【完】放課後の弱点検査

柊一郎|くすぐり小説

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放課後の弱点検査(前編)

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「あっあははははっ!いやっ……せんせ、そこ……あはははっ」

 例の場所に指先が触れた途端、瑞希の小さめの口から、本日一番の笑い声が発せられた。これまでは恥じらいが混ざっていたが、今度はハッキリとした、爆笑に近い笑いだった。上げていた両腕もほぼ下がってしまったが、頑張ってまた上げようとしているところが素晴らしい。

「ふふ、やっぱりここね……8点、と」

 --検査はまだ半分。保健室のベッドに横たわる瑞希は、何やら検査用紙のようなものに自分の弱点を書き記している先生を見ながら、次はどこに指が着地するのかと、不安になりながらも腕を上げるのであった。
「さあ、お次は……」
 瑞希のつま先に、ギュッと力が入る。

**

 瑞希は仙陽高校の2年生で、学年でも評判の美人であった。とは言っても、それを鼻にかけている感じはなく、今は自分が所属するバスケ部の大会初戦に勝つことだけを考えている。

 しかし、瑞稀には小さな悩みがあった。それは--自分がかなりのくすぐったがりであると、つい最近気づいてしまったことであった。

 このあいだの練習試合中、ディフェンスとのマッチアップの際、腰のあたりに手を添えられたことがきっかけである。なんだかわき腹がこそばゆく感じて、ドリブルでのカットインが出来ず、パスを回すことしかできなかった。

 それからどうしても意識してしまい、ディフェンスに近づかれる度にニヤニヤする、妙ちくりんなスランプに陥ってしまったのであった。周りからは少し心配されたが、今のところ深刻な影響はない。ただ今後が心配なのである。

**

 仙陽高校の保健室には、中村美里という先生が勤務していた。29歳の女医であり、特に男子からの人気が高かったが、黒髪ロング、赤い口紅、スラッとした体型、それでいてアンニュイな雰囲気を纏い、女子からも憧れの目を向けられていた。

 ちなみに、昼の休み時間に、校外のカフェで紙煙草の煙をくゆらせている姿を目撃されたことがあり、恐らく保険医は副業であると(?)、都市伝説的に語られている。

 中村のポリシーは、"悩める生徒は全員わたしが受け止める"というもので、良い先生なのであるが、しばしば愛情が行き過ぎることがある。中村はそのことを認識しているが、改善しようとは思っていない。

 保健室の扉が開いた。

**

「あら、佐竹さん」

 保健室の入り口には、瑞希の姿があった。テスト期間で練習が休みのため、放課後に訪ねてきたのであった。

「先生、今大丈夫ですか……?」

 中村は、瑞希のその困り顔に、この上ない愛着を感じ、何があったのと、微笑みながら手招いた。

「私、バスケ部なんですけれど」

 中村はもちろん知っている。うん、と相槌を打った。

「最近、悩みがありまして。くだらないんですけど、どうしたらいいか分からなくて……先生なら、なにか解決策を知ってるかもって……」

 中村は、くだらないなんて事はない、生徒の悩みは全て高尚である、と口にしかけてやめた。やさしく、うん、と答える。

「――くすぐったがりの治し方、教えてください……!」

 中村は、聞いた瞬間に即答で「承知」と答えていた。それは条件反射に近い速度であり、瑞希をやや困惑させたが、中村の自信ありげな態度に安心感を覚えたのであった。

**

 中村は持ち前の包容力で、瑞希の話を隅々まで引き出した。練習試合での出来事、それからの悩み、そして今後はどうありたいのか――。

 ありたい姿は"ちょっとくらい触れられても、バスケに支障をきたさない"こと。

 そこから逆算した課題は、"弱点を把握し、克服する"こと。

 そして中村が差し出した対策は、"くすぐり弱点探し検査"であった。

 ――途中までふんふんと話を聞いていた瑞希であったが、最終的に謎の検査が登場したため、戸惑いを隠せなかった。

 瑞希は、ごにょごにょ言いながらドアの方を見たり、えぇー……と言いながら頬を掻いたりしていたので、中村は肩に手を遣り、長い前髪の隙間からまっすぐと目を見据え、いつもより一段低い声で、

「大丈夫。先生に任せて」

 と囁いた。瑞希はその瞬間に、即答で「はい」と答えていた。

**

 まず、瑞希は仮眠ベッドに横たわるように言われ、セーラー服のまま仰向けになった。

 なにやら言いくるめられた感があったが、中村ならなんとかしてくれると、(前評判も相まって)信じることにしたのだ。

向こうの方では、中村がなにやら必死にPCに向かって作業をしており、約十分後、一枚の紙を印刷した。

「これを見て頂戴」

 紙には人型が印刷されており、首、脇の下、お腹、わき腹、足の裏などから矢印が伸びており、その先に点数を書くための枠が準備されていた。

「これは……何でしょうか……」

 瑞希が不安になって訊くと、仁王立ちしている中村が待ってましたと答えはじめた。

「弱点評価シートよ。貴女の反応や笑い声を評価して、10点満点で点数を書いていくの。まずは弱点を認識することが大切なの、これは、何事にも言えることよ。例えば――」

 そこから、勉強ができなければ苦手教科を認識することから始めるのと同じ、という趣旨の尤もらしい説明があったが、瑞希は勉強が得意だったので、いまいちピンとこなかった。

「とにかく始めていくわね。なに、心配ないわよ。克服のために、一緒に頑張りましょう」

 中村はそう話しながら、瑞希の両手を取り、ゆっくりと上に上げ、バンザイの状態を作った。中村は、このままね、とウインクをして、ベッド上部のパイプを握るよう促した。

 バンザイする形となったため、セーラー服の丈が引き上がり、白い肌着が見える格好となった。

 肌着がちゃんとスカートに仕舞われていなかったため、引き締まったお腹が見え隠れしていたが、中村は敢えて言及を避けた。

 瑞希は、これから先生に(おそらく)くすぐられる事もあり不安であったが、少しドキドキもしていたのは、彼女だけの秘密である。

「それでは上からいくわね」

 そう言うと、中村の指は、瑞希の二の腕の辺りにあてがわれた。

 「――っ、」

  瑞希の身体全体が少し強張り、声にならない声が上がった。

 そこから中村の細い指は、軽くひっかく動作をしながら、肘から脇の下の間を往復しはじめた。

「くふ……あはは、先生、く、くすぐったい」

 瑞希は顔を赤らめながら訴えたが、うん、そうねと、とてもやさしく聞き流された。

 二の腕の中でも、脇の下に近づくたびに、瑞希の声に笑いが混じりやすい。往復の途中で、脇の下のところに少し留まって指を動かしてあげると、

「あは、あはははっ、先生」

 と、中村の意地悪を指摘するような眼差しを向けながら、どうしようもなく笑い声を上げてしまうのであった。

-中編へ続く-
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