聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第三部:第三十六章 ラーソルバールという存在

(四)戦後処理①

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(四)

 砦の中で騎士団とは別に、勝利の報を受けて快哉《かいさい》の声を上げた者がいた。砦に派遣されていた軍務省に勤める事務方の高官、ジェフィサー・オーガンズ子爵である。
 職務に真面目だが、融通が利かない男というのが騎士団側の共通認識だ。
 彼は今回の戦争に際し、交渉事や事務面での報告を受けるために同行して来ていたが、戦の方は全くの素人。砦の窓から見える戦の様子は全く理解できていなかった。
 先程ようやくレンドバールの全軍が一時後退したという報を受け、彼はようやく安堵し、喜びを爆発させた所だったのだ。

 事前の作戦立案通り上手く事が運んだのであれば、次は交渉。
 程無く停戦の使者が送られてくるだろうが、単に停戦を受け入れるのでは能が無い。戦う力を削いだ今ならば、こちらから攻めるという脅しをかけることもできる分、有利な交渉もできる。ただ、戦後処理に関して全権を委任されている訳ではないので、どう対応すべきかは王都に直接相談する必要がある。
 彼の仕事はもうひとつ、戦功者の情報を取り纏める事。まず勝報と共に第一報で報告すべきは、第一級戦功の報告となる。
 勝利の歓喜から半刻後、四つの騎士団から報告が上がってきた第一級戦功報告を見て、モーガンズは自らの目を疑った。

 第二騎士団報告書。『第二騎士団所属、ラーソルバール・ミルエルシ二星官……『灰色の悪魔』こと、モンセント伯爵を討取』
 第八騎士団報告書。『第二騎士団所属、ラーソルバール・ミルエルシ二星官……作戦立案』
 そして第四騎士団、第六騎士団は近隣住民に損害を出さずに済んだ早期避難指示として、ラーソルバールの名を上げていた。

 第二騎士団を除き、三つの騎士団が自団に所属する者以外を上げてくるという異例の事態。その全てに同じ名前が並んだのを見て、オ-ガンズは疑うよりも先に、ため息をつきながら呆れたように頭を振った。
「すまないが……、ジャハネート殿を呼んできてくれないか」
 事情を聞かねばならないとばかりに、傍らに控えていた秘書官にそう告げた。
「はい」
 即応して秘書官が退室しようとした時、オーガンズは軍務大臣に言われていた事を思い出した。勝利の報告をする際に、戦後賠償交渉について誰かに尋ねるように、と指示されていたはず。
「あ、ちょっと待ってくれ」
 そう言って秘書官を引きとめると、机の引き出しを開け大臣から送られて来た封書を取り出した。書面には色々な指示が記載されていたが、その中には次のような一文がしたためられていた。
『第二騎士団所属のラーソルバール・ミルエルシ二星官に、戦後処理と賠償案を尋ねる事』
 手を止め、眉間にしわを寄せると、戦功報告書の名前と比較し首を傾げた。
「どういうことだ?」
 奇妙な一致の理由は分からないが、秘書官を待たせる訳にもいかない。もう一人、を追加して秘書官を使いに出した。

 この指示の意味をオーガンスが理解できないのも無理はない。これは、王太子の婚約者候補に対して等しく出された問題なのである。
『ヴァストールがレンドバールとの戦闘を行って勝利した際、被害程度が小さい場合、中程度の場合、大損害の場合と状況を分け、それぞれどのような戦後賠償を求めれば良いか』
 この問題は騎士団出立後に出され、他の候補者分は集められて既に宰相の手元に届いている。
 残るは騎士団に所属し、出兵対象となったラーソルバールだけだったのである。
 こうしてラーソルバールはジャハネートと共に呼び出され、事情聴取と併せて軍務大臣からの問題に対する回答を求められたのであった。

 この戦勝報告の第一報は、オーガンズの手によって書かれ、魔法院の技術によって即時に王都へ発送された。
 技術とは言っても、闇の門のように遠隔地に直接転送できる訳ではない。
 箱に詰めた封書を鳥に見立てた魔法付与工芸品に運搬させるというもので、王都までの所要時間は約一刻という高速通信を実現している。

 軍務省に無事届けられた戦勝報告は開封されること無く、軍務大臣ナスターク侯爵の手によって、国王と宰相の元に届けられた。
「戦勝にございます、陛下!」
 開封して中身を一読するなり、宰相メッサーハイト公爵は歓喜の声を上げた。
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