惚れた弱みにも、限度がありました。

ふまさ

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 パスカルを誘惑し、口付けしていた侯爵令嬢は、相変わらずのようで。見目の良い女好きな男に、いまだにちょっかいをかけているそうだ。

 だが。侯爵令嬢という立場で表立ってのなにかがないだけで、まわりからの評判はもう、地の底だ。

 知らぬは本人ばかり。

「でもね。きっかけはあの人でも、パスカルはいずれ、ああなっていたと思うわ」

 学園内にあるカフェで、マーシアは正面に座るニコールに言った。ニコールは、そうね、とコーヒーカップをソーサーに置いた。

「哀しいけれど。あの人の持っていた、性質よね」

「あのとき、校舎裏での会話を聞いていなかったら、その性質を知っていてなお、別れる決意ができていなかったかもしれない。そう思うと、ぞっとするわ」

「恋は盲目とは、よく言ったものね」

「洗脳に近いものだったのかも」

 肩を竦めるマーシアに、ニコールは少し声をひそめた。

「──ね。あのときの会話内容、パスカルの学友の婚約者にも、伝えたんでしょ?」

「迷ったけどね。知らない方がよかったっていう人もいるだろうし、なにより、信じてもらえるかわからなかったけど……相手が、同じ学園に通う同級生だったんだもの。黙っているなんて、わたしにはできなかった」

「その後。どうなったの?」

「お礼を言われたわ。彼の素行を調べてみるって。あの様子じゃ、前から疑っていたみたい」

「良かったじゃない」

 うん。答えながらマーシアはカップに口をつけ、ちらっとニコールを見た。

「どうしたの?」

「……ニコールが男性だったら。もしくはわたしが男性だったら、ニコールと結婚したかったなあって」

「ふふ、そうなの? 嬉しいわ」

「本当? だってわたし、今回のことで、たくさんあなたに迷惑かけてしまったわ」

「話を聞いただけよ?」

「それでもわたし、とても助けられたの。ありがとう、ニコール」

 どういたしまして。笑うニコールとは、学園を卒業してからも手紙のやり取りを続け、結婚してからも、交流が途切れることはなかった。

 それでも、宮中伯に嫁いだマーシアは王都に住み、ニコールは地方の貴族に嫁いだため、簡単には会えずにいた。

 けれど。

「──まあ!」

 ニコールから届いた手紙に、マーシアは歓喜の声を上げた。その手紙には、王都に行く用ができたので会いたいわ、というニコールの言葉が綴られていた。

「直接会うのは、何年ぶりかしら」

 ニコールの好物をたくさん用意しなくちゃ。マーシアは自室から出て、居間で寛ぐ夫の元に向かった。

「あなた、聞いてくださいな。わたしの親友のニコールがね──」


 
            ─おわり─

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