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第一部:第三章 学校生活
(二)父の繋いだ縁①
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(二)
ラーソルバール自身は意識していないのだが、グレイズは廊下などですれ違うたび、敵だと言わんばかりに睨みつけてくる。だが、さすがは侯爵家の子息だけあって、多少は自制しているのか、直接手を出したりしてくるわけでもない。
入学試験の事をまだ根に持っているのだろうか。つくづくクラス代表にならなくて良かったと、胸を撫で下ろす。
だが、侯爵家なら事件を起こしても、権力を傘にもみ消す事もできるかもしれない。いずれ何かしら行動に出そうな程に威圧してくるだけに、入学式のように取り巻きが居れば、既に面倒事に発展していたのだろうが……。その取り巻き達はといえば、あれ以降見かけていないので、彼らはどうやら合格できなかったのだろう。
ラーソルバールはため息をつきつつも、学校生活が無事に送れるよう祈るしかなかった。
そして入学から四十日ほどが経過した。
座学では時折、寝ている生徒の姿を目にするようになった。入学直後にはあった緊張感が薄れて来たのだろう。
ラーソルバールも勉強は好きではないが、騎士になる、という目標があるため、退屈な内容でも苦痛にならない。最初は苦手と思った授業も、ようやく面白いと思えるものになってきていた。
中でも『戦術論』というものは、ラーソルバールの趣向に合っていたようで、一言一句聞き逃さぬよう努力している。
授業の冒頭、講師のエルハンドラ老師は、毎回同じ事を言う。
「戦術や戦略は教科書が基本だが、教科書通りにやったから成功するというものではない。常に考えて、新しいものを取り込め。だが新しいから正しいという訳でもない」
最初は矛盾したかのような言葉が、ラーソルバールには理解できなかった。よく意味を考えてみて初めて、納得できる内容だということに気付いた。
老師は教書を手に、過去の戦いの中で使われた、戦術や戦略を分かり易く解説している。ラーソルバールは歴史が好きで、それと紐付けて考えると結構面白いという事に気付いた。
なぜ戦争に至ったのか、経緯も読み解く事ができる。
時々、知っていた話と異なる所が有り、ラーソルバールには疑問だった。だが、老師の次のような言葉で納得する事ができた。
「吟遊詩人の語る戦記、軍記は嘘だらけだ。面白おかしく脚色し、時には勝敗さえも書き換える。物語として聞くには良いが、参考にしてはいけない」
要するに知っていた「話」は作られたもので、史実とは異なるという事だ。
正しくない軍記は、辻褄が合わない箇所が多い。その理由を老師は笑って教えてくれた。
「歴史書、軍記物は、戦争で勝った国が書いた物が多い。その場合は勝利を誇張し、敗者を貶める内容になっている。真実を知りたければ、第三者の記したものを参考にするか、敗者の側の記述を探すことが大切だ」
特に気をつけろと言われたのが、勝者の記述についてだった。
基本的には敗者の手記や史書は、勝者によって焼却されてしまったり、禁書扱いされたりするのが当たり前で、後世には残りにくい。当然、焼け残りや、禁書を探し出し、手に入れるのは容易な事ではない。従って「正しい」歴史などというものを知る術は無いに等しい。
「その時に生き、第三者として歴史を見つめた者が書いた書物を探すべし」
老師の教えだった。
「個人の武で局面を変える事ができるが、個人の武だけで戦が決まるわけではない」とも教えてくれた。
誰か一人の武勇が優れていても、それだけでは勝てない。戦術、戦略とはそんな簡単なものではない。戦術、戦略。それは戦いの歴史のひとつだと老師は言う。新しい戦術、戦略が生まれた時が歴史が動く瞬間だと。
そう言われて、歴史好きな少女は、妙に納得した。老師に感謝しつつ、その人となりに興味を持った。
ラーソルバール自身は意識していないのだが、グレイズは廊下などですれ違うたび、敵だと言わんばかりに睨みつけてくる。だが、さすがは侯爵家の子息だけあって、多少は自制しているのか、直接手を出したりしてくるわけでもない。
入学試験の事をまだ根に持っているのだろうか。つくづくクラス代表にならなくて良かったと、胸を撫で下ろす。
だが、侯爵家なら事件を起こしても、権力を傘にもみ消す事もできるかもしれない。いずれ何かしら行動に出そうな程に威圧してくるだけに、入学式のように取り巻きが居れば、既に面倒事に発展していたのだろうが……。その取り巻き達はといえば、あれ以降見かけていないので、彼らはどうやら合格できなかったのだろう。
ラーソルバールはため息をつきつつも、学校生活が無事に送れるよう祈るしかなかった。
そして入学から四十日ほどが経過した。
座学では時折、寝ている生徒の姿を目にするようになった。入学直後にはあった緊張感が薄れて来たのだろう。
ラーソルバールも勉強は好きではないが、騎士になる、という目標があるため、退屈な内容でも苦痛にならない。最初は苦手と思った授業も、ようやく面白いと思えるものになってきていた。
中でも『戦術論』というものは、ラーソルバールの趣向に合っていたようで、一言一句聞き逃さぬよう努力している。
授業の冒頭、講師のエルハンドラ老師は、毎回同じ事を言う。
「戦術や戦略は教科書が基本だが、教科書通りにやったから成功するというものではない。常に考えて、新しいものを取り込め。だが新しいから正しいという訳でもない」
最初は矛盾したかのような言葉が、ラーソルバールには理解できなかった。よく意味を考えてみて初めて、納得できる内容だということに気付いた。
老師は教書を手に、過去の戦いの中で使われた、戦術や戦略を分かり易く解説している。ラーソルバールは歴史が好きで、それと紐付けて考えると結構面白いという事に気付いた。
なぜ戦争に至ったのか、経緯も読み解く事ができる。
時々、知っていた話と異なる所が有り、ラーソルバールには疑問だった。だが、老師の次のような言葉で納得する事ができた。
「吟遊詩人の語る戦記、軍記は嘘だらけだ。面白おかしく脚色し、時には勝敗さえも書き換える。物語として聞くには良いが、参考にしてはいけない」
要するに知っていた「話」は作られたもので、史実とは異なるという事だ。
正しくない軍記は、辻褄が合わない箇所が多い。その理由を老師は笑って教えてくれた。
「歴史書、軍記物は、戦争で勝った国が書いた物が多い。その場合は勝利を誇張し、敗者を貶める内容になっている。真実を知りたければ、第三者の記したものを参考にするか、敗者の側の記述を探すことが大切だ」
特に気をつけろと言われたのが、勝者の記述についてだった。
基本的には敗者の手記や史書は、勝者によって焼却されてしまったり、禁書扱いされたりするのが当たり前で、後世には残りにくい。当然、焼け残りや、禁書を探し出し、手に入れるのは容易な事ではない。従って「正しい」歴史などというものを知る術は無いに等しい。
「その時に生き、第三者として歴史を見つめた者が書いた書物を探すべし」
老師の教えだった。
「個人の武で局面を変える事ができるが、個人の武だけで戦が決まるわけではない」とも教えてくれた。
誰か一人の武勇が優れていても、それだけでは勝てない。戦術、戦略とはそんな簡単なものではない。戦術、戦略。それは戦いの歴史のひとつだと老師は言う。新しい戦術、戦略が生まれた時が歴史が動く瞬間だと。
そう言われて、歴史好きな少女は、妙に納得した。老師に感謝しつつ、その人となりに興味を持った。
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