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第24話 直樹先輩とのデート side若菜
しおりを挟む「若菜ちゃん、どこ行きたい? さっき鈴木とタフィーマニアは行ったんだろ?」
「先輩、よくわかりますね! そうなんです。連れ回しちゃったです」
「若菜ちゃんに連れ回されるのなら、俺もされてみたいよ。……でも、さ。今日は若菜ちゃんについて来てほしいところがあって」
「どこですか?」
「あそこだよ!」
先輩は大きな船を指差した。
あれは、予約しないと入ることができない、パーク内をクルーズしてくれるネズミの国屈指の旅客船。通称ネズミんクルーズ!
「先輩、まさか予約してくれたんですか?」
「そ。予約時間があるからさ、2人には悪いけど後攻にさせてもらったんだよね。もう入れるから行こう? ちなみに、乗ったことある?」
「ないです! すごーい!」
私のテンションは爆上がりだ。
まさかあの旅客船に乗れるなんて、夢のようだった。……でも。
「直樹先輩、パークチケットも、旅客船もお支払いしてくださったんじゃあ、私、どうしたら……」
先輩はポンポン、と頭を撫でる。
「デートってこういうもんだろ? それに、若菜ちゃんは可愛いカチューシャ買ってくれたじゃん。俺、似合ってる?」
先輩は照れくさそうに猫のポーズをとってみせる。
ーーう、イケメンさんがするポーズってすごく効果覿面。……ていうか、周りの女子の視線を集めてるよ。さすが、先輩。
「似合いすぎです。可愛いですよ♡」
「ありがと……ニャン、なんてね。ううう、自分で言っててキモい俺。28だぞもう」
「大丈夫ですよ、可愛いニャンコです」
「若菜ちゃんがそう言ってくれるなら、いいか。行こうっ!」
先輩は私の手を取り、ネズミんクルーズへと足を進めた。
ーー私、今、憧れだった先輩と手を繋いでるんだ……。ずっとずっと、好きだった先輩と。
◇
クルーズ内は圧巻の一言だった。
至る所にネズミの国ランドのキャラクターが装飾されており、キャラクターと写真を撮るスペースまで設けられている。
「わぁ! 先輩、タフィーがいますよ!」
「ほんとだ! 一緒に写真撮ってもらおうか」
私たちはタフィー待ちの行列に並んだ。
今までだったら緊張して何も話せなかっただろうけど、不思議とポンポンと言葉が出てくる。
ーーなんでだろう。ネズミの国効果かな。
私は、先輩にも聞いてみたいことがあった。今ならなんだか、聞ける気がする。
「あの、先輩?」
「ん?」
「質問してもいいですか?」
「もちろんだよ」
先輩は繋いだ手の指先を絡めてギュッと握る。
ーー先輩の手、おっきいんだ……。それに、あったかい。
「私の、どこを好きになってくれたんですか? ……いつから、だったんですか?」
「あー。恥ずいヤツか。ホントに聞くの?」
「はい、知りたいんです。だって私、先輩のこと、ずっとずっと、好きだったんです」
先輩はカリッと耳の後ろをかいて、恥ずかしそうに言う。
「ほんと……もっと早く告白すればよかったよ。あのさ、好きになったのは、入社試験の面接の日」
「ええっ⁉︎」
「覚えてないだろうけど、俺、受付にいたの」
「先輩みたいにかっこいい人だったら、受付にいたら覚えてそうですけど……。私すごく緊張してたから」
「あはは。ありがと」
先輩は目を合わさず、タフィーの方を見ている。
「水澤さんと仲良くなったの、入社面接の日だろ?」
「はい、そうです。よく知ってますね」
「最初はなんの気なしに見てただけだったんだ。すごい緊張してる子がいるなあって」
「あははは。私緊張しぃなので」
「そう。自分は緊張MAXなはずなのにさ、同じく緊張してた水澤さんを必死に励ましてただろ?」
ーーそんなことあったっけ?
