聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第二十一章 帝国を歩く

(二)陰謀②

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「では閣下、今まで通り奴の監視を続けますか?」
「うむ、頼む。奴が余計な事をしそうな場合には、始末して構わん」
「畏まりました」
 ゼオラグリオはまだ吸い終わらぬ葉巻の火を消すと、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
 この男は頭の中では様々な術策を巡らせているが、隣国との摩擦を起こさず国力を削り、西方戦線に戦力を集中するという根幹となる方針がある。今、ヴァストール程の国力を有する国に参戦されてしまえば、西方南方の二正面で戦う羽目になる。それは愚策でしかない。
 思いの外踏ん張っている西方の連合軍を、打破する方が優先である。下手に寝た子を起こそうとするような、ファタンダールの行き過ぎた行為は、手綱を着けて制御しなくてはならない。
「奴の言うように、ヴァストールに特に動きは無いか?」
「今のところは。……と申し上げたい所ですが、人事刷新と、先日の反乱の煽りを食って、ヴァストールに放っていた密偵や内通者がかなり放逐されてしまい、中枢の情報を得ることが出来ない状況でして……」
「ふん、ファタンダールの奴め。目先のことしか見えておらんのか。……それとも奴はヴァストールに個人的な恨みでも有るのか?」
 苛立ちを隠せず、ゼオラグリオは指で何度も机を叩く。
「噂話程度で良い。何か情報は有るか?」
「反乱以後は街に広がった噂は、反乱貴族多数の処分と、二名の叙爵に関するものだけです」
 ゼオラグリオは苛立ちを抑えようと、大きく息を吐いた。
「……分かった。カディアよ、今まで通りファタンダールの監視と、ヴァストールの調査を続けよ」
「はい」
「今日はもう下がってよい。たまには娘の顔も見たかろう?」
「お気遣い有難うございます。お言葉に甘えさせていただきます」
 カディアと呼ばれた男は、まだ若い。子供もまだ小さいのだろう。ゼオラグリオの言葉に、喜色を湛えた顔を隠そうともせずに答えると頭を下げた。
「では、失礼いたします」
 将軍の前であるにも関わらず、今にも踊りだしそうな足取りでカディアは退室していった。その様を見て、ゼオラグリオは苛立っていた気持ちが流されていくのを感じていた。

 ドワーフの工房、『槌の音』から出た一行は、予定通り馬車に乗り込み、西へと向かう。エラゼルの腕に抱えられ、銀の花が入った箱も共に旅をする事になる。
 予定通りなら、翌日の昼には廃墟となったカラリアに到着する。
「カラリアの人たちはどうなったの?」
 店では聞くに聞けなかった事を、シェラが口にする。
「書物に記載された通りなら、半数以上が戦渦で亡くなって、残りがカサランドラや、ヴァストール、シルネラに逃れたらしいよ。散り散りになったみたいだね」
 歴史ならお任せの娘は、胸を張るでもなく、淡々と答える。
「王家の人は?」
「全員が逃亡中に亡くなった、という事になっているけど、実際には帝国に知られないように逃げた人も居たんじゃないかな?」
「もしかして……」
「王家は人間だからね」
 先手を打つように、シェラの言葉を封じる。
「あう……」
 言わんとしていた事が分かったので、皆が笑った。
 エラゼルの抱えている箱を見つめ、フォルテシアが口を開く。
「……帝国の歴史は侵略の歴史。きっとこの花と同じような悲しみが他にもある」
「そうだね。帝国に滅ぼされた国は他にもあるし、今も西方でティガリア王国とガイヤラド共和国が手を組んで、帝国の侵略と戦っている。その牙がいつヴァストールに向けられるか……」
 今ならシルネラを巻き込めば、西方と連動して、帝国に大きな打撃を与えられるかもしれない。だが、それが泥沼の戦いになる可能性もある。だが、それを考えるのは自分ではない。
 ラーソルバールは雑念を振り払うように頭を振った。
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