436 / 439
第三部:第三十六章 ラーソルバールという存在
(四)戦後処理②
しおりを挟む
戦勝という言葉に、国王と軍務大臣、そして居合わせた他の大臣達も声を上げて喜ぶと安堵の声を漏らした。
次の瞬間だった。
「ぷっ……はっはっはっはっ!」
宰相メッサーハイト公爵は突然笑い出した。
「いかがした?」
何事かとばかりに怪訝な表情を浮かべ、国王は尋ねる。
「あ、いえ、申し訳ありませんでした。報告書の内容を見て思わず……くっくっく……」
笑いを堪えきれぬというように、口元を手で覆う。
その様子を見て、国王は呆れたようにひとつ吐息を漏らすと、玉座から宰相に向かって手を伸ばした。
「読み上げは良いから、それをワシに寄こせ。全く何をそんなに笑うことが有ろうか……」
奪うように報告書を受け取ると、上から目を通す。
「戦勝が喜ばしいのは分かるが……。……ふむ……。はっ……わっはっは!」
文面を読んでいた国王も同じように笑い出した。
二人が笑い出した理由が分からない大臣達は、戦勝の喜びも忘れて二人の様子を伺った。
「ナスターク……」
「はい……?」
「はははっ……お主は、この書面に手を加えておらんな?」
「……はい。開封すらしておりませんでしたので……」
国王の質問の意図が分からない軍務大臣は、不手際でもあったのかと恐る恐る答えた。
「書いたのがオーガンズであれば、手心も加わっておらんということか」
「何か……問題でも?」
王の表情を見る限り、怒っている様子はないのが余計に不思議でならない。
「いや……。あの娘が、この戦の立役者だそうだ。住民に戦火が及ばぬよう前もって砦への避難指示を出し、作戦を立案をし、戦場では灰色の悪魔を討ち取ったそうだ」
笑いを堪えるようにしながら、国王は大臣達に報告書の内容を告げる。そのあまりにも衝撃的な内容に、居並ぶ大臣達も言葉を失った。
「あの娘……とは、もしやラーソルバール嬢でありますか?」
信じられぬとばかりに聞き返すと、国王と宰相は同時に首を縦に振った。
「昇進は当然としても、慣例に倣えば一度に二階級以上というわけにもいくまい?」
「左様で御座いますな。騎士官位だけではなく爵位の方でも考慮せねば功に報いる事はできませんな……」
「まあ、そこは追々決めるとして……。まずは戦後交渉か」
まず初戦は勝利した。
報告書の内容どおりであれば、敵の糧食は焼き払われ遠征軍が戦闘を継続する事は不可能と見て良い。国内事情を鑑みても、再び戦線を維持できるほどの補給物資を捻出する事は不可能だろう。
となれば、レンドバールの再攻勢は無いと見てよい。「攻められたのだから、仕返しをしてやってもいいんだぞ」と、侵攻をちらつかせることで、交渉テーブルに引きずり出す事は容易にできる。
では、交渉に際し、賠償として何を要求するか。
「おお、そうだ。例の候補者達に出した問題の回答はどうなっている?」
「はい、それは……」
婚約者候補達に出した賠償問題の回答。
軍務大臣が念の為にと持参した書面内容は以下の通りとなる。「属国化」と答えた者が一名。「金銭と領土割譲」という短い回答が四名。「王族一名以上を人質としての引き渡し」と答えた者が一名。
ファルデリアナは「第二王子の身柄の引き渡しおよび、領土の割譲」と回答していた。
最後にエラゼルだが「第二王子の身柄の引き渡しおよび、オロワール地区の割譲」と地域を限定しての回答だった。
「して、ラーソルバール嬢は何と回答しておりますでしょうか?」
各候補者の回答の読み上げが終了するのを待って、宰相は書面を手にする国王に尋ねた。
「『第二王子の身柄の引き渡しおよび、オロワール地区の割譲』とあるな」
「ほう、エラゼル嬢と全く同じですな。その理由は記載されておりましょうや?」
宰相は興味津々とばかりに身を乗り出した。
ラーソルバールが理由としたのは以下のような内容だった。
現在レンドバールは震災からの復興途中で、国家財政に余力が無い状態であるにも関わらず、今回強引に出兵した。それによって更に財政は厳しくなったのは言うまでもなく、金銭での賠償は不可能と判断。
「第二王子を人質」としたのは、レンドバールからの侵略を防ぐ盾とする事が第一。
次にオロワール地区。レンドバール側としては、荒れ地で資源も期待できない上、作物が育ちにくく街や村などが存在しないので、手放しても大きな痛手にならない地域だが、ヴァストールとしては非常に有用であると考えられる。
現在、我が国と隣国ナッセンブローグ王国は国境を接しているのが山岳地帯のみであり、通商は険しい山道か海路を使用している。だが、オロワール地区を手にする事によってカラール砦経由で平地の移動が可能となるため、ナッセンブローグが警戒心を抱かぬよう心を配れば、両国の国交に良い影響を与え国益につながる。
奇しくもこの理由までもがエラゼルとほぼ一致していた。
次の瞬間だった。
「ぷっ……はっはっはっはっ!」
宰相メッサーハイト公爵は突然笑い出した。
「いかがした?」
