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第58話 ヘニーノ
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ウクリ街道の旅を経て、リディとニケは目的地であるヘニーノへとやってきていた。
ヘニーノはウクリ街道の北に位置し、ヘニーノより更に北へ行くとウクリ街道の終点であるリモアという街に行き着く。イダンセとリモアがウクリ街道の2大拠点であり、ヘニーノはその2つの街よりも2段ほど劣る大きさの町だ。規模こそ大きくないものの、ヘニーノは工芸都市として発展し、ここで作られた品々はイダンセやリモアへ流通し、イダンセへ着いた品はそこから更に王都へと流れる場合もある。
ヘニーノで作られる品は多種多様で刀剣類や編籠、家具、衣類など様々な職人がいる。町の中は似たような品を作る者たちが近くに住み、情報交換をしながら己の技術を磨いていったため、領主が区画整理を行ったわけではなく、自然発生的にそれぞれが職人街として専門分野ごとに分かたれていた。
そしてその発展を見た領主は各地方からやってくる商人がそれぞれの職人街へアクセスしやすいようにと、町の中心に宿泊施設を整備し、更にその近辺に飲食店が集まることで、今のヘニーノという町が形作られた。
リディとニケはその中心街にある宿の中から、二人部屋が用意されている宿を選び、そこを拠点にすることに決めた。
「ふむ、そろそろ金が減ってきたな」
部屋のベッドに腰掛けながら、金の入った巾着をリディが覗き込む。先払いした分も含めて、数日の宿泊分は問題ないが、袋の底が見えて来るのも時間の問題だった。
「また、ギルドに行くの?」
「そうだな。ヒジカみたいなおいしい依頼があるかはわからないが……」
リトナの町で受けたヒジカ退治では、短期間で大きく稼ぐことができたが、あれは複数受諾可の依頼の成果をリディがほぼ独占した結果によるものなので、あまりアテにはできない。通常の依頼であればもう少し稼ぎの時間効率が悪いのが普通だ。稀においしい案件があるのも事実であるが、当然だがそういった案件は早いもの勝ちで取られてしまうので、勝ち取るには運も絡んでくる。
街に着いたばかりで今日は早めに休むことにして、リディとニケは明日ギルドでの依頼探しを行うことにした。
職人の町であるヘニーノの朝は早い。職人気質と早起きに関連があるのかは定かではないが、職人が多く住むこの町では空が白み始める頃には町は動き出している。どこからともなくカンカンという音が聞こえ始め、町の通りにはこれから職場へ移動する人たちが行き交っている。
リディはそんな街の喧騒と、窓から入ってくる小気味よく鉄を叩く音で目を覚ました。
ベッドの上で両手をあげて、ぐっと伸びをして、少しぼーっとしてから準備を始めた。
ここの宿は朝食付きではないため、朝食は外で食べる必要がある。準備をしながら窓から町を見下ろすと、通りにはいくつか店が出ているのが見えた。リディは窓を開けて、漂ってくる匂いから、何を食べようかと考えながら出発の準備をしていった。
リディの準備が終わろうかというところで、ニケは目を覚まし、リディは顔だけ洗わせに行かせて、二人は宿を出た。
日が低く、影が長く伸びる時間から、ヘニーノの通りはガヤガヤと喧騒に溢れている。ギルドは宿と同じく中心街にある。リディとニケはギルドへ行く前に朝食を食べるため、通りの店を眺めていった。
結局二人はパン屋が出していた出店で、小麦粉の生地を薄く焼いて野菜や肉などを挟んだものを買った。そして、歩きながらそれを腹へと入れると、ヘニーノの町のギルドへと入った。
リトナの町のギルドとは異なり、ヘニーノのギルドは朝から賑わいを見せていた。職人が多いということは武器や防具なども質の良いものが集まることを意味している。そのため、ヘニーノは冒険者にとっても人気の町となっていた。この町の依頼をこなしながら金を稼ぎ、良い装備を整えるというのは中級の冒険者がよく通る道だった。