自分では、よく覚えていなかった。とにかく緊張して、とにかく必死すぎて。
「それで、好きになったんだ。自分より、人のことを大事にできる子なんだなぁって。だから、ほぼ一目惚れだよ」
「えええ……まさか。……恥ずかしいです」
「大丈夫、俺のほうが恥ずかしい」
先輩は私をみてクスリと笑う。真っ赤な顔をした先輩。こんな先輩、見たことなんてない。
ーーあ……でも、佐々木先輩と話していたときの先輩も、同じくらい照れていたかも。
「私、見ちゃったんです。給湯室で話してる先輩と佐々木先輩のこと。デートに誘ってるような感じでした。今まで見たことないような照れ臭そうな顔をしていて、それで、告白シーンかデートにお誘いしてるのかなって。それで……告白前に玉砕しちゃって、雅貴と付き合うことに……」
「そ、だったんだ……」
先輩は切なそうに目を細めて天を仰いだ。
もしかしたら、涙を堪えていそう、そんな気がした。
「あれさ、佐々木にせっつかれてたんだよ。早くしないと、若菜ちゃん、誰かにとられるわよって」
「え?」
「それで、告白ってどうしたらいいかなって相談乗ってもらってて」
「アンタもう28でしょ!」
「って怒られてたところ」
「そうだったんですね」
先輩は、目を潤ませて私を見る。
潤んだ瞳に、吸い込まれそうだった。
真剣で、それでいて熱のこもった優しげな瞳。
何か言いた気で、物憂げな、そんな瞳。
でも、タイミングが悪く、その場では続きを聞けなかった。
「さ、タフィーまで来たぞ! 最高の1枚とってもらおう」
「はいっ! わー! タフィー♡」
「撮りますよ~! ハイ、タッフィー!」
ーーカシャリ。
タフィーにお付きのお姉さんにスマホで撮ってもらった1枚の写真。それも、憧れの先輩との、念願の1枚。
「嬉しいです!」
「俺も。さぁ、上の階に行こうかな?」
「え?」
◇
気がつけば、外は夕焼け色の空だった。
船から見えるネズミの国ランドの、所々にある水辺の水面が、夕焼けを反射してキラキラと光って。
そして、水辺に浮かぶゴンドラに乗る観客たちは、火を灯したランタンを一斉に宙に放っていっている。
恋人も、家族も、友達もーー。
願いを乗せて灯したランタンは空へと浮かび、パーク内の空は今、ランタンに包まれている。
より一層、幻想的な世界のように見えた。
「綺麗……」
「これを見せたかったんだよ。これだけじゃないけどね」
「え?」
こちらへ、コンシェルジュのような男性がやって来た。
「お待たせいたしました。吉野様、2名様ですね? 窓際のお席をご用意しております」
「よろしくお願いします。行こう、若菜ちゃん」
「は、はい……」
ーー全てが夢のようだった。
ランタンが見える席に案内された私たちに、次々と運ばれてくるコース料理。どのお料理も、キャラクターを模していてとても可愛らしい。
「先輩、私こんなの、始めてです」
「それは良かった」
ーー先輩は、経験あるのかな。でも、何故か聞けなかった。
それに、そういうことを聞く暇がないくらい、サプライズは続く。
「お待たせいたしました」
コンシェルジュがシルバートレイに乗せて持ってきた四角い豪奢な青い箱。先輩はお礼を言って受け取った。
「やべ、緊張するな……」
先輩が小声で言ったその言葉は、聞こえなかった。先輩は小箱を手のひらに乗せ、私に向かって箱をパカリと開いた。
「え……」
ーー指輪だった。
「先輩……これ……!」
「もっと早く告白していれば良かったっていう後悔は尽きないけれど。これ、受け取ってくれないかな」
そこにいるのは、クールで優しい先輩ではなく、顔を赤らめた、情熱的な甘い男性。
私の顔も、自然と熱くなる。
「交際0日で言うのもなんだけどさ、結婚前提で付き合ってほしい。どうか、もらってくれるかな。若菜ちゃん。君のこと、愛してるんだ」
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