【完】放課後の弱点検査

柊一郎|くすぐり小説

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放課後の弱点検査(中編)

 瑞希はこの時点で、自分がいかにくすぐりに弱いのかをあらためて自覚させられた。

 軽く上腕をこちょこちょされただけなのに、どうしようもなく笑ってしまった。自分の身体を検査されている、という異様な状況がそうさせたのかもしれないが--。

 さきほどの検査票に嬉々として何かを記入している中村の背中を見て、どうしようもなく逃げ出したくなったが、これはバスケのためと、ひとまず自分を説得することにした。

「ではお次は--あばらのあたりね」

 くるりと翻って、ふわっと寄ってきた中村の指先が、まったく心の準備ができていない瑞希の、胸の横あたりに着地した。またしても瑞希は身体を強張らせ、

「っふ…………」

 と吐息を漏らした。

「今から肋骨の本数を数えていくわね」

 瑞希は、中村が何を言っているのか分からなかったが、その後すぐに理解した。中村は、両サイドの一番下の肋骨に二本指を添えて、

「いっぽん--」

 と数え始めたのであった。

「にほん--さんぼん」

 数えるたびに次の肋骨に移動して、徐々に脇の下に近づいてくる。

 4本目あたりから、瑞希は耐えることができなかった。

「あっははははっ、ふふ、あははは……何で数えて……はは……あっ、ちょっとまっ」

 中村は、大丈夫、笑ってもいいのよ、と意味のわからない事をいいながら、さすさすとくすぐってくる。二の腕の時よりも少し強い刺激--脇の下あたりに来た段階で、瑞希はもう腕を下げてしまっていた。

「はぁ……はぁ……先生、だめ、くすぐったすぎます」

 涙目になっている瑞希に対し、中村はにんまりとした困り顔をしながら、

「本来は、こうして触って確認できる肋骨は10セットあるはずなの。手を下ろしたから、最後の一本がまだ探せていないわね」

 ふふふ、と微笑み、中村は瑞希の目をじっと見据えた。赦してくれる雰囲気は毛頭無さそうであった。もう探すなら探してくれ……と、恐る恐る腕を上げたが、中村はなかなか脇の下に触れない。瑞希はもう笑ってしまっている。

「うふ……先生はやく……くふ」

 中村はゆっくりと、それはもうゆっくりと、柔らかな脇の下に指を着地させた。瑞希の弾けるような笑い声が、二人きりの保健室に響いた。

**

 よく勘違いされるのだが、中村は特段、サディストという訳ではなかった。生徒の悩みを解決してあげたいという思いは本物であり、決して意地悪をしているつもりはない。

 学生の時分より、自身の見た目や雰囲気から、何かと怖がられることが多かった。中村の生存本能は、特に相手に何かを要求する場合については、出来る限り優しく、慈しみながら接するように、自身を矯正していったのであった。

 --つまりは中村は瑞希に対して、やさしく微笑みながら、出来る限り怖がらせずに、必要な検査を着実に敢行しているつもりなのである。

 例えば肋骨を数えるというアイデアは、なにかゲーム性のある要素を取り入れて、少しでもストレスを緩和したいという一心であった。

 それが完璧なまでに裏目に出ており、むしろフェティッシュな雰囲気を醸し出してしまっている事には、中村は気づいていない。

「はい、あばらのあたりは終了ね。ふふふ、とても弱かったけど、頑張ったわね」

 中村は検査票に「6点、肋骨の間をすこし押し込むとよく効く」と記載した。それを横目で見ていた瑞希は、うんうん、と納得しかけて、いや、何に共感しているんだと、我に帰ったのであった。

**

 次は約束の地、お腹周りであることは、瑞希にも想像ができた。そもそもくすぐったさを意識し始めたのが腰回りだったので、戦慄ここに極まれり、といった表情をしていた。

「あら、怖い?」

 中村に訊かれて、瑞希はふるふると首を横に振った。ここが正念場だ--そう思い、中村の指の着地に備えて、バンザイを保ちながら目を瞑っていた。

 しかしなぜか、

 中村の細い指が、

 セーラー服の裾から、

 内側にそろりと這入ってきたのを感じて、

「せんせい~~!!!!??」

 と、自分でも吃驚するほどの大声を出してしまった。

**

「な、なんで服の中に手を入れてるんですか?!」

 目をぐるぐる回しながら、上体を起こして混乱している瑞希を見て、中村はすこし驚いた顔をした。

「え、なんでって……ごめんなさい、折角だから」

 折角だからという言葉の意味が全くと言っていいほど分からず、瑞希は戸惑いながらも、思わず少し笑ってしまった。

「いえ、あの、これまで制服の上からだったのでまだアレだったんですけど、流石にその、直接くすぐられたら私、」

 瑞希は全力でこの蛮行を回避しようと試みたが、バスケのユニフォームの生地との類似性について指摘され、セーラー服越しでは不十分な検証となる点を遠回しに強調された結果、ぐうの音も出ずにまた横たわることとなった。もちろん中村に一切の悪気はない。

 セーラー服の裾から中村の指が侵入し、肌着越しにふわふわと触られただけで、瑞希は転がるように笑い始めた。

「あはははははっ!あ、ダメだ、あっははっ、きゃあ、ふふふあはははは」

 瑞希のお腹は、バスケ部なだけあって程よく引き締まっていた。瑞希が笑うたびに中村の指が弾かれ、まるでピアノの鍵盤を撫ぜているようであった。

「あっはっははは、いやっ、もうむりです、くすぐったいですあはははは……っ、あはははは!くりくりしないでっああはははは」

 そして中村の指は、少しはだけていた肌着からまた内側に侵入し、今度は直接おへその周りを撫で始めた。

「?!!あはは?!先生、直接はだめです、あっ、あははっははは」

 瑞希の笑い声がより一層大きくなり、脚がばたばたと動き始めた。中村はそのまま素肌を通じてわき腹の方へ歩を進めた。

 もう、こうなったら、瑞希は耐えることができない。

「先生、もういいですか、あはは、腕あげてられない、あはははっ、くすぐったすぎます」

「先生、一旦弱いの分かりました、だからあははははっいやははははっうふふっああっ」

「先生、それ、その触り方ダメです、くすぐったい、あは、あはははははは」

「ふふ、やっぱりここね……」

 そう言って中村は、検査票に8点と記載し、お腹よりわき腹が弱い、どちらかというと揉むよりこちょこちょ、など、検査結果を詳細に書き記した。

 瑞希は息も絶え絶えとなっており、顔を赤くしながら、お腹のあたりを押さえてもじもじしている。

検査は終盤に差し掛かる。

-後編へ続く-
 
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