ギルドの勝手はリトナの町と同じであり、リディは掲示板に貼られた依頼書の中からめぼしいものを探す。簡単なものは薬草取りや、町の人からの雑用依頼など、戦力に乏しくても対応できるものがあった。難しいものは高山地帯での鉱石採取や豪魔退治など、戦いの実力、そして高山地帯で生き抜くための道具や装備も求められるものが多かった。
リディはそれらの中間ぐらいのものを目安として依頼書を順に眺めていく。
『鉱物採集への同行をお願いします』
リディの目に止まったのは、そう書かれた依頼書だった。
「『同行』……というのは珍しいな」
リディは顎に手をあてながら、依頼書の詳細に目を通した。
通常の鉱物採集であれば、目的のものを記載し誰かに採ってきてもらうだけでよいはずだ。現に他の依頼書を見ると薬草採取などではそういった記載になっている。他の可能性としては採取地域が危険な場所であり、護衛として冒険者を雇うという場合もあるが、そうであるならば『同行』とは書かずに『護衛』と書くはずだ。危険を伏せて依頼書を掲載することはギルドが許容しないからだ。
「期間が一日の割に報酬もいいし、試しにこれにしてみるか」
リディが横で見ていたニケに振り向くと、ニケはこくりと頷いた。怪しい依頼だと思ってはいるが、好奇心がそれを上回った。
リディは依頼書の番号を覚えて、受付の方を見やる。リトナの町のギルドでは番号札があったがここのギルドにはないようだった。ひとつ空いている受付があったのでとりあえずそこへと向かった。
「依頼を受けたいのだが」
「……はい」
受付にいたのは、リトナの町の受付嬢とは正反対の物静かな女性だった。暗いグレーの肩ほどまで伸ばした髪に同化するようにロップイヤーが垂れている。タレ目タレ眉の気弱そうな見た目は、そんな耳の垂れ具合が性格に現れているように感じられた。リディの視線はその受付嬢の垂れた耳に惹きつけられる。
「……あの、番号は?」
「あ、あぁ、276番だ」
リディから番号を聞くと受付の女性は手元の紙束を慣れた手付きでペラペラとめくりだす。そして、ある場所で指を止めると、紙束の中の一枚を取り出した。
「ジャッカさんの鉱物採取への同行。……間違いない?」
「その、ジャッカという名前は始めて聞いたが、鉱物採取への同行の方はあっているから間違っていないはずだ」
「ジャッカは依頼主の、名前。定期的にこの依頼と同じようなのを、出している、いや出してもらっている人」
基本的には鉱物採集はこのジャッカという依頼主が行い。同行者は本当に同行してくれればいいらしい。同行者に求められていることはただ一つ、万が一依頼主が死んだ場合にそれをギルドに報告することのみという話だった。
このジャッカという人物は一流の鍛冶師でヘニーノ近くの森の奥に一人で住んでいる。ジャッカは鍛冶の素材に対するこだわりが強く、基本的に素材は自分で採るものしか使用しない。しかし、素材は魔獣から採ったり、高山地帯の山中の洞窟で採ったりと危険な場所で採ることが多く、ジャッカに素材を一人で取りに行かせると万が一ジャッカが死んだ場合に誰もそれを知ることができなくなってしまう。
そこでギルドはジャッカが素材を採りに行くときには、こうやって依頼を出させて、冒険者の誰かを生存確認のために同伴させることにしていた。
そして、この依頼の依頼料はギルドが負担しており、且つ、冒険者を早く釣るために若干割高になっている。
つまり、リディは冒険者ギルドの餌にまんまと釣られたわけだ。
「しかし、おいしい依頼の割に結構残っているのだな」
受付嬢の目、というよりも耳を見ながらリディが尋ねる。
依頼書には掲載開始日が記載されているのだが、この依頼書の掲載開始日を見るとすでに数日が経過していた。報酬の美味さで言えば当日に取られてもおかしくない内容のはずだ。
「それは、ギルドとしても問題、と思っている……。でも、ジャッカの奴のせいで、依頼を受けられる人がどんどん減っていく」
「それはどういう……」
「ジャッカは『センスのある人』か『初めての人』の同行しか認めない。そして、初めての人の9割以上の人はジャッカに『センスがない』と言われる。だから、必然的に依頼を受けられる人が減っていく……」
故にこの依頼が今まで残っていたというわけだ。
