21 / 21
21
パスカルを誘惑し、口付けしていた侯爵令嬢は、相変わらずのようで。見目の良い女好きな男に、いまだにちょっかいをかけているそうだ。
だが。侯爵令嬢という立場で表立ってのなにかがないだけで、まわりからの評判はもう、地の底だ。
知らぬは本人ばかり。
「でもね。きっかけはあの人でも、パスカルはいずれ、ああなっていたと思うわ」
学園内にあるカフェで、マーシアは正面に座るニコールに言った。ニコールは、そうね、とコーヒーカップをソーサーに置いた。
「哀しいけれど。あの人の持っていた、性質よね」
「あのとき、校舎裏での会話を聞いていなかったら、その性質を知っていてなお、別れる決意ができていなかったかもしれない。そう思うと、ぞっとするわ」
「恋は盲目とは、よく言ったものね」
「洗脳に近いものだったのかも」
肩を竦めるマーシアに、ニコールは少し声をひそめた。
「──ね。あのときの会話内容、パスカルの学友の婚約者にも、伝えたんでしょ?」
「迷ったけどね。知らない方がよかったっていう人もいるだろうし、なにより、信じてもらえるかわからなかったけど……相手が、同じ学園に通う同級生だったんだもの。黙っているなんて、わたしにはできなかった」
「その後。どうなったの?」
「お礼を言われたわ。彼の素行を調べてみるって。あの様子じゃ、前から疑っていたみたい」
「良かったじゃない」
うん。答えながらマーシアはカップに口をつけ、ちらっとニコールを見た。
「どうしたの?」
「……ニコールが男性だったら。もしくはわたしが男性だったら、ニコールと結婚したかったなあって」
「ふふ、そうなの? 嬉しいわ」
「本当? だってわたし、今回のことで、たくさんあなたに迷惑かけてしまったわ」
「話を聞いただけよ?」
「それでもわたし、とても助けられたの。ありがとう、ニコール」
どういたしまして。笑うニコールとは、学園を卒業してからも手紙のやり取りを続け、結婚してからも、交流が途切れることはなかった。
それでも、宮中伯に嫁いだマーシアは王都に住み、ニコールは地方の貴族に嫁いだため、簡単には会えずにいた。
けれど。
「──まあ!」
ニコールから届いた手紙に、マーシアは歓喜の声を上げた。その手紙には、王都に行く用ができたので会いたいわ、というニコールの言葉が綴られていた。
「直接会うのは、何年ぶりかしら」
ニコールの好物をたくさん用意しなくちゃ。マーシアは自室から出て、居間で寛ぐ夫の元に向かった。
「あなた、聞いてくださいな。わたしの親友のニコールがね──」
─おわり─
だが。侯爵令嬢という立場で表立ってのなにかがないだけで、まわりからの評判はもう、地の底だ。
知らぬは本人ばかり。
「でもね。きっかけはあの人でも、パスカルはいずれ、ああなっていたと思うわ」
学園内にあるカフェで、マーシアは正面に座るニコールに言った。ニコールは、そうね、とコーヒーカップをソーサーに置いた。
「哀しいけれど。あの人の持っていた、性質よね」
「あのとき、校舎裏での会話を聞いていなかったら、その性質を知っていてなお、別れる決意ができていなかったかもしれない。そう思うと、ぞっとするわ」
「恋は盲目とは、よく言ったものね」
「洗脳に近いものだったのかも」
肩を竦めるマーシアに、ニコールは少し声をひそめた。
「──ね。あのときの会話内容、パスカルの学友の婚約者にも、伝えたんでしょ?」
「迷ったけどね。知らない方がよかったっていう人もいるだろうし、なにより、信じてもらえるかわからなかったけど……相手が、同じ学園に通う同級生だったんだもの。黙っているなんて、わたしにはできなかった」
「その後。どうなったの?」
「お礼を言われたわ。彼の素行を調べてみるって。あの様子じゃ、前から疑っていたみたい」
「良かったじゃない」
うん。答えながらマーシアはカップに口をつけ、ちらっとニコールを見た。
「どうしたの?」
「……ニコールが男性だったら。もしくはわたしが男性だったら、ニコールと結婚したかったなあって」
「ふふ、そうなの? 嬉しいわ」
「本当? だってわたし、今回のことで、たくさんあなたに迷惑かけてしまったわ」
「話を聞いただけよ?」
「それでもわたし、とても助けられたの。ありがとう、ニコール」
どういたしまして。笑うニコールとは、学園を卒業してからも手紙のやり取りを続け、結婚してからも、交流が途切れることはなかった。
それでも、宮中伯に嫁いだマーシアは王都に住み、ニコールは地方の貴族に嫁いだため、簡単には会えずにいた。
けれど。
「──まあ!」
ニコールから届いた手紙に、マーシアは歓喜の声を上げた。その手紙には、王都に行く用ができたので会いたいわ、というニコールの言葉が綴られていた。
「直接会うのは、何年ぶりかしら」
ニコールの好物をたくさん用意しなくちゃ。マーシアは自室から出て、居間で寛ぐ夫の元に向かった。
「あなた、聞いてくださいな。わたしの親友のニコールがね──」
─おわり─
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
第一王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったようです
睡蓮
恋愛
姉であるオルシナと、妹のマリーシア。マリーシアは小さな時から周囲の人物を次々と味方につけ、オルシナの事を孤立させていった。マリーシアに対しては誰もがちやほやと接してくるのに、オルシナに対しては冷たい態度を取る者がほとんどで、それがこれから先も続くものと思われていた。そんな中、二人のもとに一通の手紙が届く。差出人はフォルグ第一王子であり、二人のうちのいずれかを婚約者として迎え入れるということが書かれていた…。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。