聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
100 / 439
第一部:第九章 エラゼルとラーソルバール(前編)

(一)ふたり①

しおりを挟む
(一)

「お待たせいたしまして申し訳ありませんでした。本日は当家三女、エラゼルの誕生祝いにご出席いただきまして、誠に有難うございます」
 魔法付与された物品を使用してのものだろう。広いホールに声が響いた。
 声の主はデラネトゥス公爵その人だ。幼年学校時代に何度か見かけた気がするので、ラーソルバールでも顔くらいは知っている。
 会場となったホールから出席者の拍手が響く。
「皆様、紹介いたします。三女、エラゼルにございます」
 紹介と共に一段高い場所にエラゼルは現れ、見事にドレスアップされたその姿に皆、感嘆の声を上げた。
「あれがエラゼル嬢か…」
 普段のエラゼルも美しいのだが、やはりこういう時の姿はラーソルバールも見とれる程、一段階違うものだった。
 エラゼルはさらに一歩進み出ると、大きく息を吐き、そして吸った。
「エラゼルでございます。本日は皆様お忙しい中、このような会に御出席下さり、誠に有り難うございます。お初にお目にかかる方も、多いかと思いますが、以後お見知りおき下さいますよう、お願い致します」
 堂々と、そして優雅に挨拶をする。
 さすがに公爵家では教育がしっかりしているのだろう。
「では、本人が皆様にご挨拶に伺います。食事と飲み物を用意致しましたので、暫しご歓談下さい」
 再び公爵の声が響いた。
 用意されていたテーブルに、次々と見るも鮮やかな食事が並べられていく。
 使用人の数が多いためか、食事や酒などの用意はあっという間に終わった。
「綺麗だったわねえ、エラゼルさん」
 フェスバルハ婦人もあちこちで捕まっていたようだが、挨拶に間に合う程度で何とか合流出来、笑顔でラーソルバールとの再会を喜んでいた。
 歓談開始と共に、ラーソルバールは目立たないよう、フェスバルハ家の人々の影に隠れていた。
 時折、フェスバルハ家の息子達の嫁か婚約者かと問われるが、ただの男爵家の娘と知ると、興味を失ったように去っていく。
 貴族社ような階級社会では、そんなものだろうと思っているので、特に気にもならない。
「ラーソルバールちゃんだって、エラゼルさんに負けないくらい綺麗なのに、失礼な人が多いわね」
 そう言って、婦人が代わりに怒ってくれている。
 有難いような、申し訳ないようなで、隣で縮こまる。
 不意に肩をつつかれた。
「で、殿下!」
 振り返って驚いた。そこに居たのはウォルスター王子だった。
 フェスバルハ家の者達も、驚いて固まっている。
 王子はラーソルバールの口元に手をやると、目配せした。
「兄上の近くにいると大臣だとか、ご婦人方の相手で色々堅苦しくてね。少しここで匿ってくれないか」
「は……はぁ」
 ラーソルバール以上に、フェスバルハ伯爵が状況を飲み込めていない。
「どうも、フェスバルハ伯爵……でしたかね。確か以前に一度、お会いしていたかな」
「は、はい、フェスバルハにございます、殿下」
 伯爵は若干緊張気味に、頭を下げた。
「殿下は、この娘をご存知なので?」
「先程、初めて会った。年格好から、エラゼルの友人かと思ったんだが、よくよく考えると、彼女に友人など珍しいと気になってな。見ると綺麗な娘だったので、思わず声をかけてしまった。普段はそんな事はしないのだがな」
 王子は嫌味無く、爽やかに笑った。王子の評判は悪くない。
 女癖が悪いとも聞こえてこないので、案外本当のことを言っているのかもしれない。
「で、先程、ナスターク侯に興味深い話を聞いたのだが」
 あ、まずい話だ。ラーソルバールは悟った。
「この令嬢は面白いな、この顔でかなり剣の腕も立つとか。フェスバルハ家の婚約者か?」
「いえ、半分本気で話を持ちかけましたが、あっさり断られました。知恵も胆力もあるので、できれば息子の嫁に欲しいので…す……が………」
 伯爵が視線をやると、横に居たはずのラーソルバールが居ない。
 良く見ると、ドレスの裾が伯爵婦人の横から見え隠れしていた。
「逃げ足も早いな」
 王子はそう言って笑い、咎めることはしなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田
ファンタジー
  ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。  特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。  なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。

処理中です...