【完】謎の宗教セミナー潜入

柊一郎|くすぐり小説

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【後編】謎の宗教セミナー潜入

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 まどかは、木戸デスクに早速報告しようと会社に向かいかけた。が、「女の人が半裸でくすぐられていた」などと報告したら、このご時世、いくらゴシップ誌の編集部であっても、調査自体が差し止めになる可能性が高いと思い、踵を返した。

 まどかはあの宗教団体の特異性、異常性を目の前で見せつけられ、「これは衝撃的な記事になる」と確信し、自身の力で調査を進めたいと思ったのであった。

**

 由梨の部屋へ戻ると、由梨は干し芋を食べながら、マニキュアを塗っていた。

「おかえり~、早かったっすね。どうでした?変な団体でしょ。詳しく教えてくださいよ~」

 先ほどまでドキドキとした非現実感のさなかに居たが、由梨の顔を見て、なぜかほっと安心した。

 まどかは由梨にならと、桃色のセンターテーブル越しに対面で座り、何から話したものやらと逡巡した。干し芋を勧められたので、とりあえず片手に持つだけ持って、時系列に沿って一通りの顛末、そして逃げ去ってきたことを話したのであった。

「えっ……」

 由梨は少し引いたような表情をしたのちに、ぷっ、と失笑し、ゲラゲラと笑い始めた。

「あははは!な、なにそれウケる~!こちょこちょで笑って、それで神に愛されるって……!」

 ブーっともうひと笑いしたのちに、落ち着いたのか、干し芋を口に含んだ。

「あーおっかし。やっぱ変な団体でしたね。その寧々ってひと、大丈夫だったんすかね?まあ、くすぐられただけなら全然平気か。あはは」

 まどかは、由梨のあっけらかんとした反応に驚いた。なにかあの空間に居ると、その「くすぐり」という行為が、何となく背徳的な、儀式的な意味を帯びて見え、思わず逃げ出してしまったのだがーー。

 確かによく考えると、暴力を振るわれた訳でもなく、寧々も受け入れていた訳でーーただのこちょこちょか……。いやいや、普通ではないーーよく分からなくなってきた。

**

 次の日、まどかは寧々の家を訪れていた。実は昨日連絡先を交換しており、突然居なくなったことを詫び、話をもっと聞きたいと打診してあったのだ。寧々から糸口を掴み、慎重に潜入したい。

 立派な低層階型のマンションで、家の中の調度品などを見るに、なかなか良い暮らしをしているようであった。旦那は仕事で不在ということで、そのままソファに案内された。

「ようこそ、来てくれて嬉しいわ。今日は仕事は休みなのだけれど、夫はお勤めですから。子供もいないので、日中を持て余すのよ」

 紅茶を飲みながら、長い足を斜めに折りたたみ、丁寧な口調で話した。寧々は、あらためて相当な美人であるが、そこはかとない影のようなものを感じ、それがまた独特な、妖艶な雰囲気を作り出している。

「まずは昨日のことーー」

 あわよくば、寧々の告発をきっかけにして、あの宗教団体の実態を暴けるかもしれない。まどかは慎重に質問を始める。

「あんなことされて、その、何というか……嫌じゃなかったですか?あの、羽根で……」

 なんだかむず痒い感覚になり、言葉に詰まる。

「あ、そうよね、見られてたのよね。恥ずかしいわ……」

 すこし顔を赤らめた寧々の顔が、同性であるまどかにすら、魅力的に映ってしまう。

「ーーそれは当然、とてもくすぐったかったです。苦しかったわ。反射的に逃げ出してしまいそうになるのを、自分の意思で制御するのも大変で……。笑うのにも体力を使うし……」

 それはそうだと、まどかは深く頷く。

「でも、嫌ではなかったわ……笑うことって、やっぱりいいのよ。たとえくすぐり、でもね。日々の色々なことを忘れられるーーほんの一瞬だけど、神に愛される感覚というか、素晴らしさのようなものも感じました」

