聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
143 / 439
第一部:第十二章 幕開け

(三)母の夢②

しおりを挟む
 私は母の夢を見て目を覚ました。
 とても懐かしい夢だった。
 大好きだった母。

 この後、母は病を患って亡くなった。
 カンフォール村で養生していたものの、結局治癒すること無く息を引き取った。
 最初は死ぬということがどういうことか分からなかった。日に日に衰えていく母を目にしていたものの、私は元気になると信じていた。だから亡くなった時もきっと眠っているだけなのだと思っていた。
 だが、母が多くの人に涙で見送られ、埋葬された時に初めて、もう会えないのだと悟った。
 悲しくて悲しくていっぱい泣いた。
 毎日、毎日…。
 泣いている私の所へ、ターシャさんがやってきて私の悲しみを和らげてくれた。
 村のみんなが家族のように、娘のように受け入れ、私をいたわってくれた。
 嬉しかった。けれど、悲しみが無くなる事はない。
 みんなが家に帰り居なくなって夜になると、寂しくてまた泣いた。
 そんな時、父が言った言葉で、私は少しだけ立ち直った。
「ラーソルは、かーさまとどんな約束をしたんだ? かーさまとの約束は守らないといけないな」
 そうだ、私はかーさまと約束をしていた。
 騎士になるのだと。

 それから私は「きし」になるため、必死に木の枝を振り回した。
 すぐに手が豆だらけ、傷だらけになり、痛くて泣いた。
 それでも、傷口が塞がると、また始めた。
 涙が出るのをこらえながら、剣に見立てた枝を手に、村を駆け回った。
 やがて見かねた村人が、手製の木剣をくれた。
 枝を木剣に持ち替え、来る日も来る日も振り回した。
 父に心配されたが、「かーさまとのやくそくだから」と伝えると、何も言わなくなった。
 父もまた病と闘っており、ベッドから出る事は稀で、私の相手をできる余裕など無かった。

 私は剣の正しい振り方も知らずに、毎日木剣を手に「きし」になろうと頑張った。
 そんなある日、旅の冒険者が私に、剣の正しい握り方と振り方を教えてくれた。
 切るものや試す相手が居なかったら、木の葉を切れとアドバイスしてくれたのを覚えている。
 野山に出る獣を追いかけるにはまだ弱かったし、小さな生き物を相手にするのも気が引けた。
 だから枝の先にある葉を狙って剣を振り続けた。

「魔力制御の練習をしなさい」
 父が時折口にする言葉だった。魔法を使うための訓練らしい。
 だが、「くりゅーすさま」は魔法など使っていない。剣で戦っていた。
 実際、絵本にはクリュースが魔法を使う描写など無かった。
 だから「きし」には魔法などいらないと思っていた。
 そんな時間があるなら、剣を振るのが正しいのだと信じて……。

 やがて剣が少しだけ上達し、木剣が葉っぱを捉えるようになり、楽しくて夢中になった。
 その頃には、もう涙は無かった。
 これでかーさまとの約束が守れる。
「きし」になれる。
 必死だった。

 ある日、村外れで木剣を振っていたら、群れからはぐれたと思われる一匹の狼と遭遇した。
 怖かった。
 それでも襲い掛かってくる狼相手に、剣を振り回した。
 爪が体をかすめて傷を作る。
 たった一匹の相手に、私は傷だらけになって立ち向かった。
 とても怖かったが、「きし」は負けてはいけない。
 私は泣きながら無我夢中で剣を振り、狼を追い払った。

 そのまま呆然としていたところを村人に発見され、大事には至らなかったが、血だらけの姿に村は大騒ぎになった。
 この時、何度「ごめんなさい」と言ったか覚えていない。
 けれど泣いて謝り続ける私を、ターシャさんが抱き寄せてくれた。
「お嬢様が無事ならそれでいいんです」
 この一言で、みんなが何も言わなくなった。
 誰もが黙って私を見つめるその様子が怖くて、私はまた泣いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田
ファンタジー
  ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。  特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。  なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

処理中です...