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第71話 勝負
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この3人の子供たち、リディに話しかけてきた金髪の活発な少年はレグリス、黒髪の大人しめの少年はシウス、そしてシウスに隠れるようにしている少女はミリアと名乗った。
レグリスとリディは広場で互いに剣を持って対峙する。レグリスは木剣を、リディは鞘を付けたままの剣を使う。そして剣は当てずに寸止めさせることという約束をした。
「レグリス、これは実戦じゃなくて試合だからね。卑怯なのはダメだよ」
「わかってるよ」
シウスはそれだけレグリスに伝え、ミリアとニケと共に二人を見守るように井戸の側に待機する。
「判定はどうするんだ?」
「ミリア!」
「えー! あたし!?」
レグリスに呼ばれて、ミリアは不満をあらわにする。さっきまでシウスの後ろに隠れていたが、レグリスに対しては大人しい態度ではない。ミリアは普段からレグリスとシウスの勝負の審判をしている。その経験からレグリスに白羽の矢を立てられた形だ。
「いつもとおんなじ感じでな」
「しょうがないなぁ……」
ミリアは渋々ながらリディたちの近くへやってきて、リディとレグリスの中間に立つ。
「おねーさんも準備、いい?」
「あぁ、大丈夫だ」
リディの返事を聞いてミリアはリディとレグリスを分かつように腕を前に突き出す。そして、始めの合図と共にその腕を一気に振り上げた。
「はじめっ!!」
ミリアの合図の瞬間レグリスは剣を振り上げながら駆け出す。
リディはその様子を見て左足を半歩引き、剣を斜めにして待ち構えた。レグリスはリディの剣に向かってそのまま剣を打ち込んでくる。リディの剣の鞘とレグリスの木剣がぶつかり、鈍い音を立てる。
レグリスは打ち込んだ勢いそのままに、剣に体重を半分ほど預けたまま、リディの周りを回るように体を運ぶ。そしてリディの横に回り込み、剣を素早く構え直すと、リディの腰元をめがけて剣を振るった。
――空振り。
レグリスが剣を振り切る前に、リディは後方に飛び、レグリスの剣は空を切った。
(軽い……が、速いな)
普通の子供ではない。それがレグリスの剣を見たリディの感想だ。子供だと侮っていたらおそらく今の攻防で負けていた。『どんな相手でも油断するな』という騎士団の上官の教えにリディは感謝した。
「あっれー? シウスには決まったんだけどな」
自らの剣を避けたリディを見ながら、レグリスは首をかしげる。
「僕に決まったっていうか、僕にしか決まってないよね? 大人には通用しないんだよ」
横で見ているシウスから返事が返って来る。
レグリスは今の立ち回りをいろんな人に試しているようだが、シウスにしか通用しなかったようだ。
(初見で対応できる者は、相当な強者だと思うのだが……)
自賛するわけではないが、リディはかなり腕の立つ方だ。王都の騎士団でも一目置かれていたし、魔獣の討伐に出兵する際には先陣を任されることもある。
故に、そんなリディだから対応できたと思っていたのだが、シウスとレグリスの会話からはこの村の人はたやすくレグリスの攻撃に対応できたように聞こえる。
それがリディには不可解だった。
「もういっちょ、行くぞ!」
仕切り直してレグリスがリディに向かって突進する。駆け出すとともに右手に魔力を込め、レグリスは火炎弾を撃ち出した。
(次は魔法か!)
