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第13話 ワンコ系新入社員 side若菜
しおりを挟む実は今日も、あんまり寝られなかった。
アイスを食べた後、お互いの家に帰ったというものの。
ーー正直言って。
エッチでドSな雅貴が忘れられなくって。
何度も何度も、雅貴とのキスを思い出してた。
雅貴が深く入ってくるたびに、胸もお腹の下あたりもきゅうんとなって、じんわり気持ちよくなってきて。
ーーやめてって言いながらも。
もっとしてほしい、やめないでっ……って、思う自分もいることにビックリしてた。
その次は、相変わらずの自己嫌悪。
つい二日前まで。
あんなに吉野先輩が大好きだったのに。
告白前に玉砕したことが、あんなに辛かったのに。
……あとね、今まで雅貴ってカノジョさんがいて、私にしてくれたこととおんなじことしてたんだなぁって思ったら、胸がギュウッと苦しくなって。
嫉妬してるって、自覚した。
吉野先輩も心の片隅にいて、目の前には雅貴がいて。
どれだけ自分勝手で傲慢な女なんだろうって思って自己嫌悪してるうちに朝になっちゃった。
でも、実はーーそれだけじゃなくて。
ずっとずっと、思い出してたの。
ーー雅貴との、『大人のキス』を。
自分ってこんなにいやらしいヤツなんだって、初めて知った。
だってもう。今も。
雅貴とまた、キスしたい……。
私は自然と、自分の唇に指を重ねた。
◇
「あ、これは隠し切れるか微妙かもなぁ」
私は三面鏡を見ながら目の下のクマを見て絶望する。くっきりバッチリ、すごい青クマ。さすが寝不足2日目だわ。
「んー。これが限界だなぁ」
青クマに、オレンジ色のメイクを重ねて、なんとか青クマを押さえつける。
「今日行けば明日は土曜日でお休みだし。今日をなんとか、乗り切ろう!」
◇
「あ……」
私がドアをガチャリと開けると、タイミングピッタリに雅貴もドアを開けたので、雅貴のドアの前で待ち伏せしてみた。
「あ、雅貴。お、おはよ……」
今日の雅貴も、相変わらずかっこよかった。
水色のストライプのシャツが私のワンピースと被っちゃってなんだか照れ臭いけど、爽やかさが滲み出てる。
ーーもっとちゃんと雅貴のこと見られると思ったけれど。昨日の出来事を思い出してしまって、なかなか雅貴の顔が見られない。
どうしてもあのキスを思い出してしまう。
口数の少ない私を察してか、雅貴はイジワル気に挨拶をしてきた。
「おはよ、若菜。今日も可愛いよ。それに……昨日の若菜は、美味しかったデスヨ? そのオレンジの首に巻いたスカーフは、キスマーク隠してるんだろ?」
ワザと語尾だけ耳元で囁かれた。
「~~!」
顔から火が吹き出しそうっ!
でもこれは多分、雅貴からの応援の意味を含んだからかいだ。「元気出せよ」って。
「ん、ほら、おいで」
そんな私に、雅貴は左手を差し出した。
私は雅貴に右手を添える。
イジワルの引き際がわかっているところも、女心がわかってるなぁって、ちょっと嫉妬しちゃう。
ーーなんか昨日から私、嫉妬ばっかり。
「さぁ、行こうか」
「うん」
指を絡めて歩き出した私たち。
最寄り駅までの、緊張の時間。
本当はもっと私、気を許した雅貴になら喋れるはずなのに、恥ずかしさのあまり口下手になってしまう。
それでも雅貴は、いつもどおり、……ううん。いつも以上に優しく接してくれる。
「ハイ、これ。今日の弁当。今日はオムライスだから」
「ありがとう。すっごく嬉しい。でも、してもらってばっかりでいいのかな」
雅貴はイタズラっ子ぽくニヒッと笑う。
「昨日の夜、前払いでたくさんもらったからダイジョーブ!」
「もう! 雅貴ってば」
ここまでは幸せな時間だったのに、今日職場であんなことやらかしちゃうなんて、私は思いもしなかった……。
◆
「えー。今日の朝礼はここまでにしておいて、みんなに新入社員の紹介をしようと思う。進藤くん、入りたまえ」
「ハイ!」
威勢のいい返事とともに入ってきたのは、新卒らしき見た目の男の子だった。多分営業さんなんだろうなぁ、なぁんて思っていたら。
「進藤祐樹と申します。今日から事務職として入社しました。よろしくお願いします!」
ーー事務職さんなんだ。珍しいなぁ。口下手な私でも、仲良くできたらいいんだけれど。
そう。ここまでは良かったの。
「そうだな、星海くんの下についてもらおう。よく指導してやってくれ」
ーーえ?