 どうやら寧々は、仕事ばかりの旦那と上手くいっていないようであった。言っていることは理解出来なかったが、背景立ったものであることは察することができた。

「それでね」

 寧々がずいと、顔をまどかに近づける。

 いつの間にか、寧々の顔から、柔らかさが消えている。微笑んではいるのだが、明らかに目が笑っていない。まどかは警戒した。

「あなたもーー肩の力を抜いて、もっと笑うべきだと思うの」

 嫌な予感がする。

「だからね、できれば、また一緒に会合へ行って欲しいのよ。推薦しておくから……いいのよ、気にしないで。せっかく来てくれたんですもの」

「なにに、推薦するのですか……」

「うふふ、行ってからのお楽しみよ」

 それから、あの宗教団体のナンバー2が話していたようなことを、寧々は滔々と語るのであったーー。

**

 しまった。帰り道、まどかは自身の軽率な行動に、多大なる後悔を覚えていた。極力目立たず、徐々に外側から探っていくつもりであったが……まさか寧々が既に盲信の域にあったとは思いもしなかった。

 おかげで何やら「推薦」されるようである。会合はちょうど一週間後とのことであったが、この上なく憂鬱である。まさか、くすぐられるのでは。行かなければいいか。でも、それでは記事にならない。

 ーー真面目なまどかは、大いに悩むのであった。

**

 会合当日。まどかはまた例の会合に紛れていた。服装は、仕事帰りという設定で、レディーススーツを選択した。やはり記事のために、という使命感が、まどかを突き動かしていた。

 こそこそしていると、早速、ナンバー2の女性が声をかけてきた。見つかってしまったかーー。

「あら、貴女」

「あ、先日はどうも……急用ができてしまい、急に失礼してしまいすみません」

「いいのよ、お仕事忙しいものね」

「いえ……」

「ふふ、良い、記事にしてね」

 ーー神経が逆立った。

 今、なんと?

**

 会合が始まり、信者による公演が進むのだが、気が気でない。きっと聞き間違いだ。記者とバレる隙はなかったはずである。

「……です……そして……今日もお一人、大いに笑っていただきたい方がいます」

 いつの間にか、話は前回と同じ流れになっていた。やはりか。寧々がまどかの方を見つめて、"ちゃんと推薦しといたからね"と言わんばかりの笑顔を見せている。

「まどかさん」

 心臓が跳ねる心地がした。

 ここで我慢すれば、潜入捜査としてはスムーズに行くのかもしれない。しかし、同性とはいえ、身体を弄られるのはいやだ。剰えくすぐられるのはーー。

 葛藤の末、まどかはナンバー2のもとに歩みを進めていた。このところ、良い記事を書けていない。体験談としての記事にできれば、きっと木戸デスクも通してくれる。

「あの、服は脱ぎたくないのですが」

 まどかの精一杯の抵抗が受け入れられ(たいそう残念そうであったが)、ジャケットだけを脱ぎ、移動式のベッドの上に横たわる。自分は、どれほどくすぐりに対する耐性があるのだろうか。

「それでは、神へ偽りのない笑いを」

 その掛け声とともに、信者たちの指が、まどかの身体に近づいてきた。まるで、ジェットコースターの、頂上に近づいているような、なんともいえない不安感がまどかを襲う。何も触れていないのに、むずむずとした感覚が生じ、思わず吹き出してしまう。

「ーーっ、く、ふ、ふふふ……」

 近づくだけでくすぐったい。

「そうそう、その調子」

「んん……ふふ、あっ、ちょっと」

 まどかの、触れていないのにもじもじと笑うという現象を楽しんだ(?)のち、とうとう、指先が身体に着地する。6人の信者たちの、60本の指が、まどかのブラウスの表面を撫ぜる。ストッキングの繊維の先に触れる。耳の先っぽにあてがわれる。微かな刺激が、全身に満遍なく生じる。まどかを一層笑わせるのには十分であった。

「あっ、あはは……くく、あっはっはっは」

 なんとも焦ったい刺激であった。腕を上げさせられている格好で、二の腕から脇の下まで軽くさすられ、お腹とわき腹については、弾力を楽しむようにタップされる。ブラウスのような滑りのいい服であることに後悔する。