飛んできた火炎弾をリディは体を横に反らせて躱す。その間も視線はレグリスから離さない。
火炎弾を躱した直後、レグリスが飛び上がって大きく剣を振りかぶり、リディに向かって斬りかかる。
リディは剣を横に構え、それをしっかりと受ける『ふり』をする。
そして、レグリスの剣とリディの剣が触れそうになった瞬間、リディは力を抜いて剣を引いた。
意表をつかれたレグリスは着地の時に体勢を崩し、前につんのめる。
そして、その首筋に剣が当てられた。
「私の勝ちだな」
リディが口元を歪め、勝利を宣言し。
「はい、そこまで! お姉さんの勝ち!」
ミリアが高らかに勝敗を告げた。
「だーっ、くっそ! 負けた!」
レグリスは仰向けに地面に寝っ転がり、悔しさを全身を使って表現している。その様子を見ながら、横で見ていたシウスとニケもリディたちの元へとやってくる。
ミリアは悔しさを表現した後で寝っ転がったままのレグリスを指でつついていた。
「惜しかったねー、でいいのかな?」
「あぁ、かなり強かったぞ」
「ちくしょう! 負けた相手にそんな事言われても嬉しくねーよ!」
レグリスはむくりと起き上がると、眉を顰めて不満を隠さずにリディを見る。
「いや、でも君が強いのは事実だぞ。私も油断していたら負けていたと思う」
「ホントかよ。その割には余裕そうだったけど」
「相手に表情を読ませないのは、戦いの基本だからな」
「……おじさんも同じようなことを言ってたな」
「おじさん?」
レグリスの言った『おじさん』という人物について聞こうとしたところで、村の入口で会話をした門番の男がリディの視界に入った。
「おーい、お嬢さん! 村長に確認してきたよ。」
男は手を振りながらリディ達の方へと歩いてくる。
「あ、バモンさんだ」
声がした方向を見て、ミリアが手を振り返しながら男の名前を呼んだ。
「なんだ、みんなで旅人さんと遊んでもらってたのか?」
集まった子供たちとリディを見回してバモンはそんなことを言う。
「遊びじゃねーよ。勝負してもらってたの」
「ほぅ、勝負。レグリスと旅人さんがかい? どっちが勝ったんだ?」
「旅人のお姉さんよ! このお姉さんすっごく強いの! 勝負が決まったときはレグ兄の動きを利用する感じでとってもカッコよかったわ!」
ミリアは興奮した感じで、バモンに勝負の様子を語る。
「あんた、レグリスに勝ったのか」
バモンは一瞬驚いた表情を見せリディを見た。
「あぁ、そうだが、それが?」
「いや、何でもない」
会話はそれで終わった。
バモンは『こっちだ』とリディとニケに付いてくるように言い、リディは子供たちに小さく手を振り、その場で彼らと別れた。
レグリスとリディは広場で互いに剣を持って対峙する。レグリスは木剣を、リディは鞘を付けたままの剣を使う。そして剣は当てずに寸止めさせることという約束をした。
「レグリス、これは実戦じゃなくて試合だからね。卑怯なのはダメだよ」
「わかってるよ」
シウスはそれだけレグリスに伝え、ミリアとニケと共に二人を見守るように井戸の側に待機する。
「判定はどうするんだ?」
「ミリア!」
「えー! あたし!?」
レグリスに呼ばれて、ミリアは不満をあらわにする。さっきまでシウスの後ろに隠れていたが、レグリスに対しては大人しい態度ではない。ミリアは普段からレグリスとシウスの勝負の審判をしている。その経験からレグリスに白羽の矢を立てられた形だ。
「いつもとおんなじ感じでな」
「しょうがないなぁ……」
ミリアは渋々ながらリディたちの近くへやってきて、リディとレグリスの中間に立つ。
「おねーさんも準備、いい?」
「あぁ、大丈夫だ」
リディの返事を聞いてミリアはリディとレグリスを分かつように腕を前に突き出す。そして、始めの合図と共にその腕を一気に振り上げた。
「はじめっ!!」
ミリアの合図の瞬間レグリスは剣を振り上げながら駆け出す。
リディはその様子を見て左足を半歩引き、剣を斜めにして待ち構えた。レグリスはリディの剣に向かってそのまま剣を打ち込んでくる。リディの剣の鞘とレグリスの木剣がぶつかり、鈍い音を立てる。
レグリスは打ち込んだ勢いそのままに、剣に体重を半分ほど預けたまま、リディの周りを回るように体を運ぶ。そしてリディの横に回り込み、剣を素早く構え直すと、リディの腰元をめがけて剣を振るった。
