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第一部:第十四章 崩れゆくもの

(四)闇の門②

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「ぐあぁ!」
 剣は男の右肩を貫き、男は魔法の発動を止めた。
 そのままうめき声を上げてよろけたが、グランザーさんと距離を取るように地面を蹴って大きく後退する。
 追ってもう一撃入れたいが、体が言う事を聞かない。グランザーさんも、身構えていた分だけ動きが遅れた。
「屈辱だ」
 怪我をした右腕で、服から何かを取り出して放り投げた。
 黒い石が三個、地面に転がる。
「石?」
 そう思った瞬間に、石から黒い煙のようなものが噴出し、すぐさま闇の門を生み出した。
「またな。今度は貴様らを殺す……」
 男は右肩を押さえつつ短い言葉を残し、門のひとつに入って姿を消す。と、その門は男を隠すように閉じて消えた。
 だが、他の二つは残ったまま、暗い闇が口を開けている。
 今、怪物が出ても対処できない。
「……いて、いてててて…」
 目の前の敵が居なくなり魔力循環を緩めると、その瞬間に体中の痛みが増す。
 右足が痛い。背中が痛い。
 私はよろけて、片膝をついた。
 慌ててエラゼルが駆け寄ってきて、私の顔を伺う。

「エラゼルさん、だったかな。この剣はすごいな。私の剣は全て弾かれたというのに」
「それは切れ味と、魔法干渉を弱める力を持っていますので」
 グランザーさんが剣を差し出すと、エラゼルは代わりに拾ってきたグランザーさんの剣を手渡した。
「便利な代物だな。騎士団の制式剣にも、そういうものを採用して欲しいものだ」
 そう言ってグランザーさんは苦笑いしたあと、私の顔を見る。
「さて、この門はどうやって消せる?」
 夜も門の対処に当たったのだろうか、グランザーさんの表情が硬い。
「夜のはどうやったんですか?」
「同時に駆けつけた魔法院の連中が処理してくれたんでな、我々騎士団はこの扱いは分からんのだよ」
 グランザーさんは私の問いに首を振った。
「それは困りましたねえ…」
「とりあえずは、出てくるものを叩くか、門をどうにかするかだが」
「下手に触ると危険な気がしますね」
 エラゼルの言葉に、私もグランザーさんも頷く。
「街中の攻撃魔法使用があったから、それを感知して魔法院の連中が駆けつけるだろうが、連中が門を消してくれる前に何か出てくるのだろうか……」
 肩をすくめて苦笑する。
「グランザーさん、私はもう動けないので、私の剣を使ってください。片刃で使いにくいかもしれませんが、折れる事は無いと思います。切れ味はエラゼルの物と比べるべくもないですが、使用者の魔力を通しやすいようです」
「使い方次第か。だが魔法を消すというのはそう簡単に……」
「何か出て来おったぞ」
 言葉を遮るように、エラゼルが警告する。
 エラゼルとグランザーさんは剣を構えた。
「またオーガか。能の無い」
 オーガが門から現れたのを見ると、エラゼルが侮蔑するように言い放つ。
「明らかに変なの出るより、いいんじゃない? これはこれで困るけどさ…」
 私が言い終わらないうちに、もう一つの門から得体の知れない腕が現れた。
「なに、あれ……」
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