どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

ふまさ

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 ベイジルの機嫌は、過去最高に悪かった。一人きりの馬車内で、苛々と貧乏揺すりをする。

 朝に屋敷に来いと命じたクラリッサは一向に姿を見せず、こちらから赴いてみれば昨日から戻っていないとのこと。よくよく聞けば、父親の元に向かったというではないか。

 クラリッサに愛されていると信じて疑わないベイジルは、手紙を送ったことを叱られ、慌てたクラリッサが、ベイジルに嫌われるのが怖くて、待ちきれずに出立したと思っていた。

「……あの馬鹿女がっ」

 きちんと言いつけを守り、浮気は誤解だったと弁明しているのならまだ許せるが、あの女は、ベイジルが本気でネリーを愛していると信じ込んでいた。ベイジルが幸せになるために婚約を解消するとまでぬかしていたから、気が気でなかった。

「余計なことを……いや、元をただせばネリーのせいか……っっ」

 ベイジルにとって、支配下に置いていたと思っていた女二人に、同時に裏切られたのだ。その怒りは相当なものだった。

「あんな女、すぐに捨ててやるっ」

 顔と身体が好みで、なおかつ素直で疑うことを知らない、ベイジルにとって都合がよく、支配欲が満たされる相手だったから、傍に置いていた。なのに、クラリッサに関係を打ち明けるほどの馬鹿だとは思っていなかった。

 浮気がばれたら、ネリーだって慰謝料を請求される立場になるというのに。

 正直、好みなのはネリーだ。だが次男のベイジルにとって、婿養子となり、いずれ領主となれるクラリッサとの結婚は、なににも勝る、魅力的な条件だった。

「モンテス伯爵と父上はきっと、クラリッサよりぼくを信用してくれているはずだから。ちゃんと事情を説明して……あとは面倒だが、当分はクラリッサの機嫌をとらないとな」

 ベタ惚れしている自分が浮気をしていたのだ。相当なショックだったろう。絶望して自害でもされたらたまったものじゃない。

 ぶつぶつと独り言を呟くベイジル。馬車で移動。宿で宿泊。それを繰り返し、ベイジルがモンテス伯爵の領地に着いたのは、クラリッサたちから遅れること、約一日。

 まもなく日が落ちる。

 そんな夕刻のことだった。

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