聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
370 / 439
第二部:第三十一章 騎士になる者として

(三)小さな戦場へ①

しおりを挟む
(三)

 エラゼルの誕生会当日を迎えた。
 夕方、デラネトゥス家の馬車が一台、騎士学校寮の門の前に現れた。
 先に家に戻っているエラゼルを除く四人が、武器を片手に馬車に乗り込む。傍から見れば、ドレスに剣を持った姿など、異様なものとして映るだろう。
「ドレスは着慣れないから……」
 どうにも着心地の悪さを拭えない様子で、フォルテシアがつぶやく。
「大丈夫、似合ってるよ。青いドレスが黒髪にすごく合ってる! 動きにくいのはすぐ慣れるよ」
 手放しでシェラが褒めると、フォルテシアは恥ずかしそうに顔を伏せた。
(慣れませんよ……)
 ラーソルバールは声には出さず、苦笑いした。

 四人が乗り込むと、馬車は紅く染まる街を駆け、しばらくしてからデラネトゥス公爵家王都別邸に到着した。
「おや、ミルエルシのお嬢様は、今年も同じ赤ですが、実に素敵なドレスでございますね!」
 出迎えた執事の表情が一瞬で緩む。
「懲りもせずに田舎貴族の娘がやって参りました。昨年は色々とお気遣い頂きまして、有難う御座いました。今年は皆様にご迷惑をおかけしないよう、心掛けます」
 ラーソルバールはできる限り優雅な仕草を心がけ、頭を下げる。エレノールに選んでもらったドレスを褒められ、内心少しだけ安堵した。

 ドレス選びに付き合ったエレノールはやる気に満ちていた。
 執事の言うように前年と同じ赤いドレスだが、今年はより大人の雰囲気を醸し出すデザインで、相反する要素「動きやすい事」を兼ね備えたもの。
 他にも動きやすそうな物はあったのだが、エレノールは妥協しなかった。結局、ドレス選びはその日の夕方まで掛かったのだが、妥協しようとしたラーソルバールに向かって、次のように言い放った。
「私の主になられる方なんですから、少しでも美しいものを選ばなくてはなりません!」
「ん……来年から私の所に来るのは確定なの……?」
「伯爵様にも了承を頂いておりますから」
 諦めつつ、ラーソルバールは憚ることなくため息をついた。
 それが拒絶を意味するものではないと、本人も分かっているので、ラーソルバールに笑顔を向け、喜々としてドレス選びを続けたのだった。

「さあ、エラゼルお嬢様がお待ちです。は、後程お嬢様のご指示のもとで、お手元までお持ちします」
 執事の言葉に黙って頷く。
 どこで敵が見ているか分からない。罠にかける側としては、見抜かれていると分かっていても、武器を手にして屋敷に入る事は避けなければならない。
 扉を潜ると、使用人の女性が二人寄って来る。
「ミルエルシ様はこちらへ、残りの方は、彼女がご案内します」
 黙って頷くと、三人に手を振って別れる。自分だけ呼ばれるという事は、エラゼルが何か用があるという事だろう。ラーソルバールはちらりと後ろを振り返った。
(招待客は聞いていた通り少ないみたい……)

 ラーソルバールが案内された部屋に居たのは、エラゼルとデラネトゥス公爵の二人だけだった。
「ようこそお出でになられました」
 エラゼルが第一声をあげ、ぎこちない笑顔を向けて立ち上がる。
 ラーソルバールはその口調に違和感を感じたが、公爵の手前、令嬢としての振る舞いを心掛けているに違いないと察した。
「失礼致します。お待たせしてして申し訳ありませんでした。お久しぶりで御座います、公爵閣下」
 失礼の無いようにと、細心の注意を払って恭しく頭を下げる。友人であるエラゼルの父とはいえ、相手は公爵である。
「ああ、良く来られた。そんなに硬くならないで、こちらに座って頂きたい。貴女はエラゼルの友人であり、イリアナの命の恩人だ。そして今は国家にとって重要な人なのだから」
 公爵は柔和な表情でラーソルバールを迎えてくれた。
 だが、ラーソルバールはその言葉に疑問を覚えた。『国家にとって重要な人』というのはどういう意味なのだろうか、と。
「ん、私の言葉が引っ掛かったかね? 何の比喩でもない。エイルディアの聖女とまで呼ばれる正義の代弁者的存在になりつつあるし、エラゼルと同じく王太子殿下の婚約者候補でもある。間違いなく重要人物だろう?」
「……公爵閣下は、私のような者が、エラゼル嬢と同じ婚約者候補である事にご不満は無いのですか?」
 質問内容が意外だったのだろうか。ラーソルバールの問いに対し、公爵は首を傾げた。
「無いな。国の為に有益な人物であれば、何の異存も無い。むしろ私が推薦したいくらいだ。身内贔屓もあるが、あの中では貴女かエラゼルか、の二択でしか無いと思っている」
「買い被りが過ぎます」
「ひとつ問題があるとすれば、将来の騎士団長を失う事になるかもしれない、という事だろうかね」
 公爵は愉快そうに笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田
ファンタジー
  ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。  特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。  なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。

処理中です...