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第三部:第三十五章 出陣
(二)カラール砦②
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「先程、軍務省から連絡が有った件についてご報告です。現在、レンドバール側の兵力は二万から二万五千が行軍を始めたとの事です。各地から兵力をかき集めてカラール砦にやって来ると推察され、最終的には三万程度に膨れ上がる可能性もあります」
シャスティの言葉に、同様したように、周囲からどよめきが起こる。その様子を見て、ランドルフが「フン」と鼻を鳴らした。
「軍務省の見積もりが甘かったかもしれんが、まあそう慌てるな。我々の兵力は二万で、砦の二千の兵を足しても及ばないが、カラール砦なら互角以上に戦える。後から各領主が支援の兵を送ってくれるそうだし、まず不利な戦いにはならないだろう。それに、万が一の時には王都から増援が来る」
ランドルフが、いかにも武人といったようにどっしりと腰を据えて語る事で、皆が落ち着きを取り戻す。併せて場に沈黙が戻ると、ランドルフは満足したように目を閉じた。
そんな中、ジャハネートは沈黙していたが、ラーソルバールが慌てる様子を見せなかったのを横目で確認すると、僅かに笑みを浮かべてすっと立ち上がった。
「相手は震災後に捻り出せる最大限の兵力だろうから、増援の心配も無い。勝てるのは間違いないんだが、出来るならさっさと痛撃を与えて追い返すのが得策だ。その方法はいくつか有るんだが、これといった決め手が無い。そこで、良い案があれば採用することにしたって訳さね」
余裕のある様を見せつけるように、身振りを交えて演説する。「勝てる」と団長が口にすることで、与える安心感が全く違ってくるという事を分かっているのだろう。団長とは人身掌握にも長けていなければいけない。そうラーソルバールに教えているようにも見えた。
一人の騎士がジャハネートの言葉に応えるように手を挙げ、立ち上がる。腕の紋様からすると第二騎士団所属なのだろう。
「兵力差もあります、砦で応戦するのでは駄目なのですか?」
「まあ確実に勝つ方法だね。震災の影響で相手の補給に難が有るとはいえ、持久戦になるのはこちらとしても避けたい。人員的にも、物資的にも長期化して良い事なんざ無いらかね。そこは軍務省とも意見が一致している」
ジャハネートの言葉に納得したのか、騎士はやや不満げでありながらも納得したように腰を下ろした。
「では、砦を攻略しようとした敵軍を左右から挟撃するというのはいかがでしょうか。三方からの攻めであれば、効果はあると思われますが……」
「そりゃあ、ウチの方が兵力が多い場合の策だ。上手く行きゃいいが、下手すりゃ砦を無視して各個撃破されかねないよ」
頭ごなしではなく、口調はあくまでもやんわりと。新たな提案をジャハネートが却下すると、異論は無いといったようにシャスティは黙ってうなずいた。
「他にあるかい? 砦近くに大規模な罠を仕掛けるって案は無しだよ。そんな時間は無いからね」
そう言いつつ、ジャハネートはラーソルバールの顔をちらりと見た。
意図を察したラーソルバールは、下手をすればまたギリューネクの不興を買う恐れがあるので、目で拒絶する。だが、ジャハネートはその合図をわざと見ない振りをした。
実のところ、ジャハネートはラーソルバールの現状について、部下から情報を仕入れており、ギリューネクがどう接しているかも知っていた。そうした境遇について隣に座っている大男が知っていて放置しているのか、はたまた本当に知らないのか。ジャハネートはここに来るまで、ランドルフを力一杯殴りたいという衝動を抑え、怒りの炎を貯め込んでいた。
「そうだ。ここには今年、騎士学校を主席で卒業したのも呼んでいたんだっけ。せっかくだから、あのデラネトゥスの娘より上だったという実績から、いい案でも出してくれないかね?」
余りにもわざとらしい物言いに、ラーソルバールは半ば呆れながらも、断るわけにもいかない。困惑しつつ恨みがましい目を向けたものの、ジャハネートは気にする様子もなかった。
「ミルエルシ二星官?」
