聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十三章 思惑

(一)芽吹き①

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(一)

 王宮の新年会は壮大だった。ラーソルバールは会場に入って、そう実感した。
 会にかける国の予算の話ではない。
 そこに賭ける貴族たちの誤った情熱が、だ。
 そのお金を領地に還元すれば良いのに、とラーソルバールは思う。そうすれば領地も、国も潤うのに、と。
「すごい豪華な人が多いね」
「そうだな。国主催だから気合いも入るのだろう。だが、金をかければ良いというものではない」
 エラゼルがボソリと言った。彼女だからこそ言える台詞なのかもしれない。
 確かにエラゼルの衣装もかなり高価なものではあるのだろうが、これ見よがしに着飾る婦人達の、派手な衣装や装飾品の前では安価で質素に見えるかもしれない。
 だが、質素で気品高い造りに加え、エラゼル自身の美しさが加味され、その存在感は他を圧倒していた。
 服や装飾はエラゼルを際立たせる為のもので有れば良いのだろう。
 その隣に立つラーソルバールは、どうしても比較対象になってしまう。
 ところが、ラーソルバール自身も「他国の姫君にも負けない」とエレノールが太鼓判を押したように、決してエラゼルに見劣りするものではなく、白いドレスのエラゼルに対し、赤のラーソルバールという対比がかえって周囲の注目を浴びた。
 中でもデラネトゥス家での出来事を知る者達は、その二人が並び立つ姿を好意的に受け止めていた。
「あれが白と赤だ」と。
 他の者たちからも何処の者とも知れぬ娘よ、というような蔑みの言葉は聞こえてこない。
 逆に「あのデラネトゥスの娘と並んでも引けを取らない、あの令嬢は何者か」とささやく声も聞かれた。
 エレノールが聞いていたら、小躍りするような言葉だ。

「エラゼルが隣にいると、私はただの引き立て役だよ」
 ラーソルバールはエラゼルの後ろに隠れようとする。
「前にも言ったではないか。まず自分の姿を鏡で見てくるといい、と。もっと自信を持て」
 と言われて、生来の性格が直るはずも無い。
 エラゼルの隙をついて、そそくさとエラゼルの後ろに回り込んだ。
「ああ、そうそう。さっきイリアナ様の隣に居られたのが下のお姉様?」
 エラゼルに怒られそうなので、誤魔化すように問いかける。
「そうだ。姉のルベーゼだ。何かあったか?」
「ううん、誕生会の折にはお会いできなかったから」
「ああ、そうだったな」
 エラゼルと、イリアナの姉妹だから、さぞ美しい人だろうと想像していた。美しいには美しいのだが、ラーソルバールの想像とは若干違っていた。
 一見して分かるほど、病弱そうに見える。エラゼルの誕生会の折、病で欠席したというのは間違いないようだ。
「昔は快活で明るい人だったのだが、ある時から体が弱くなってな。原因が分からんので困っている」
「そうなんだ……イリアナ様みたいにお命を狙われてる、とか」
「まさか……とも言い切れんな」
 エラゼルは少し考え込んだ。
「毒物とか、呪いとかの線も……って、ごめん。他人の家の事情に踏み込んじゃって」
「いや、呪いまでは考えていなかった。毒物の可能性の再調査と併せて言っておく」
 憂慮の顔を見せる。姉の事が心配なのだろう。
 他者とは接点を持とうとしない彼女だが、やはり家族というものは違うという事だろう。
「済まない、父上の所へ行ってくる」
 思い立ったらじっとして居られなかったのだろう。
 エラゼルが居なくなり、ラーソルバールは一人取り残された。
 父は古い知人だろうか、数人に捕まっており、近寄れる雰囲気ではない。
 身の置き場に困り、一瞬悩んだのが失敗だった。
 エラゼルの存在に遠慮していた者達が、一斉にラーソルバールに押し掛けたのである。
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