受付嬢の話によるとジャッカに『センスがある』と言われた人の殆どは大成し、報酬の安い簡単な依頼は受けなくなってしまう。ジャッカの依頼も最初の数回は受けてくれるが、そのうち別の町へ旅立ったり、難易度の高い依頼をこなすのみになってしまうとのことだった。
「偏屈な人なのだな」
「でも造る武器は一流。この町の重要な生産活動の一つ。ジャッカの武器を交易で扱えなくなるのは町にとって非常に痛い」
受付嬢は小さくため息を吐きながら、そう言った。
「私たちもすぐに旅立ってしまうので、あまり力になれそうにないが、この依頼を受けること自体は構わないのだろう?」
「それは仕方ない、奴のためにこの町にいろというわけにはいかない。むしろ時間稼ぎできるだけ、こちらとしてはありがたい」
「じゃあ、この依頼は受けるということで進めてくれ」
「……」
「……なにか?」
「ギルド帳、出して」
「あ、そうか」
リディはゴソゴソと荷袋を漁り、ギルド帳を見つけると受付嬢に手渡した。
「王都の薬草取りに……リトナの町のヒジカ退治、担当は……」
リディのギルド帳を見ていた受付嬢はリトナの町の項目を見たところで、嫌なものを見たように顔をしかめた。元々垂れている眉が更に垂れる。
「リトナの町で担当してもらったのはアルパという女性だったが、知っているのか?」
「ギルドの集まりでたまに会う。うるさいから嫌い、耳……触るし」
以前会った時のことを思い出したのか受付嬢は自分の垂れた耳を手で抑える。
(まぁ、あの人は遠慮という言葉を知らない感じでやかましかったからな……それにあの耳に触ってみたいのは私も同意だ)
「その視線、やめて」
「おっと、失礼」
リディから向けられる視線に敏感に反応して、受付嬢はリディを窘める。そして、ギルド帳の新しいページにサラサラと依頼の受託についてを記載すると、リディの手へとギルド帳を戻した。
「町の西の出口から森に入るとすぐに右に曲がる道がある。その道の先に小さな小屋があって、ジャッカはそこに住んでいる。わからなかったら戻ってきて」
受付嬢からの簡素な説明を聞いて、リディとニケはギルドを後にした。
リディは最後まで受付嬢の耳を見ていた――。
ヘニーノはウクリ街道の北に位置し、ヘニーノより更に北へ行くとウクリ街道の終点であるリモアという街に行き着く。イダンセとリモアがウクリ街道の2大拠点であり、ヘニーノはその2つの街よりも2段ほど劣る大きさの町だ。規模こそ大きくないものの、ヘニーノは工芸都市として発展し、ここで作られた品々はイダンセやリモアへ流通し、イダンセへ着いた品はそこから更に王都へと流れる場合もある。
ヘニーノで作られる品は多種多様で刀剣類や編籠、家具、衣類など様々な職人がいる。町の中は似たような品を作る者たちが近くに住み、情報交換をしながら己の技術を磨いていったため、領主が区画整理を行ったわけではなく、自然発生的にそれぞれが職人街として専門分野ごとに分かたれていた。
そしてその発展を見た領主は各地方からやってくる商人がそれぞれの職人街へアクセスしやすいようにと、町の中心に宿泊施設を整備し、更にその近辺に飲食店が集まることで、今のヘニーノという町が形作られた。
リディとニケはその中心街にある宿の中から、二人部屋が用意されている宿を選び、そこを拠点にすることに決めた。
「ふむ、そろそろ金が減ってきたな」
部屋のベッドに腰掛けながら、金の入った巾着をリディが覗き込む。先払いした分も含めて、数日の宿泊分は問題ないが、袋の底が見えて来るのも時間の問題だった。
「また、ギルドに行くの?」
「そうだな。ヒジカみたいなおいしい依頼があるかはわからないが……」
リトナの町で受けたヒジカ退治では、短期間で大きく稼ぐことができたが、あれは複数受諾可の依頼の成果をリディがほぼ独占した結果によるものなので、あまりアテにはできない。通常の依頼であればもう少し稼ぎの時間効率が悪いのが普通だ。稀においしい案件があるのも事実であるが、当然だがそういった案件は早いもの勝ちで取られてしまうので、勝ち取るには運も絡んでくる。
街に着いたばかりで今日は早めに休むことにして、リディとニケは明日ギルドでの依頼探しを行うことにした。
