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 翌日。

「それがね。ヒューゴー殿下は、リネットが私よりも年上に見えたらしくてね。それで妹と婚約したいって、お父様に頼んだらしいの」

 姉のアデラが、朝も早くから学園中に昨日のことを言いふらしてまわっていた。ひと月だけ時間をください。リネットが、そうヒューゴー殿下にすがったとの嘘も交えながら。だが幸いなことに、それを全て信じ、そのことについてリネットを馬鹿にしてくるのは、アデラの取り巻きである一部の男子生徒だけ。大半は──特に女子生徒は、リネットの味方だった。

「見た目じゃなくて、あの馬鹿っぽい雰囲気のせいで、リネット様より年下に見られたとは考えないのだから、おめでたいものだわ」

「本当にね。男に媚びるしか脳がないくせに」

 リネットのまわりに集まった女子生徒が、顔を真っ赤にして怒る。

「ヒューゴー殿下も、顔だけの方だったのね。がっかりだわ。リネット様じゃくて、あのアデラ様を婚約者に選ぶなんて」

 この学園に通うのは、貴族の令息、令嬢ばかりで、王族はいない。王子であるヒューゴーは、城の中で全てのことを学ぶ。だから知らないのだ。学園でのアデラの評判を。

「ありがとう、みんな。話を聞いてもらえて、すっきりしたわ」

 リネットが微笑むと、みなは「とんでもないです!」と意気込んだ。

「お話くださって、良かったです。これから私たち、アデラ様の嘘を撤回しに行きますね!」

「そしてヒューゴー殿下の見る目のなさ、失礼な物言いを、お父様たちにもきっちりご報告しますので!」

 予想以上の怒りに、リネットの方が戸惑ってしまう。だが、それも仕方のないことだと思う。アデラはここにいる令嬢たちの恋人や婚約者を何人も誘惑し、実際に別れさせてしまったことが幾度となくある。男子生徒の中にも、そんなアデラを嫌悪している者もいるが、いつでも取り巻きに囲まれているアデラは、そんなことは夢にも思っていないだろう。男はみんな、私が大好き。心の底からそう思っていそうだ。

(……お姉様のフォローも疲れたし、ヒューゴー殿下とさっさと婚約なり結婚なりして、早く落ち着いてほしい……)

 馬鹿な父親のせいで、多少は面倒なことになったものの、自分も相手も、互いに興味などないのだ。このまま穏やかに時は流れ、アデラとヒューゴーは婚約する。それだけのことだ。

 ──そう、思っていたのだが。


「やあ、リネット」

 城での舞踏会に出席したリネットに、ヒューゴー殿下は笑顔で近付いてきた。
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