「そういうのも無い訳じゃないけど…」
そこまで話したところで教師が戻って来たため、皆慌てて席に戻る。
また後でね。ラーソルバールはシェラに目配せした。
「下賎の者達は寄らないで下さる?」
「先にぶつかったのはそっちだろ!」
大きな声が聞こえてくる。
初日だから、仕方無い。どこにでも問題の種は有るものだし、いちいち首を突っ込んでいたらきりがない。「和をもって」ではあるが、ここは当人同士で事を収めて頂きたい。ラーソルバールは静観を決め込むことにした。
「私をエラゼル・オシ・デラネトゥスと知っての事か」
女の大きな声が響く。
「あ…」
ふと思い出した、高飛車な態度とその名前。
幼年学校時代に苦手だった人物だということを。
「あのお嬢様もここに来てたのか…」
デラネトゥス公爵家はこの国の名家で、三公と呼ばれる有力な公爵家のひとつである。
三女のエラゼルは、ラーソルバールと同い年で、社会経験のためとして、貴族の子が通う幼年学校に在学させられていた。
本人はそれが不満だったようで、ことあるごとに他者を威圧し、当たり散らすなど、態度は不遜で褒められたものではなかった。
ところがこのお嬢様、非常に優秀で更に容姿端麗と、性格以外は非の打ち所がない人物だった。
それ故か、自身の能力と名家であることを鼻にかけ、他者を見下すような言動も多く、関わると碌なことがないため、ラーソルバールはなるべく近寄らないようにしていた。
恐る恐る扉の影から覗くと、そこにはやはり見知った顔があった。
色の淡い美しい金髪に青い瞳。
「エラゼルだ…間違いない」
分かってはいたが、実際に本人を目の当たりにして愕然とする。
「彼女も推薦入学者ですね」
後ろからついてきたのか、隠れる様子もなく、フォルテシアがボソリと呟いた。
(でしょうね…、性格以外は一級品ですから)
言葉は心の中に留め、ため息を一つついた。
「なに、ラーソルの知り合い?」
囁くような声でシェラが問いかける。
「天敵…」
間髪入れずに答える。
そのやり取りの間も、お嬢様の罵詈雑言が続いている。
「あれは、私も無理だわ」
シェラも呆れたような顔をする。
いずれは顔を合わせる事になるけれど、クラスも違うようだし、とりあえず今は見なかった事にしよう。
そそくさと席に戻ろうとするラーソルバールを見て、フォルテシアの口許が僅かに緩んだ。
「そういえば…」
入学式の際、エラゼルを見た覚えがない。出席していれば気付いただろうし、何より彼女自身大人しくしているはずもない。
気になって振り返った瞬間、廊下のエラゼルと目が合ってしまった。
「あ……」
しまった。と思ったときには遅かった。
「ラーソルバール・ミルエルシっ!」
指を差し、ラーソルバールを睨み付けるエラゼル。その口端は上がり、ラーソルバールには悪魔の笑みにも見え、背筋に悪寒が走った。
「…お友達を見る時の顔じゃないよね…。ラーソル、なんか怒らせるような事した…?」
シェラの顔がひきつる。
「してない、してな………した…かも」
以前の出来事が一瞬脳裏をよぎった。思い当たる節が無い訳でもない。
そのやり取りの間に、エラゼルは教室内にずかずかと入り込んできた。
「今日こそ正々堂…」
「エラゼル、休み時間終わるよっ!」
エラゼルの言葉が終わらぬうちに、被せるように返した。
「む……そうですわね。この続きはまた後で。覚えておきなさい、ラーソルバール・ミルエルシ」
勢い良く踵を返すとエラゼルは去っていった。
ふう、と大きく息を吐くと、ラーソルバールは額の汗を拭った。
「ラーソル、あの人に何したの?」
シェラが苦笑いしながら聞いてくる。
「彼女は完璧主義でね、何でも他人に負けたくないの。勉強で一番じゃなかったら、次は必ず取り返すくらいの負けず嫌い。でね、幼年学校時代の剣技大会で、うっかり彼女に勝っちゃって…」
うっかりって何だ。と、言葉には出さなかったが、顔に出てしまうシェラだった。
「彼女弱いの?」
「こう言ったらなんだけど、結構強いよ。男子とも互角だったから。で、彼女に勝つと厄介そうだったから、気付かれないように手を抜いて、華を持たせようと思ってたんだけど、予想外に強かったから、思わず手が出ちゃって…」
当時を思いだしながら苦笑する。
「悪い事に、剣技大会ってのは卒業前のイベントで、一回きりのやつだったから、その後ずっと再戦の機会を狙って追いかけ回されて…」
「災難だったねえ」
とは言っているが、シェラは楽しそうに笑っている。
「元々苦手だったんだけど、余計にね……。私は武闘大会っぽいのは出る気が無かったから、そのまんま引きずってる感じで…」
そう言ってラーソルバールは大きく溜め息をついた。
「私はてっきり何かやって『この無礼者が』っていうやつなのかと思ったよ。
「そういうのも無い訳じゃないけど…」
そこまで話したところで教師が戻って来たため、皆慌てて席に戻る。
また後でね。ラーソルバールはシェラに目配せした。
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