職人の町であるヘニーノの朝は早い。職人気質と早起きに関連があるのかは定かではないが、職人が多く住むこの町では空が白み始める頃には町は動き出している。どこからともなくカンカンという音が聞こえ始め、町の通りにはこれから職場へ移動する人たちが行き交っている。
リディはそんな街の喧騒と、窓から入ってくる小気味よく鉄を叩く音で目を覚ました。
ベッドの上で両手をあげて、ぐっと伸びをして、少しぼーっとしてから準備を始めた。
ここの宿は朝食付きではないため、朝食は外で食べる必要がある。準備をしながら窓から町を見下ろすと、通りにはいくつか店が出ているのが見えた。リディは窓を開けて、漂ってくる匂いから、何を食べようかと考えながら出発の準備をしていった。
リディの準備が終わろうかというところで、ニケは目を覚まし、リディは顔だけ洗わせに行かせて、二人は宿を出た。
日が低く、影が長く伸びる時間から、ヘニーノの通りはガヤガヤと喧騒に溢れている。ギルドは宿と同じく中心街にある。リディとニケはギルドへ行く前に朝食を食べるため、通りの店を眺めていった。
結局二人はパン屋が出していた出店で、小麦粉の生地を薄く焼いて野菜や肉などを挟んだものを買った。そして、歩きながらそれを腹へと入れると、ヘニーノの町のギルドへと入った。
リトナの町のギルドとは異なり、ヘニーノのギルドは朝から賑わいを見せていた。職人が多いということは武器や防具なども質の良いものが集まることを意味している。そのため、ヘニーノは冒険者にとっても人気の町となっていた。この町の依頼をこなしながら金を稼ぎ、良い装備を整えるというのは中級の冒険者がよく通る道だった。
ギルドの勝手はリトナの町と同じであり、リディは掲示板に貼られた依頼書の中からめぼしいものを探す。簡単なものは薬草取りや、町の人からの雑用依頼など、戦力に乏しくても対応できるものがあった。難しいものは高山地帯での鉱石採取や豪魔退治など、戦いの実力、そして高山地帯で生き抜くための道具や装備も求められるものが多かった。
リディはそれらの中間ぐらいのものを目安として依頼書を順に眺めていく。
『鉱物採集への同行をお願いします』
リディの目に止まったのは、そう書かれた依頼書だった。
「『同行』……というのは珍しいな」
リディは顎に手をあてながら、依頼書の詳細に目を通した。
通常の鉱物採集であれば、目的のものを記載し誰かに採ってきてもらうだけでよいはずだ。現に他の依頼書を見ると薬草採取などではそういった記載になっている。他の可能性としては採取地域が危険な場所であり、護衛として冒険者を雇うという場合もあるが、そうであるならば『同行』とは書かずに『護衛』と書くはずだ。危険を伏せて依頼書を掲載することはギルドが許容しないからだ。
「期間が一日の割に報酬もいいし、試しにこれにしてみるか」
リディが横で見ていたニケに振り向くと、ニケはこくりと頷いた。怪しい依頼だと思ってはいるが、好奇心がそれを上回った。
リディは依頼書の番号を覚えて、受付の方を見やる。リトナの町のギルドでは番号札があったがここのギルドにはないようだった。ひとつ空いている受付があったのでとりあえずそこへと向かった。
「依頼を受けたいのだが」
「……はい」
受付にいたのは、リトナの町の受付嬢とは正反対の物静かな女性だった。暗いグレーの肩ほどまで伸ばした髪に同化するようにロップイヤーが垂れている。タレ目タレ眉の気弱そうな見た目は、そんな耳の垂れ具合が性格に現れているように感じられた。リディの視線はその受付嬢の垂れた耳に惹きつけられる。
「……あの、番号は?」
「あ、あぁ、276番だ」
リディから番号を聞くと受付の女性は手元の紙束を慣れた手付きでペラペラとめくりだす。そして、ある場所で指を止めると、紙束の中の一枚を取り出した。
「ジャッカさんの鉱物採取への同行。……間違いない?」
「その、ジャッカという名前は始めて聞いたが、鉱物採取への同行の方はあっているから間違っていないはずだ」
「ジャッカは依頼主の、名前。定期的にこの依頼と同じようなのを、出している、いや出してもらっている人」
基本的には鉱物採集はこのジャッカという依頼主が行い。同行者は本当に同行してくれればいいらしい。同行者に求められていることはただ一つ、万が一依頼主が死んだ場合にそれをギルドに報告することのみという話だった。
このジャッカという人物は一流の鍛冶師でヘニーノ近くの森の奥に一人で住んでいる。ジャッカは鍛冶の素材に対するこだわりが強く、基本的に素材は自分で採るものしか使用しない。しかし、素材は魔獣から採ったり、高山地帯の山中の洞窟で採ったりと危険な場所で採ることが多く、ジャッカに素材を一人で取りに行かせると万が一ジャッカが死んだ場合に誰もそれを知ることができなくなってしまう。
そこでギルドはジャッカが素材を採りに行くときには、こうやって依頼を出させて、冒険者の誰かを生存確認のために同伴させることにしていた。
そして、この依頼の依頼料はギルドが負担しており、且つ、冒険者を早く釣るために若干割高になっている。
つまり、リディは冒険者ギルドの餌にまんまと釣られたわけだ。
「しかし、おいしい依頼の割に結構残っているのだな」
受付嬢の目、というよりも耳を見ながらリディが尋ねる。
依頼書には掲載開始日が記載されているのだが、この依頼書の掲載開始日を見るとすでに数日が経過していた。報酬の美味さで言えば当日に取られてもおかしくない内容のはずだ。
「それは、ギルドとしても問題、と思っている……。でも、ジャッカの奴のせいで、依頼を受けられる人がどんどん減っていく」
「それはどういう……」
「ジャッカは『センスのある人』か『初めての人』の同行しか認めない。そして、初めての人の9割以上の人はジャッカに『センスがない』と言われる。だから、必然的に依頼を受けられる人が減っていく……」
故にこの依頼が今まで残っていたというわけだ。
受付嬢の話によるとジャッカに『センスがある』と言われた人の殆どは大成し、報酬の安い簡単な依頼は受けなくなってしまう。ジャッカの依頼も最初の数回は受けてくれるが、そのうち別の町へ旅立ったり、難易度の高い依頼をこなすのみになってしまうとのことだった。
「偏屈な人なのだな」
「でも造る武器は一流。この町の重要な生産活動の一つ。ジャッカの武器を交易で扱えなくなるのは町にとって非常に痛い」
受付嬢は小さくため息を吐きながら、そう言った。
「私たちもすぐに旅立ってしまうので、あまり力になれそうにないが、この依頼を受けること自体は構わないのだろう?」
「それは仕方ない、奴のためにこの町にいろというわけにはいかない。むしろ時間稼ぎできるだけ、こちらとしてはありがたい」
「じゃあ、この依頼は受けるということで進めてくれ」
「……」
「……なにか?」
「ギルド帳、出して」
「あ、そうか」
リディはゴソゴソと荷袋を漁り、ギルド帳を見つけると受付嬢に手渡した。
「王都の薬草取りに……リトナの町のヒジカ退治、担当は……」
リディのギルド帳を見ていた受付嬢はリトナの町の項目を見たところで、嫌なものを見たように顔をしかめた。元々垂れている眉が更に垂れる。
「リトナの町で担当してもらったのはアルパという女性だったが、知っているのか?」
「ギルドの集まりでたまに会う。うるさいから嫌い、耳……触るし」
以前会った時のことを思い出したのか受付嬢は自分の垂れた耳を手で抑える。
(まぁ、あの人は遠慮という言葉を知らない感じでやかましかったからな……それにあの耳に触ってみたいのは私も同意だ)
「その視線、やめて」
「おっと、失礼」
リディから向けられる視線に敏感に反応して、受付嬢はリディを窘める。そして、ギルド帳の新しいページにサラサラと依頼の受託についてを記載すると、リディの手へとギルド帳を戻した。
「町の西の出口から森に入るとすぐに右に曲がる道がある。その道の先に小さな小屋があって、ジャッカはそこに住んでいる。わからなかったら戻ってきて」
受付嬢からの簡素な説明を聞いて、リディとニケはギルドを後にした。
リディは最後まで受付嬢の耳を見ていた――。
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