「は、はいっ!」
「よろしくお願いします。星海先輩!」
ーーえええええええ~⁉︎
よりにもよって、人見知りの私の下につくの?
こういうのは、葵が適任だよ~!(失礼)
でも、決まったからには仕方ない。
「頼りない先輩だけど、よろしくね。進藤くん」
「よ、よろしくお願いします! 星海先輩」
ーーとりあえず、いい子そうで良かった。
「では以上、解散とする。各自持ち場に戻ってくれ」
部長の掛け声はみんな聞いていないみたいで、営業課は騒ついた。
なんていうか、こう……ワンコ系男子(?)に、みんな釘付けみたい。
それは葵も、例外ではなく。
「進藤くん、いくつ?」
「中途なんで、26です」
「じゃあ、私たちと一緒だね、若菜。あ、私は水澤葵。この子は君の先輩になる星海若菜」
「葵先輩に、若菜先輩ですね!」
ーーワンコ系男子じゃないこの子! 陽キャだ~! 私と正反対だよ(大汗)。
「先輩だって。いい響き~! 実は私たち以降新入社員が入ってこなくてさ。進藤くんが初めての後輩なんだよ。ね、若菜」
「そんな、祐樹って呼び捨てにしてください。同い年ですし。僕は敬語使いますけれど」
「祐樹くんね、了解! 私はそうするわ」
「ありがとうございます。葵先輩」
ーーうーん。私には、ちょっと無理そう。
「私は、進藤くんって呼ばせてもらおうかな。そういうの、慣れてなくて。ごめんね」
「若菜先輩、照れ屋さんなんですね。頑張るのでたくさん教えてくださいね」
「はい。私も頑張るね」
ーー緊張するけど、なんとか取り繕わないと。後輩指導だなんて、重大だもの。
気がつけば、営業職の人たちが私たちを見ていた。うるさかったかな。そうだよね。もう始業時間すぎてるもん。早く退室しなきゃ。
「さぁ、そろそろ戻りましょう?」
「ハイッ」
進藤くんは葵と話を弾ませながら、事務室に戻って行く。私はその後を、ひたひたと。やっぱり葵が先輩のほうが良かったと心から思う。
◇
「午前はお仕事というよりかは施設の中を案内するね。午後は仕事してもらおうと考えてるけど、パソコン、大丈夫かな?」
「大丈夫です」
私は、プリンターやファックスの場所、更衣室やトイレ……あらゆる場所を案内した。
行きながら、事務職の説明も欠かさずに。
「私たちがメインでしてる仕事はね、営業さんのフォローだよ。お客様対応だったり、在庫数をエクセルにまとめたり。注文受けの電話取ったりね」
「そうなんですね」
「あと毎日15時に営業課に行ってお茶とお茶菓子を配るお仕事があってね。輪番制なの。
……恥ずかしいけど、私人見知りだから、未だに緊張するんだぁ。その点、進藤くんは大丈夫そうだね」
ーー次の瞬間、私は耳を疑った。
「人見知りだなんて。可愛いんですね、若菜先輩」
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ーーええっ? なんなの⁉︎ イマドキの男子って、そういうこと、サラリと言うの? 最近の若い子は全く……って、この子私と同い年だった!
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「ビックリさせちゃいましたかね。すみません」
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「ーー冗談じゃ……」
「おおーい! 星海くーん! 悪いけど、これを運ぶの手伝ってくれないか? そこの台車を持ってきてくれー!」
その時、声を掛けてきたのは営業課長だった。
遠くから、大きい荷物の前で手を振っている。
「重たそうですね! 今行きまー……」
ーーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーー。
駆け出したその瞬間だった。
私の意識が、途絶えたのは。
「星海ちゃん!」
消えゆく意識の中で、「星海ちゃん!」って呼ぶ吉野先輩の声が聞こえたのは、きっと、私の気のせいだ。
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