何事かとばかりに怪訝な表情を浮かべ、国王は尋ねる。
「あ、いえ、申し訳ありませんでした。報告書の内容を見て思わず……くっくっく……」
笑いを堪えきれぬというように、口元を手で覆う。
その様子を見て、国王は呆れたようにひとつ吐息を漏らすと、玉座から宰相に向かって手を伸ばした。
「読み上げは良いから、それをワシに寄こせ。全く何をそんなに笑うことが有ろうか……」
奪うように報告書を受け取ると、上から目を通す。
「戦勝が喜ばしいのは分かるが……。……ふむ……。はっ……わっはっは!」
文面を読んでいた国王も同じように笑い出した。
二人が笑い出した理由が分からない大臣達は、戦勝の喜びも忘れて二人の様子を伺った。
「ナスターク……」
「はい……?」
「はははっ……お主は、この書面に手を加えておらんな?」
「……はい。開封すらしておりませんでしたので……」
国王の質問の意図が分からない軍務大臣は、不手際でもあったのかと恐る恐る答えた。
「書いたのがオーガンズであれば、手心も加わっておらんということか」
「何か……問題でも?」
王の表情を見る限り、怒っている様子はないのが余計に不思議でならない。
「いや……。あの娘が、この戦の立役者だそうだ。住民に戦火が及ばぬよう前もって砦への避難指示を出し、作戦を立案をし、戦場では灰色の悪魔を討ち取ったそうだ」
笑いを堪えるようにしながら、国王は大臣達に報告書の内容を告げる。そのあまりにも衝撃的な内容に、居並ぶ大臣達も言葉を失った。
「あの娘……とは、もしやラーソルバール嬢でありますか?」
信じられぬとばかりに聞き返すと、国王と宰相は同時に首を縦に振った。
「昇進は当然としても、慣例に倣えば一度に二階級以上というわけにもいくまい?」
「左様で御座いますな。騎士官位だけではなく爵位の方でも考慮せねば功に報いる事はできませんな……」
「まあ、そこは追々決めるとして……。まずは戦後交渉か」
まず初戦は勝利した。
報告書の内容どおりであれば、敵の糧食は焼き払われ遠征軍が戦闘を継続する事は不可能と見て良い。国内事情を鑑みても、再び戦線を維持できるほどの補給物資を捻出する事は不可能だろう。
となれば、レンドバールの再攻勢は無いと見てよい。「攻められたのだから、仕返しをしてやってもいいんだぞ」と、侵攻をちらつかせることで、交渉テーブルに引きずり出す事は容易にできる。
では、交渉に際し、賠償として何を要求するか。
「おお、そうだ。例の候補者達に出した問題の回答はどうなっている?」
「はい、それは……」
婚約者候補達に出した賠償問題の回答。
軍務大臣が念の為にと持参した書面内容は以下の通りとなる。「属国化」と答えた者が一名。「金銭と領土割譲」という短い回答が四名。「王族一名以上を人質としての引き渡し」と答えた者が一名。
ファルデリアナは「第二王子の身柄の引き渡しおよび、領土の割譲」と回答していた。
最後にエラゼルだが「第二王子の身柄の引き渡しおよび、オロワール地区の割譲」と地域を限定しての回答だった。
「して、ラーソルバール嬢は何と回答しておりますでしょうか?」
各候補者の回答の読み上げが終了するのを待って、宰相は書面を手にする国王に尋ねた。
「『第二王子の身柄の引き渡しおよび、オロワール地区の割譲』とあるな」
「ほう、エラゼル嬢と全く同じですな。その理由は記載されておりましょうや?」
宰相は興味津々とばかりに身を乗り出した。
ラーソルバールが理由としたのは以下のような内容だった。
現在レンドバールは震災からの復興途中で、国家財政に余力が無い状態であるにも関わらず、今回強引に出兵した。それによって更に財政は厳しくなったのは言うまでもなく、金銭での賠償は不可能と判断。
「第二王子を人質」としたのは、レンドバールからの侵略を防ぐ盾とする事が第一。
次にオロワール地区。レンドバール側としては、荒れ地で資源も期待できない上、作物が育ちにくく街や村などが存在しないので、手放しても大きな痛手にならない地域だが、ヴァストールとしては非常に有用であると考えられる。
現在、我が国と隣国ナッセンブローグ王国は国境を接しているのが山岳地帯のみであり、通商は険しい山道か海路を使用している。だが、オロワール地区を手にする事によってカラール砦経由で平地の移動が可能となるため、ナッセンブローグが警戒心を抱かぬよう心を配れば、両国の国交に良い影響を与え国益につながる。
奇しくもこの理由までもがエラゼルとほぼ一致していた。
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。
小田
ファンタジー
ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。
特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。
なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる