聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第三部:第三十四章 背負う責任

(二)編成③

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 先程案内で同行してくれた人物はもう既に居ない。ラーソルバールはギリューネクに指示されるまま、ひとり隣の部屋の扉を叩いた。
「本日着任致しました、ラーソルバール・ミルエルシ二星官であります!」
「……入れ」
 ラーソルバールの声に反応するように、室内から応答があった。
「失礼致します!」
 背筋を伸ばして入室すると、髭を伸ばした三十過ぎに見える黒髪の男が、机に座って執務を行っていた。男は視線だけを上げてラーソルバールを見やると、ペンを握る手を止める。
「何か用かね?」
「はい、上官殿の御指示により、着任の御挨拶に参りました!」
 ラーソルバールの返答に男は眉をしかめた。
「……どこの小隊だったか?」
「第十七小隊であります」
「ああ、ギリューネクか。新人にひとりで来させるとはどういうつもりだ……」
 そう言われても、ラーソルバールには答える事はできない。
「まあいい、私はカルバルト・ヴェイス。階級は一月官だ。お前さんの名前は軍務省の方から何度か聞こえてきたが、ここではあくまでもただの新人だ。対応を変えるつもりはない、しっかりやってくれ」
「はい、心得ております」
 ヴェイスは表情を緩めたが、ラーソルバールとしては上官に対して礼を失することの無いよう、表情も姿勢も崩すわけにはいかない。
「ただ……、噂を聞くに、もっと野生的な娘だと想定していたのだが……いや、何でもない、こっちの話だ。戻って良い」
「……はい、失礼致しました!」
 やや困惑したような表情を浮かべたヴェイスを見て、落胆されたのだろうかと思いつつも、余計な事は言うまいと素直に退室する事にした。

 ギリューネクは戻ってきたラーソルバールを一瞥すると、先程まで手入れをしていた剣を腰に挿す。
「書類の入った鞄と貴重品は、隣の部屋の棚に入れて鍵を掛けて来い。棚には名前が書いてあるからすぐに分かる。終わったら、その通路を抜けて表の練兵場に来い」
「はい!」
 矢継ぎ早の指示に、やや戸惑いながらも言われたように行動するしかない。急いで荷物を片付け、練兵場に駆けつけた。

 練兵場には既に第二騎士団の騎士たちが幾人か出てきており、剣を手に模擬戦闘を行っていた。
 既にギリューネクは来ているはずと周囲を見回す。ラーソルバールはすぐにその姿を見つけると、訓練の邪魔にならないよう気をつけつつ駆け寄った。
「おう、思ったより早かったな。こいつらが、小隊の面子だ」
 一列に並んでいる辺り、男性が五人、女性一人というのがギリューネクを除いた小隊の構成という事になるらしい。
 すぐにラーソルバールの自己紹介を終えると、ギリューネクは面倒臭そうに頭を掻いて、ため息をついた。

「まずは、小隊の面子の自己紹介だ。そこの金髪のデカイのがコロッサム・ドゥー一星官。んで、茶髪の娘がビスカーラ・コーシムス、同じく一星官。二人は騎士学校卒業者で、先輩にあたるが、階級的にはお前さんの方が上だ」
 二人は紹介されると、やや怪訝な表情を浮かべつつも、敬礼でそれに応える。
「そして、このごつい髭面が、マッシュ・ボンカー一空兵、そこのひょろ長いのがトアス・マッカー四地兵、少し太った奴がブンカンカ・ラセーロ三地兵、ちっこいのがミルトム・メニンジャー三地兵だ」
 名前の前に色々と形容しているが、とりあえず間違えては居ない。だが、立て続けに言われたところで覚えきれるものではない。
「今の訓練している連中が終わったら、我々の番だ。新人の模擬剣は明日の支給だから、今日はそこの棚から適当に取って使え。まずは、挨拶代わりに剣の稽古だ」
 指示に応じると、剣を手に順番を待つ事になった。

「ミルエルシさん、私の事はビスカーラって呼んで下さい。女一人でやりにくかったので、嬉しいのですが……」
 ややためらいがちに話し掛けたのは、相手の方が階級が上だという部分が納得できないのだろう。人によっては一星官から上がるのに何年も掛かる場合がある。それなのに、新人である後輩が、最初から二星官というのを理解しろと言われても無理がある。
「私は新人です。意図せぬ事情で二星官になってしまったのですが、先輩方より上だというつもりは有りません。ですので、気軽にラーソルと呼んで頂けると嬉しいです」
「うん、よろしく。ラーソルさん」
 差し出された手を握り、ラーソルバールはようやく肩の力が抜けた気がした。
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