シャスティに呼ばれ、ラーソルバールは返事をして立ち上がる。
(ああ、彼女が団長がご執心の……)
シャスティは初めて認識する相手の顔をまじまじと見つめた。
「若輩者の言葉です。笑って聞き流して頂ければ、幸いです」
やや緊張した面持ちでそう切り出すと、ラーソルバールは大きく息を吸い込んだ。
シャスティの言葉に、同様したように、周囲からどよめきが起こる。その様子を見て、ランドルフが「フン」と鼻を鳴らした。
「軍務省の見積もりが甘かったかもしれんが、まあそう慌てるな。我々の兵力は二万で、砦の二千の兵を足しても及ばないが、カラール砦なら互角以上に戦える。後から各領主が支援の兵を送ってくれるそうだし、まず不利な戦いにはならないだろう。それに、万が一の時には王都から増援が来る」
ランドルフが、いかにも武人といったようにどっしりと腰を据えて語る事で、皆が落ち着きを取り戻す。併せて場に沈黙が戻ると、ランドルフは満足したように目を閉じた。
そんな中、ジャハネートは沈黙していたが、ラーソルバールが慌てる様子を見せなかったのを横目で確認すると、僅かに笑みを浮かべてすっと立ち上がった。
「相手は震災後に捻り出せる最大限の兵力だろうから、増援の心配も無い。勝てるのは間違いないんだが、出来るならさっさと痛撃を与えて追い返すのが得策だ。その方法はいくつか有るんだが、これといった決め手が無い。そこで、良い案があれば採用することにしたって訳さね」
余裕のある様を見せつけるように、身振りを交えて演説する。「勝てる」と団長が口にすることで、与える安心感が全く違ってくるという事を分かっているのだろう。団長とは人身掌握にも長けていなければいけない。そうラーソルバールに教えているようにも見えた。
一人の騎士がジャハネートの言葉に応えるように手を挙げ、立ち上がる。腕の紋様からすると第二騎士団所属なのだろう。
「兵力差もあります、砦で応戦するのでは駄目なのですか?」
「まあ確実に勝つ方法だね。震災の影響で相手の補給に難が有るとはいえ、持久戦になるのはこちらとしても避けたい。人員的にも、物資的にも長期化して良い事なんざ無いらかね。そこは軍務省とも意見が一致している」
ジャハネートの言葉に納得したのか、騎士はやや不満げでありながらも納得したように腰を下ろした。
「では、砦を攻略しようとした敵軍を左右から挟撃するというのはいかがでしょうか。三方からの攻めであれば、効果はあると思われますが……」
「そりゃあ、ウチの方が兵力が多い場合の策だ。上手く行きゃいいが、下手すりゃ砦を無視して各個撃破されかねないよ」
頭ごなしではなく、口調はあくまでもやんわりと。新たな提案をジャハネートが却下すると、異論は無いといったようにシャスティは黙ってうなずいた。
「他にあるかい? 砦近くに大規模な罠を仕掛けるって案は無しだよ。そんな時間は無いからね」
そう言いつつ、ジャハネートはラーソルバールの顔をちらりと見た。
意図を察したラーソルバールは、下手をすればまたギリューネクの不興を買う恐れがあるので、目で拒絶する。だが、ジャハネートはその合図をわざと見ない振りをした。
実のところ、ジャハネートはラーソルバールの現状について、部下から情報を仕入れており、ギリューネクがどう接しているかも知っていた。そうした境遇について隣に座っている大男が知っていて放置しているのか、はたまた本当に知らないのか。ジャハネートはここに来るまで、ランドルフを力一杯殴りたいという衝動を抑え、怒りの炎を貯め込んでいた。
「そうだ。ここには今年、騎士学校を主席で卒業したのも呼んでいたんだっけ。せっかくだから、あのデラネトゥスの娘より上だったという実績から、いい案でも出してくれないかね?」
余りにもわざとらしい物言いに、ラーソルバールは半ば呆れながらも、断るわけにもいかない。困惑しつつ恨みがましい目を向けたものの、ジャハネートは気にする様子もなかった。
「ミルエルシ二星官?」
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(ああ、彼女が団長がご執心の……)
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