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「あの。リチャードさん」
セシリアが顔を向けると、リチャードは「はい。何でしょうか」と柔く微笑んだ。ああ、この人も、優しい人だわ。思って、セシリアは心があたたかくなった。
「夕食作り、お手伝いしてもよろしいでしょうか?」
「おや。でも」
「わたし、何のお役にも立てないかもしれませんが、家事なら毎日やってました。だから、お願いします」
セシリアが頭をさげる。リチャードは僅かに目を見張ったが、何も聞かずに、一つ、笑った。
「では、お言葉に甘えるとしましょう」
食堂にある四人がけのテーブルの上に、いくつもの食事が並べられている。セシリアの正面に座ったハロルドが、スープを一口、口に含んだ。セシリアはそれを緊張した面持ちで見守っていた。ハロルドの背後に立つリチャードは、ニコニコしている。
「旦那様、スープのお味はいかがですか?」
「うん。美味しいよ。さすがはリチャード」
ふふ。
リチャードが笑う。
「そのスープは、セシリア様が作ってくれたものですよ」
ハロルドは「え? 本当かい?」と、目を丸くしながらセシリアを見た。
「は、はい。お口に合ったようで、良かったです。ホッとしました」
「そうか……これは驚いた。リチャードの料理の腕前は相当なものだと思っていたが、まるで遜色がない」
「そ、それは言い過ぎです。わたしが料理をするようになったのは、ランドル様と婚約してからですから……まだまだ経験は浅いです」
「婚約してから?」
「……はい。ランドル様に、よくお弁当を作っていましたので」
セシリアが薄く笑う。お弁当を作っていた理由は、自ら望んだというよりも、ランドルに乞われていたからというのが大きかったから。
──全ては、シンディーのために。
「……セシリア?」
「何でもありません。少しでもお役に立てて、嬉しかったです」
頬を緩めるセシリア。ハロルドは、かちゃ、とスプーンを置いた。
「セシリア。きみは、きみがいたいだけ、此処にいていいんだからね」
「え? いえ、そんなわけには……」
セシリアは明日には此処を出て、住み込みで働けるところを探すつもりでいた。そんな簡単なことではないだろう。そもそも、こんな自分を雇ってくれるところなどあるのだろうか。でも、いい。探して、探して。それでもどうしても見つからなかったら、諦めがつく。
そしたらもう──。
「若いお嬢様がいるというのは、いいものですねえ。それにセシリア様は、こんな年寄りの話しも、とても真剣に聞いてくれて」
ニコニコ。ニコニコ。
リチャードが嬉しそうに笑う。
「はは。こんなに楽しそうなリチャードを見るのは、久しぶりだな」
「ええ、ええ。セシリア様は、私の知らない隠し味など知っておられて。まだまだ知らないことだらけだと、嬉しくなりました」
「あ、それは……使用人のアルマに、教えてもらいまして」
生気が戻ったように、頬に赤みがさすセシリア。気付いたハロルドが「そうなんだ」と、優しく目を細める。
「アルマは何でも知っていて、家事のちょっとしたコツとか、たくさん教えてくれました。それにすごく優しくて、頼りがいがあって。まるで、本当のお姉様のようでした」
「……きみが屋敷を追い出されたこと、その人は知っていたの?」
「はい。伝えました。そしたら、わたしよりよほど怒ってくれて……それに、使用人を辞めて実家に帰るから、一緒に行きましょうとまで言ってくれたんです。とても嬉しかったんですけど、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないので、実家に行くから大丈夫だと言って断ったんです」
ハロルドは、色んな疑問を呑み込みながら「──そう」と、微笑んだ。ここで問い詰めれば、セシリアを困らせてしまう。そうしたら、セシリアはますます此処を出ていくと言って聞かないと思ったから。
セシリアが顔を向けると、リチャードは「はい。何でしょうか」と柔く微笑んだ。ああ、この人も、優しい人だわ。思って、セシリアは心があたたかくなった。
「夕食作り、お手伝いしてもよろしいでしょうか?」
「おや。でも」
「わたし、何のお役にも立てないかもしれませんが、家事なら毎日やってました。だから、お願いします」
セシリアが頭をさげる。リチャードは僅かに目を見張ったが、何も聞かずに、一つ、笑った。
「では、お言葉に甘えるとしましょう」
食堂にある四人がけのテーブルの上に、いくつもの食事が並べられている。セシリアの正面に座ったハロルドが、スープを一口、口に含んだ。セシリアはそれを緊張した面持ちで見守っていた。ハロルドの背後に立つリチャードは、ニコニコしている。
「旦那様、スープのお味はいかがですか?」
「うん。美味しいよ。さすがはリチャード」
ふふ。
リチャードが笑う。
「そのスープは、セシリア様が作ってくれたものですよ」
ハロルドは「え? 本当かい?」と、目を丸くしながらセシリアを見た。
「は、はい。お口に合ったようで、良かったです。ホッとしました」
「そうか……これは驚いた。リチャードの料理の腕前は相当なものだと思っていたが、まるで遜色がない」
「そ、それは言い過ぎです。わたしが料理をするようになったのは、ランドル様と婚約してからですから……まだまだ経験は浅いです」
「婚約してから?」
「……はい。ランドル様に、よくお弁当を作っていましたので」
セシリアが薄く笑う。お弁当を作っていた理由は、自ら望んだというよりも、ランドルに乞われていたからというのが大きかったから。
──全ては、シンディーのために。
「……セシリア?」
「何でもありません。少しでもお役に立てて、嬉しかったです」
頬を緩めるセシリア。ハロルドは、かちゃ、とスプーンを置いた。
「セシリア。きみは、きみがいたいだけ、此処にいていいんだからね」
「え? いえ、そんなわけには……」
セシリアは明日には此処を出て、住み込みで働けるところを探すつもりでいた。そんな簡単なことではないだろう。そもそも、こんな自分を雇ってくれるところなどあるのだろうか。でも、いい。探して、探して。それでもどうしても見つからなかったら、諦めがつく。
そしたらもう──。
「若いお嬢様がいるというのは、いいものですねえ。それにセシリア様は、こんな年寄りの話しも、とても真剣に聞いてくれて」
ニコニコ。ニコニコ。
リチャードが嬉しそうに笑う。
「はは。こんなに楽しそうなリチャードを見るのは、久しぶりだな」
「ええ、ええ。セシリア様は、私の知らない隠し味など知っておられて。まだまだ知らないことだらけだと、嬉しくなりました」
「あ、それは……使用人のアルマに、教えてもらいまして」
生気が戻ったように、頬に赤みがさすセシリア。気付いたハロルドが「そうなんだ」と、優しく目を細める。
「アルマは何でも知っていて、家事のちょっとしたコツとか、たくさん教えてくれました。それにすごく優しくて、頼りがいがあって。まるで、本当のお姉様のようでした」
「……きみが屋敷を追い出されたこと、その人は知っていたの?」
「はい。伝えました。そしたら、わたしよりよほど怒ってくれて……それに、使用人を辞めて実家に帰るから、一緒に行きましょうとまで言ってくれたんです。とても嬉しかったんですけど、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないので、実家に行くから大丈夫だと言って断ったんです」
ハロルドは、色んな疑問を呑み込みながら「──そう」と、微笑んだ。ここで問い詰めれば、セシリアを困らせてしまう。そうしたら、セシリアはますます此処を出ていくと言って聞かないと思ったから。
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