――空振り。
レグリスが剣を振り切る前に、リディは後方に飛び、レグリスの剣は空を切った。
(軽い……が、速いな)
普通の子供ではない。それがレグリスの剣を見たリディの感想だ。子供だと侮っていたらおそらく今の攻防で負けていた。『どんな相手でも油断するな』という騎士団の上官の教えにリディは感謝した。
「あっれー? シウスには決まったんだけどな」
自らの剣を避けたリディを見ながら、レグリスは首をかしげる。
「僕に決まったっていうか、僕にしか決まってないよね? 大人には通用しないんだよ」
横で見ているシウスから返事が返って来る。
レグリスは今の立ち回りをいろんな人に試しているようだが、シウスにしか通用しなかったようだ。
(初見で対応できる者は、相当な強者だと思うのだが……)
自賛するわけではないが、リディはかなり腕の立つ方だ。王都の騎士団でも一目置かれていたし、魔獣の討伐に出兵する際には先陣を任されることもある。
故に、そんなリディだから対応できたと思っていたのだが、シウスとレグリスの会話からはこの村の人はたやすくレグリスの攻撃に対応できたように聞こえる。
それがリディには不可解だった。
「もういっちょ、行くぞ!」
仕切り直してレグリスがリディに向かって突進する。駆け出すとともに右手に魔力を込め、レグリスは火炎弾を撃ち出した。
(次は魔法か!)
飛んできた火炎弾をリディは体を横に反らせて躱す。その間も視線はレグリスから離さない。
火炎弾を躱した直後、レグリスが飛び上がって大きく剣を振りかぶり、リディに向かって斬りかかる。
リディは剣を横に構え、それをしっかりと受ける『ふり』をする。
そして、レグリスの剣とリディの剣が触れそうになった瞬間、リディは力を抜いて剣を引いた。
意表をつかれたレグリスは着地の時に体勢を崩し、前につんのめる。
そして、その首筋に剣が当てられた。
「私の勝ちだな」
リディが口元を歪め、勝利を宣言し。
「はい、そこまで! お姉さんの勝ち!」
ミリアが高らかに勝敗を告げた。
「だーっ、くっそ! 負けた!」
レグリスは仰向けに地面に寝っ転がり、悔しさを全身を使って表現している。その様子を見ながら、横で見ていたシウスとニケもリディたちの元へとやってくる。
ミリアは悔しさを表現した後で寝っ転がったままのレグリスを指でつついていた。
「惜しかったねー、でいいのかな?」
「あぁ、かなり強かったぞ」
「ちくしょう! 負けた相手にそんな事言われても嬉しくねーよ!」
レグリスはむくりと起き上がると、眉を顰めて不満を隠さずにリディを見る。
「いや、でも君が強いのは事実だぞ。私も油断していたら負けていたと思う」
「ホントかよ。その割には余裕そうだったけど」
「相手に表情を読ませないのは、戦いの基本だからな」
「……おじさんも同じようなことを言ってたな」
「おじさん?」
レグリスの言った『おじさん』という人物について聞こうとしたところで、村の入口で会話をした門番の男がリディの視界に入った。
「おーい、お嬢さん! 村長に確認してきたよ。」
男は手を振りながらリディ達の方へと歩いてくる。
「あ、バモンさんだ」
声がした方向を見て、ミリアが手を振り返しながら男の名前を呼んだ。
「なんだ、みんなで旅人さんと遊んでもらってたのか?」
集まった子供たちとリディを見回してバモンはそんなことを言う。
「遊びじゃねーよ。勝負してもらってたの」
「ほぅ、勝負。レグリスと旅人さんがかい? どっちが勝ったんだ?」
「旅人のお姉さんよ! このお姉さんすっごく強いの! 勝負が決まったときはレグ兄の動きを利用する感じでとってもカッコよかったわ!」
ミリアは興奮した感じで、バモンに勝負の様子を語る。
「あんた、レグリスに勝ったのか」
バモンは一瞬驚いた表情を見せリディを見た。
「あぁ、そうだが、それが?」
「いや、何でもない」
会話はそれで終わった。
バモンは『こっちだ』とリディとニケに付いてくるように言い、リディは子供たちに小さく手を振り、その場で彼らと別れた。
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