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「お帰りなさいなさいませ。お嬢様」
王都のタウンハウス。馬車を降りると執事のセバスチャンが迎えてくれる。
そう、我が家の執事の名はセバスチャン。前世の記憶が戻ってから初めて帰った時には思わずニヤリとしてしまったものだ。
「ただいま。セバス」
今日は週末。学園は休みで、私はデビュタントで着るドレスの為に帰ってきた。
「お帰りなさい。ロゼ」
「お姉さま!?」
自室へ続く廊下を歩いていると、昨年結婚した姉と出会した。
「どうなさったの?お姉さま。侯爵家で何かありましたの!?」
姉は学園時代、同級生だった侯爵家の嫡男と恋愛結婚した。
伯爵家の娘が侯爵家の、それも嫡男と釣り合わないのでは。と思う貴族もいるが、我がルーブル伯爵家は建国以来続く一応由緒ある古株貴族だ。王都から馬車で2時間ほどで着く領地は元は山々が連なり、平地があまりなかったそうだが、領主である代々の御先祖様達が先頭に立ち、開拓に開拓を重ね、今では農業、酪農をメインとした国の食料庫と呼ばれるまでとなっている。ちなみに代々領主は常に自領にいる為、国の要職に就いてはいないが、それなりに重用はされているらしい。
「心配しなくても我が侯爵家は円満よ。それより貴女、デビュタントにお祖母様のドレスを着るって本当なの!?」
「ええ。そのつもりですが?」
本来、デビューの際に着るドレスは令嬢にとっては一生に一度のもの、またデビュタントで自分の人生が決まるかもしれないという事もあり、一年程時間をかけて準備する場合もある。特に来年は王族も参加すると予想されるだけに、今から動き始めている高位貴族も多いだろう。
だけど、自分の人生がかかっているのは私も同じ。
来年のデビュタントでのデビューの可能性をを確実に潰す為には、今年デビューしておく必要がある。
けれど、今からドレスを新調するのは時間が足りないため、目をつけたのが、祖母がデビューした時に着ていたドレスだ。
「貴女、一生に一度しかないデビューなのに、本当にいいの?」
「領地のお祖母様には了解は頂きましたし、サイズもそのまま使えます。問題ありませんわ。それに、今ではもう手に入らない天然の魔蚕の絹で作られているプレミアもの。使わない手はありません!」
力強く言い切る私に、他の家族同様、呆れたような顔をする姉。
「ロゼ、どうして今年にしたの?来年なら第2王子殿下も出席されるだろうし、盛大にデビューが出来るのに」
「だからこそですわ。来年のデビュタントで王族や高位貴族とお近付きになりたい貴族は山といますでしょう?うちは短期間にお兄様が公爵家と、お姉様が侯爵家とそれぞれ婚姻を結んでいますし、貴族間のバランスも考えて、ルーブル伯爵家としては遠慮した方がいいのではないかと。それに私自身の交友関係や婚姻についてはお父様からは好きにしていいと言われてますし」
もっともらしい理由付けに姉達の結婚を引き合いにだした事に多少の罪悪感を感じつつ答えると、姉が眉をさげながら近付いてきて私の手を取る。
「ごめんなさい。私がリチャードと結婚したばかりに」
「いいえ!お姉様やお兄様のせいではありません。そもそも、華やかな場は性に合いませんし、ちょうど良かったのです」
ごめんね、お姉様。何かで埋め合わせはします!