 徐々に、本格的な笑い声に変わっていく。

「あはははははは!あはは、く、くすぐったい!ちょっと、ひと、多すぎませんかっあはは」

 まだ、逃げようとする身体を抑えることができるレベルだが、くすぐったいものはくすぐったい。首を横に振り、髪が乱れる。

 スカートから伸びる太ももから膝裏、ふくらはぎまでは、軽く爪を立てたかたちで往復される。

「あははははっ、もうっ、ははははっはは」

 足の裏に関しては、両足それぞれに一人ずつ張り付き、様々な刺激を与えて反応を試している。

「あっはっはっは、足の裏っははは」

 もう、どこがくすぐったいのかも分からない。とにかく辛く、もどかしい刺激が絶え間なく続き、まどかから笑い声を搾取する。

 触れるようなくすぐりが、いつのまにか本格的なこちょこちょとした動きになり、どんどん笑い声が大きくなる。まどかはついに暴れ始めた。

「あら、逃げては笑えませんことよ」

 合図とともに、上下に2人ずつ信者が増え、まどかの両腕、両足を押さえた。

「あははははははははっ、もう、無理かも、あははははっ!!笑った、とても、たくさん笑いましたから!」

 そんな談判も虚しく、くすぐりは続く。ナンバー2の指示により、60本の指は、全身からお腹周りに集合し始めた。まどかの、くすぐりへの耐性が最も弱い部位だと判断されたようだった。

 正直、図星であった。

 全指が、わらわらと無防備なお腹に群がる。なんというか、お腹に関しては、我慢という選択肢がない。これまで刺激が分散していたが、明確に"お腹がくすぐったい"と認識させられる。

「いやーーっ!あはははは!あっはっはっは、お腹ばっかりやめて……!く、くすぐっ、あはははっきゃはは」

 いつのまにかブラウスは肌け、裾から中に指が這入ってくる。布越しと比べ、地肌へのくすぐりは圧倒的にこそばゆい。笑うしかなかった。まどかの顔が紅潮していく。

「あーっはっはっは……直接……ずる……ははっ……っ!あはははははははっいやっ、あはははははは」

 明らかに寧々の時よりも激しいと感じる。受け手だからそう思うのか。

 お腹ばかりくすぐっていたのが、わき腹の辺りに移動している。腰が跳ねる。その後も、指の団体一行は、太もものあたりに移動してみたり、足の裏を包み込んでみたりと、堪え難い刺激を与えてくる。

「ああ……神はお喜びです……その調子ですわ」

 ナンバー2は、まどかの笑顔(強制)に感じ入った様子で、ラストスパートを命じる。

「あははははっははははっはっ、あーっはっはっは……」

 もう、まどかは笑うことしかできなかった。そこから10分間ほど、指達はまどかの弱点を周遊し、終わった頃にはまどかの顔はだらしない笑顔に染まっていたーー。

**

 まどかは早速、謎の宗教団体について記事にした。自身の身に起きた、常識外な出来事を含めて。

 木戸デスクは今回の潜入捜査について、中途報告もなく自身の身を危険に晒したことについて厳しく叱責したが、その内容の奇特さについては評価し、10月号のアングラ枠に特集として掲載された。

 笑いを崇める宗教団体として、面白おかしく世間に晒されたものの、特段の違法性も認められないことから、まだその団体は存続しているようだ。

 そういえば、あのナンバー2はどうして、まどかが記者である事を知っていたのであろうかーー。

 まどかは、タレコミ以降協力してくれた由梨を訪ね、改めてお礼をした。

 彼女は偶々セミナー会場の近くに住んでおり、偶々出版社に情報提供してくれた訳で、それが実績に繋がったのだから。

「この度はご協力ありがとうございました。お陰でーー大変な思いはしましたがーー良い記事が書けました」

 まどかがお土産を渡しながら頭をさげると、由梨は背筋を伸ばし、とびきりの笑顔でこう答えた。

「いえいえ、とんでもないっす。あの記事が出てから、実は信者の方々が増えたんですよ。そう、信じていました。この度は、我が団体の宣伝に、ご協力ありがとうございましたーー」

fin.
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