心の中で誓いながら、手を繋いだ姉をサロンに誘導する。
うちは一昨年、公爵家の三女のソフィー様とお兄様の婚姻が成立している。おっとりしている兄の何をどう気に入ったのか、学園時代一学年下のソフィー様の熱烈なアタックにより学生時代に婚約が成立、ソフィー様の卒業を待って結婚した。
そしてお姉様は侯爵家長男のリチャード様よりこれまた熱愛な求婚を受けて学生時代に婚約、昨年2人の卒業と共に結婚した。
領地を平和に治める事に尽力する両親としては、特に子供達の結婚に何も言い含めてはいないのに、高位貴族と婚姻を結んだ兄と姉に驚いたものだった。
王都のタウンハウス。馬車を降りると執事のセバスチャンが迎えてくれる。
そう、我が家の執事の名はセバスチャン。前世の記憶が戻ってから初めて帰った時には思わずニヤリとしてしまったものだ。
「ただいま。セバス」
今日は週末。学園は休みで、私はデビュタントで着るドレスの為に帰ってきた。
「お帰りなさい。ロゼ」
「お姉さま!?」
自室へ続く廊下を歩いていると、昨年結婚した姉と出会した。
「どうなさったの?お姉さま。侯爵家で何かありましたの!?」
姉は学園時代、同級生だった侯爵家の嫡男と恋愛結婚した。
伯爵家の娘が侯爵家の、それも嫡男と釣り合わないのでは。と思う貴族もいるが、我がルーブル伯爵家は建国以来続く一応由緒ある古株貴族だ。王都から馬車で2時間ほどで着く領地は元は山々が連なり、平地があまりなかったそうだが、領主である代々の御先祖様達が先頭に立ち、開拓に開拓を重ね、今では農業、酪農をメインとした国の食料庫と呼ばれるまでとなっている。ちなみに代々領主は常に自領にいる為、国の要職に就いてはいないが、それなりに重用はされているらしい。
「心配しなくても我が侯爵家は円満よ。それより貴女、デビュタントにお祖母様のドレスを着るって本当なの!?」
「ええ。そのつもりですが?」
本来、デビューの際に着るドレスは令嬢にとっては一生に一度のもの、またデビュタントで自分の人生が決まるかもしれないという事もあり、一年程時間をかけて準備する場合もある。特に来年は王族も参加すると予想されるだけに、今から動き始めている高位貴族も多いだろう。
だけど、自分の人生がかかっているのは私も同じ。
来年のデビュタントでのデビューの可能性をを確実に潰す為には、今年デビューしておく必要がある。
けれど、今からドレスを新調するのは時間が足りないため、目をつけたのが、祖母がデビューした時に着ていたドレスだ。
「貴女、一生に一度しかないデビューなのに、本当にいいの?」
「領地のお祖母様には了解は頂きましたし、サイズもそのまま使えます。問題ありませんわ。それに、今ではもう手に入らない天然の魔蚕の絹で作られているプレミアもの。使わない手はありません!」
力強く言い切る私に、他の家族同様、呆れたような顔をする姉。
「ロゼ、どうして今年にしたの?来年なら第2王子殿下も出席されるだろうし、盛大にデビューが出来るのに」
「だからこそですわ。来年のデビュタントで王族や高位貴族とお近付きになりたい貴族は山といますでしょう?うちは短期間にお兄様が公爵家と、お姉様が侯爵家とそれぞれ婚姻を結んでいますし、貴族間のバランスも考えて、ルーブル伯爵家としては遠慮した方がいいのではないかと。それに私自身の交友関係や婚姻についてはお父様からは好きにしていいと言われてますし」
もっともらしい理由付けに姉達の結婚を引き合いにだした事に多少の罪悪感を感じつつ答えると、姉が眉をさげながら近付いてきて私の手を取る。
「ごめんなさい。私がリチャードと結婚したばかりに」
「いいえ!お姉様やお兄様のせいではありません。そもそも、華やかな場は性に合いませんし、ちょうど良かったのです」
ごめんね、お姉様。何かで埋め合わせはします!
心の中で誓いながら、手を繋いだ姉をサロンに誘導する。
うちは一昨年、公爵家の三女のソフィー様とお兄様の婚姻が成立している。おっとりしている兄の何をどう気に入ったのか、学園時代一学年下のソフィー様の熱烈なアタックにより学生時代に婚約が成立、ソフィー様の卒業を待って結婚した。
そしてお姉様は侯爵家長男のリチャード様よりこれまた熱愛な求婚を受けて学生時代に婚約、昨年2人の卒業と共に結婚した。
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